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そこで、男が立ち上がり、部屋から出て行った。あとには、三人が残る。
ノアはアリヤに、優しく微笑んだ。
「あいつのことは気にするな、夜風に当たりたいんだろう」
「あの人は……名前は何というんですか」
ノアがああ、という顔をした。
「名前はロン。あんたが姫だった時の従者だよ」
従者……自分にそんな人がいたなんて信じられない。向こうも、理解出来ないでいるのだろう。
「取り敢えず今日はもう休め。これからのことは、明日決めよう」
「これからのこと……?あの、私たちはローレアに……」
「悪いことは言わないからやめておけ。言ったろ?お前は死んだんだ。国に帰っても、混乱を招くだけだ」
「じゃあ私はどうすれば……」
「だから明日それを考えよう。なに、ここで一緒に暮らせばいい。それならあやつも文句は言うまいよ」
ノアはそう言って両手を広げた。確かにそれなら、何も問題はないのかもしれない。でも……
二階の部屋を借りれたが寝られず、アリヤは外に出た。外は、夜が深まったが、先程より星の光を強く感じる。ふと、泣きたくなった。その時。
背後から、物音がした。振り返ると、ロンが立っていた。
「ロン、あなたも眠れないの」
そう問いかけると、ロンは驚いた顔をした。なんでだろうと思うと、「名前」と言われた。そこで何を言いたいか気づく。
「あ、ごめん。ノアさんから聞いたの」
ロンはその答えを聞くと、途端に嫌そうな顔をした。気まずい沈黙が流れる。
「私は帰るから、気にしないで」
耐えきれなくなり 部屋に戻ろうとすると、腕を掴まれた。見ると、彼は何か思いつめた顔をしている。
「どうするつもりだ」
その声は低い。最初に聞いた声は、もっと優しかった。きっと、本来は優しい人のはずだ。自分が彼をこんな風にしてるのかと思うと、泣きたくなってくる。
「貴方は私がいたら困る?でも私だって何で今自分がこうしているのか分からないのよ」
そこで男は黙った。
「国に行く気か」
「そうだって言ったら?」
そこで彼は、顔を上げた。
「貴方はもう、ローレアに行かない方がいい。また、無駄死にするだけだ」
そう言って彼はアリヤから手を離し、部屋に戻っていった。