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迷子日記  作者: 西向く侍
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ぼくについて

「自分を嫌いになりたくない」

 高校はかろうじて卒業した。

 大学に行くこともすすめられた。

 何かに所属していないと腑抜けた生活をすることは分かっていた。

 学費もせっかく支給されるのだ。行かぬは損だ。とも言われた。

 分かっていたけど、ぼくはなにもしないことを選んだ。

 何かに定期的に通うのも嫌いだったし、興味がないことに従事するのも嫌だった。

 クズってやつだ。

 生来の気質か。飽き性というのもあって、学校も長続きしないし、物事が続かない。

 ぼくは社会に出て働くのは向いてないと思った。

 学生のころは、毎日通学してる友人たちを見ながら「ぼくもあんな感じのイケてる子になれたらなぁ」と、うらやんだりもした。だけど、いつかその気持ちも落ち着いてきて「これがぼくなんだろうな」というような安定も見つけた。

 それがたまに揺れるときもある。恋であったり、進路であったり、そういったものを考えるときにぼくの出生がいろいろと邪魔だった。

 たまには働いてみようか。と思い至り、履歴書を書くと遺伝子情報の提出を求められる。

 ぼくみたいなナチュラルベイビーに対して面接官は良い顔をしない。

 病歴は? 精神的な疾患は?

 みんな、目を丸くして訊いてくる。

 ぼくのせいじゃないところで責められても仕方がない。

 無計画にお互いの腰を打ち付けて、必死こいて産んでくれた両親に訊いてくれ。両親への連絡先も付記しているのに。

 ナチュラルベイビーの肩身は狭い。

 自然妊娠の自己責任。

 憐れまれるぼくたち。

 世の常として、若い夫婦は手をつないで妊娠計画をライフプランナーに伺う。

 そういった計画性がない人は白い目で見られるし、結果生まれたぼくはクズ人間。

 兄も同じ土俵だけど、彼は頑張り屋みたいで歯を食いしばって生きてるみたい。すごい奴だと思う。

 ぼくはそういうのいいかな。と思って、ぼくはなにもしないことを決めた。

 アンドロイドが活躍する時代。ぼくが無理して働く必要もない。

 進路指導の教諭たちはそんなぼくをやはり白い目で見た。

 微笑む先生もいたけど、その笑みの向こうに呆れを察した。

 やはり、ぼくはクズ人間さ。

 高校を卒業した時には役所から口座の開設を指示された。

 まったくなんの権限があってだと最初は気分が悪かった。やっと学校も出たのだから、指図されたくない! なんて思ってたけど、やっぱり勝手が分からんので、話を聞けば「成人に伴う基礎所得補障」分の振込口座ということだった。

 ぼくは個人名義の口座など持ったこともないので、よい機会だと思い口座を作った。

 口座を作るのにもおっくうなクズ人間。

 生活力のかけらもなかった。クズ人間。

 クズ人間にはこの制度、なかなかよかった。

「生活の向上も求めず、ただ生きていればよい」と考えるようなぼくにとっては最高の制度だ。

 役所からは定期的にお金は振り込まれるし、それ以上のお金が欲しいならどこかで働けばいいんだ。

 単純だ。

 生きるだけなら苦労はしない。

「おまえ、そんなんじゃまともにやっていけないぞ!」とか見えない不安でぼくを脅してた大人たちを全員吹っ飛ばしてやりたくなる。しないけど。

 雨が降れば雨を見ていたし、晴れた日は散歩していた。

 市民カードを提示すれば、図書館の蔵書に触れることもできた。

 特に困ることはなかった。

 散歩をしていたら、シティの清掃ロボットにゴミとして認識されたこともあった。

 その時はさすがにもっと頻繁にシャワーを浴びようと決意した。


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