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アリヤは、じっと男を見る。彼は短髪の黒髪に、黒い瞳、黒の旅装を身につけている。体格は細身ではあるが、先程の俊敏な動きから、虚弱ではないことが分かる。
静かな夜のような青年だ。
その彼が今、自分を強く見てくる。その眼差しは決してその存在を認めないという、強い意思が感じられた。
アリヤはそれにも驚いたが、彼の先の発言にも驚いた。
姫?なんのこと?私?
彼の言葉に最初に反応したのは、ノアだった。
「おい、何を言ってるんだ、さっき話したろ、彼女は間違いなく、別人なんかじゃない」
「しかし、彼女は髪も瞳も、姫とは色が違う。他人の空似ですよ」
「そなたと私が姫を間違えるはずあるまい!髪と瞳が違うのは、彼女が契約した証だ!」
「高貴なあの方が、契約などするはずがない」
「あ、あの~…」
そこでアリヤは口を挟む。
「皆様、さっきから何を言ってらっしゃるんですか?オリアスは何者か、皆分かってるんですか。私のことも……知ってらっしゃるんですか」
「そなた、彼が何者か分からないで一緒にいたのか」
その返事はノアだった。リアは困惑しながらも頷く。
「はい、私が怪我してたのをずっと看病してくれたみたいだし……彼しか頼る人がいなかったから」
「怪我……か」
そう言ってノアは立ち上がり、アリヤに近づいた。そうして彼女の白い服の襟元を覗き込む。
「え、ちょっとなんですか!?」
アリヤは驚いて身を引くが、対するノアは神妙な表情をしている。
「間違いない。彼女は姫だ」
男も何かを理解して、より険しい表情になる。何がなんだか分からない。
ノアはアリヤを見下ろしながら、決意したように言った。
「そなたはローレア国第一姫、アリヤだ。敵国の人間により殺されたはずのな」
そこでアリヤは目を見開く。
そうしてノアは彼女に言う。
「そなたは、悪魔に魂を売り、この世に戻ってきた、それが何故かは、私には分からぬ」
悪魔と言われ、オリアスが微笑んだ。アリヤはその笑顔で、全てが真実だと悟る。
そこで男の眼差しの意味も理解できた。自分はもう、この世にいるべき人間ではないということにも。