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まずは食事をどうぞと、ノアに村の中で1番大きい、岩で作られた住居に招かれた。
そうしてテーブルに座ると、村人の手によって次から次に料理がはこばれてきた。色とりどりの山菜や木の実、魚や肉が並ぶ。
ノアはその慌ただしい中、中央奥の椅子に座り、グラスにワインを注いでいる。先程の村人の彼女に対する対応といい、恐らく彼女がこの部族の長なのだろう。年齢はまだ30もいってないが、その濃茶のまっすぐで短い髪と、切れ長の目が彼女の意思の強さ、気品を物語っていた。
村人は用意をし終えると、そそくさと自分たちの家に戻っていく。中にはアリヤやオリアスに先程は失礼したと謝るものもいた。一番ガタイの良かった男はザンと名乗り、非礼を詫びた。しかし、オリアスには恨みの眼差しを送り、去っていった。言われたことを根に持っているのだろう。
そうして部屋には、アリヤとオリアス、ノアと先程アリヤを助けた男の4人だけが残った。
アリヤは、村人の変わった態度と、このもてなし方に戸惑いを隠せなかった。それはノアが「泊まっていけ」と言ってからだと分かる。自分たちは異質な来訪者から、もてなされる客人へと変わったのだ。
でもどうしてか?とアリヤが延々考えていると、ノアが口を開いた。
「さぁ、食事の準備ができた。どうぞ遠慮なく食べてくれ」
「有難うございます。すみません、まさかこんなお世話になるなんて……」
「なに、これも何かの縁だ。気にするな。どうぞ」
「頂きます」
そうして食べてみると、どれも美味しかった。思わず食に集中していて、一通り食べた時隣のオリアスが食べていないことに気づいた。
「食べないの」
「食欲ないんだ」
そういえば、食事をしている姿を見たことがない。そう思っていると、
「食欲がないのではなく、食べれないのだろう」
ノアだった。彼女はオリアスを見据えて言った。
「そなた、人間ではないな」
自分もそれには薄々気づいていた。それをノアのように真正面から言えなかったのは、怖かったからだ。オリアスがでなく、何かが。
オリアスはノアの言葉に、小さく肩をすくめた。
「ま、ばれてたわな。じゃあこの豪華な食事はなんだ、イヤミか」
「そんなことはない。村人にはそなたの分だけ準備しないと怪しまれるだろう。だから準備した。心配せずとも、それらは明日も使って私がおいしく頂く。それより。……その少女はどういうことだ」
そう言ってノアはアリヤを見た。それは強く、何か怒りも滲んでいた。対してオリアスは飄々としている。
「知り合いか。なら話が早い。こいつとは契約したんだ、ローレアに連れていくと。だから今こうしているのは俺の意思でなく、こいつの意思だ」
「そうなのか?」
ノアはアリヤに尋ねた。アリヤは縮こまる。
「すみません、私何も憶えてなくて……」
「私のことも、彼のことも忘れたのか?」
その時、目の前の男の顔も上がった。ますますアリヤは小さくなる。
「すみません……」
ノアは途端に、悲しそうな顔をする。その顔は、先程までの彼女から想像できなかった。
「そうか……では自分のことも、何も憶えてないのだな」
「はい……」
「そうか、そなたはだな……」
「違います」
そこで先程から無言を貫いていた男が発言した。皆が一斉に彼を見る。しかし彼はその視線に怯むことなく、アリヤの顔をまっすぐに見つめ言った。
「彼女は、姫ではありません」