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そうしていつからいたのか、隣にはオリアスの姿があった。
「よう」
相変わらず屈託のない笑みを浮かべている。ノアは彼を悪魔と言った。アリヤはまだ、どこかでそれを信じたくなかった。
「貴方は、悪魔なの……?」
その問いに、オリアスは目を丸くした。
「さっきの会話もう忘れたのかよ。まぁ、人間は俺をそう呼ぶな」
「私をどうするつもりなの、いい加減答えてよ」
「どうもこうも。最初の契約通り、あんたの願いごとが叶ったらあんたの魂をもらう。それだけだ」
ノアの言ったことは本当だった。彼は、私と私の魂を掛けて契約をした。それはこの世界では、恐らく禁忌だ。ロンの反応から、軽蔑されるべき行為なのだろう。
アリヤの反応から恐れを感じたのか、オリアスはため息をつく。
「やれやれ、だから契約内容は言わなかったんだ。悪いがあんたが嫌と言っても、やめることはできない」
「どうして?」
「契約したからだ。悪魔と一回契約すれば、それは一生無効には出来ない。あんたは死なないで済むからいいかもしれないが、俺は契約中は他の人間と契約出来ないし、あんたに放棄されたら困る」
「私、死なないの?」
オリアスはそこでしまったという顔をした。
「ああ。あんたは願いを叶えるまで死なない。あんたは契約完了まで、俺の守護下にある」
オリアスからしてみれば、それは人間が喜ぶことだと思ったのだろう。しかし、アリヤにしてみれば一生死なないように生きるなんてごめんだった。
覚悟が決まった。
「そうね、私もこのままは嫌だな」
そこでアリヤはオリアスに、笑顔を向けた。
「私、貴方のことまだ信じてるのよ」
「悪魔なのにか?」
「まぁね。でも、貴方は私の看病もしてくれたし、ご飯もくれた。名前も教えてくれたじゃない?あれも嘘じゃなかった。それだけで、信用できるわ」
そこでオリアスは笑った。
「お前ってすぐ騙されそうだなぁ」
「願いを叶えてくれるんでしょう?」
「言っとくけど、俺はあんたの正確な願いは知らない。あんたが言い切る前に倒れちまったからな、それを見つけるのは、お前がすることだ」
「貴方はただ導くだけ、ということね」
「不満か?」
「ううん、十分」
先程ロンには、無駄死にするだけだと言われた。でもどうせ死んでるなら、思い切り生きたいように生きたい。自分が最後に思ったことは何なのか、知りたい。
それが、今の私の願いだ。