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「それで?これは役に立ちそうか」
酒を飲みながら、来訪者に尋ねた。来訪者はこちらを振り返らずそれを見つめたまま、問いに答えた。
「ああ……すごいな、どうやって手に入れたんですか?」
「まぁね。いろいろ裏ルートがあるんだよ。あんたのような表の人間が知ることじゃない」
「そうですか。でもそんなことはありません。自分は昔から裏の人間です」
そこで来訪者は自嘲気味に笑う。それには苦笑で返すしかない。彼は人から見れば表の人間だ。しかし、彼にとっては違う。それもまた、当然とも言える。
とそこに、何やら外が賑やかになる。
「何かあったのか?」
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「おい、どういうことだ」
「ちょっと、どういうことよ」
オリアスとアリヤはそう言ってお互い顔を見合わせた。
先程目の前が真っ白になったかと思うと、次は地面に激突した。そうして次に顔を上げると、周りは木々が生い茂る、つまりまだ山の中だ。空はまだ暗く、先程からそれほど時間は経っていない。
「おいお前ちゃんと願ったのかよ!?何でまた山にいんだよ!」
その言葉に、アリヤも思わず真っ赤になる。
「な、何よ!?あんたが力がなかっただけじゃない!このホラ吹き大魔神!」
「はぁ!?お前何だとこの……!」
「誰だ貴様ら!」
喧嘩の途中で、どこからか声がする。見るとそこに、ガタイがとてつもなくいい強面の男が目の前にいた。更に奥には、子供や大人数十人が遠目から2人を囲んで観察している。
よく見るとここは何か部族の村だ。自分たちはどうやらその村の中央に落ちてしまったらしい。
「ここはシーザ族の領域だぞ。一体何用だ」
「あ、違うんです!私たちはただの通りすがりで……」
「ただの通りすがりが空から降ってくるか!しかもこんな夜分に!」
一蹴されてしまった。
「さてはお前ら、リセプトの手の者だな?あちらは魔法大国だからな」
そうなの?と思わずオリアスを見ると、違う違うと首を横に振られた。
「違うらしいです」
「目の前で打ち合わせなどするな!」
打ち合わせでなく、私だって知らないんですと言いたい時、オリアスは「うっさいな〜おっさん。静かにしろよ」と言った。
「お、おじさん……?私はまだ17だ!」
その言葉にはアリヤも驚いた。軽く30は超えて見える。もっとかもしれない。
「え、本当?40くらいかと思った」
よせばいいのにオリアスは素直に言った。男の顔はどんどん蒼白になっていく。どうやら気にしているらしい。
「こっ、このやろう……!もう我慢ならねぇ!不法侵入者を捕らえるぞ!」
そこで見守っていた周りの若い男たちも一斉に、2人を目掛けて走り出した。突然の状況に動けないでいると、ふと体が浮いた。オリアスがアリヤを両腕で抱え、一瞬だけ浮いた。2人を捕獲しようとしてたものは目標物を急に無くして止まれず、お互いがぶつかるはめになった。
「う、浮いた!」
「やはりあいつら、魔法を使ってる!」
外野がそう叫ぶ中、オリアスは着地した。と同時に、アリヤを地面に落とす。
「いった!」
「あ、わりぃ。あまりにも重くて」
「はぁ!?あんたもう一回言いなさいよ……!」
そこで男がオリアス目掛けて拳を振ってきた。オリアスは更に体を浮かせたりして次々と来る男を避けて行く。そんな中、1人の男が拳を振り上げた。案の定オリアスは避けたが、しかし、一個避けた先に、アリヤがいた。
男は速度を止めることが出来ず、アリヤの顔に拳が当たろうとした。
その時。
アリヤと男の間に、1人の男が割り込んだ。男は手のひらのみで拳を受け止めた。
「そこまで!」
大きく澄んだ声が聴こえた。皆が声がする方に振り向くと、1人の長身の女性が立っていた。
「ノア様!」
「全く、何をやっているんだ。情けない」
「し、しかしノア様。この者たちはリセプトの手先かも……」
「彼らが使ったのは魔法ではない。ここでは魔法は使えないからな」
そうしてノアと呼ばれた女性は、オリアスの前に立った。
「うちの連中が失礼なことをした。しかし貴女方がいきなり来訪したことも事実だ。我が村にいか用か?」
「いや、俺たちはローレアに行くと思ってたんだが、何故かここに出ちまって。ここはローレアか?」
「まぁ、ここはローレア国の山岳地帯だ。だが中心部には遠いな。もしあれだったら、そこの人に連れて行ってもらえよ。彼も帰るはずだから」
ノアはそう言って、先程アリヤを助けた男を見た。男は静かに頷いた。
「はい。中心部とまではいきませんが、途中までならご案内致します」
そう言う背中を、アリヤは見た。まだお礼を言っていない。
「あ、あの、助けて頂き有難うございます」
アリヤのお礼に、男が振り返る。
「いや、ただ体が勝手に動いただけで……」
そこで男は息を止める。ノアもまた、目を見開く。なんだろう。
2人は自分を見たまま、固まってしまっている。何か自分の顔についているのか。
2人は静かに目を見合わせた。そうしてしばらく経った頃、
「取り敢えず今日はもう遅い。泊まっていけ」
と、ノアがアリヤたちに向かって言った。