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オリアス……少女は一生懸命考えたが、何も出てこなかった。
「ごめんなさい、思い出せない……」
オリアスはその言葉には、小さく肩をすくめるだけだった。
「まぁいいさ。それより、怪我はどうだ?まだどこか痛むか?」
そう言われて、自分が怪我をしていることに気づいた。 足や腕に、小さな切り傷が無数にある。
「全然気づかなかった」
少女はそう言い、何か奇妙な感覚にとらわれた。傷は治りかけているが、完治の段階ではない。それなのに……
「そうか、なら良かった。あんた死にかけだったからな」
オリアスは少女の困惑の様子に気づいてもいないのか、彼女の答えに満足そうにしている。
「あなたが助けてくれたの」
少女は驚いて、オリアスを見つめる。オリアスはそれには微笑んで返した。
「ちょっと待ってろ」
オリアスはそう言うと、少女の側を離れ小屋から出ようとした。少女はその背中に慌てて叫んだ。
「ま、待って。置いていかないでっ」
何故かそう叫んでしまい、少女は後悔して俯いた。その姿を見てオリアスは吹き出した。何がおかしいんだ。
「飯もってくるだけだよ。お前のこと置いてったりしないって」
そうして彼は優しく笑った。少女はその笑顔を、どこかで見た気がした。
それから数日間は、オリアスに食事を持ってきてもらう日々が続いた。彼がまだ自分は完治してないから外には出るなと言い、少女は言うとおりにしていた。
外に出なくても、オリアスの話は面白かった。彼は、この世界に伝わる古い物語などを、面白おかしく話してくれた。
そうやって少女が目覚めてから三日程経った時、オリアスが少女がスープを飲んでいる隣りで言った。
「明日にはここを出る」
「ここを出るって?どこに行くの」
オリアスは彼女の問いに、何故かいばって答える。
「決まってるだろ、ローレア国だ」
ローレア……?
「あんたの母国だよ」
母国。言われて一生懸命思い出そうとするが、何も思い出せない。オリアスはそれに苦笑し、優しく言った。
「まぁローレアに帰ればすぐ思い出すさ。故郷のことも、あんたの願いも」
ローレア……そこに行けば、思い出せるのか。自分は一体何者なのか……
とそこで、少女は自分の名も知らないことに気づいた。オリアスは自分の名だけ名乗り、少女の名は教えなかった。知らないのか、あえて言わないのか。
少女は目の前の屈託なく笑う人物を、ただ静かに見つめた。