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貴方に願いを言うために  作者: 紺青
第一章 始まり
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「それで?これは役に立ちそうか」


 酒を飲みながら、来訪者に尋ねた。来訪者はこちらを振り返らずそれを見つめたまま、問いに答えた。


「ああ……すごいな、どうやって手に入れたんですか?」

「まぁね。いろいろ裏ルートがあるんだよ。あんたのような表の人間が知ることじゃない」

「そうですか。でもそんなことはありません。自分は昔から裏の人間です」


 そこで来訪者は自嘲気味に笑う。それには苦笑で返すしかない。彼は人から見れば表の人間だ。しかし、彼にとっては違う。それもまた、当然とも言える。

 とそこに、何やら外が賑やかになる。


「何かあったのか?」


****


「おい、どういうことだ」

「ちょっと、どういうことよ」


 オリアスとアリヤはそう言ってお互い顔を見合わせた。


 先程目の前が真っ白になったかと思うと、次は地面に激突した。そうして次に顔を上げると、周りは木々が生い茂る、つまりまだ山の中だ。空はまだ暗く、先程からそれほど時間は経っていない。


「おいお前ちゃんと願ったのかよ!?何でまた山にいんだよ!」


 その言葉に、アリヤも思わず真っ赤になる。


「な、何よ!?あんたが力がなかっただけじゃない!このホラ吹き大魔神!」

「はぁ!?お前何だとこの……!」

「誰だ貴様ら!」


 喧嘩の途中で、どこからか声がする。見るとそこに、ガタイがとてつもなくいい強面の男が目の前にいた。更に奥には、子供や大人数十人が遠目から2人を囲んで観察している。

 よく見るとここは何か部族の村だ。自分たちはどうやらその村の中央に落ちてしまったらしい。


「ここはシーザ族の領域だぞ。一体何用だ」

「あ、違うんです!私たちはただの通りすがりで……」

「ただの通りすがりが空から降ってくるか!しかもこんな夜分に!」


 一蹴されてしまった。


「さてはお前ら、リセプトの手の者だな?あちらは魔法大国だからな」


 そうなの?と思わずオリアスを見ると、違う違うと首を横に振られた。


「違うらしいです」

「目の前で打ち合わせなどするな!」


 打ち合わせでなく、私だって知らないんですと言いたい時、オリアスは「うっさいな〜おっさん。静かにしろよ」と言った。


「お、おじさん……?私はまだ17だ!」


 その言葉にはアリヤも驚いた。軽く30は超えて見える。もっとかもしれない。


「え、本当?40くらいかと思った」


 よせばいいのにオリアスは素直に言った。男の顔はどんどん蒼白になっていく。どうやら気にしているらしい。


「こっ、このやろう……!もう我慢ならねぇ!不法侵入者を捕らえるぞ!」


 そこで見守っていた周りの若い男たちも一斉に、2人を目掛けて走り出した。突然の状況に動けないでいると、ふと体が浮いた。オリアスがアリヤを両腕で抱え、一瞬だけ浮いた。2人を捕獲しようとしてたものは目標物を急に無くして止まれず、お互いがぶつかるはめになった。


「う、浮いた!」

「やはりあいつら、魔法を使ってる!」


 外野がそう叫ぶ中、オリアスは着地した。と同時に、アリヤを地面に落とす。


「いった!」

「あ、わりぃ。あまりにも重くて」

「はぁ!?あんたもう一回言いなさいよ……!」


 そこで男がオリアス目掛けて拳を振ってきた。オリアスは更に体を浮かせたりして次々と来る男を避けて行く。そんな中、1人の男が拳を振り上げた。案の定オリアスは避けたが、しかし、一個避けた先に、アリヤがいた。


 男は速度を止めることが出来ず、アリヤの顔に拳が当たろうとした。

 その時。

 アリヤと男の間に、1人の男が割り込んだ。男は手のひらのみで拳を受け止めた。


「そこまで!」


 大きく澄んだ声が聴こえた。皆が声がする方に振り向くと、1人の長身の女性が立っていた。


「ノア様!」

「全く、何をやっているんだ。情けない」

「し、しかしノア様。この者たちはリセプトの手先かも……」

「彼らが使ったのは魔法ではない。ここでは魔法は使えないからな」


 そうしてノアと呼ばれた女性は、オリアスの前に立った。


「うちの連中が失礼なことをした。しかし貴女方がいきなり来訪したことも事実だ。我が村にいか用か?」

「いや、俺たちはローレアに行くと思ってたんだが、何故かここに出ちまって。ここはローレアか?」

「まぁ、ここはローレア国の山岳地帯だ。だが中心部には遠いな。もしあれだったら、そこの人に連れて行ってもらえよ。彼も帰るはずだから」


 ノアはそう言って、先程アリヤを助けた男を見た。男は静かに頷いた。


「はい。中心部とまではいきませんが、途中までならご案内致します」


 そう言う背中を、アリヤは見た。まだお礼を言っていない。


「あ、あの、助けて頂き有難うございます」


 アリヤのお礼に、男が振り返る。


「いや、ただ体が勝手に動いただけで……」


 そこで男は息を止める。ノアもまた、目を見開く。なんだろう。

 2人は自分を見たまま、固まってしまっている。何か自分の顔についているのか。


 2人は静かに目を見合わせた。そうしてしばらく経った頃、

「取り敢えず今日はもう遅い。泊まっていけ」

と、ノアがアリヤたちに向かって言った。

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