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てっきり朝一番に小屋を出るのかと思えば、オリアスは「夜にここを出る」と言った。「夜に出たら危険なのでは」と言っても、彼は微笑むだけだった。少女はそれを不思議に思う。
ご飯も彼は何度か持ってきてくれた。それは簡素ながらも美味しい食事だったが、彼は一緒に食事をとろうとしなかった。
何か奇妙な感覚がするなか、ついに夜がやってきた。彼は小屋に、不適な笑みと共に入ってきた。
「時間だ。出ろ」
少女はそう言われ、目覚めてから始めて外に出た。そうして周りには、広大な山の景色が広がった。空は漆黒のようで、小さな星が無限に広がっている。足下は思いのほか不安定で、一歩間違えれば崖からずり落ちてしまいそうだ。
それまで森の中にいると思ってた少女は、自分がいる所の高さに驚く。
少女は息をのみこみ、オリアスに話しかけようとした。直後、彼を見てさらに驚く。彼は今までの明るい面影はなくなり、冷え切った目をしている。そうして、青いはずの彼の目が赤く見えた瞬間、少女は自分の周りが光ってることに気づいた。驚いている彼女とは対照的に、オリアスは余裕そうだ。見ると彼も光に包まれている。
「願えよ。行きたいところを。ひとっ飛びで連れて行ってやる」
「そんな……私は記憶がないのよ……」
「俺も考えたが、根底は憶えてるはずだ。あんたはただ、願えばいいんだ。この俺様にな」
その高慢な笑みは、どこかで見たことがあった。果たして、それはどこだったのか。
「今日は運よく満月だ。俺の力は、最大限に活かされる」
「あなたは、一体何なの……?私を一体、どうするつもり?私は貴女を、信用していいのよね」
「さぁ?それはあんたが決めることだろ」
彼はそう言い、更に少女に近づいてきて、微笑んだ。
「やめるなら、やめてもいい」
「じゃあ……私の名前を教えて」
「ん?」
「知ってるんでしょ、私の名前。教えてよ。教えてくれたら、貴女のこと信じる」
「へぇ、そんなんで信用出来るのか」
「大事なことよ」
オリアスはその答えに苦笑した。
「いいよ、教えてやる。俺が知ってるあんたの名前はアリヤ、それだけだ。あとの名前はしらねぇ」
「……分かった。有難う。願えばいいのね?」
オリアスはその答えに至極嬉しそうに笑った。
「ああ」
少女、アリヤは願った。自分が行きたいところに、ただ行けることを。