表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方に願いを言うために  作者: 紺青
第一章 始まり
2/61

 オリアス……少女は一生懸命考えたが、何も出てこなかった。


「ごめんなさい、思い出せない……」


 オリアスはその言葉には、小さく肩をすくめるだけだった。


「まぁいいさ。それより、怪我はどうだ?まだどこか痛むか?」


 そう言われて、自分が怪我をしていることに気づいた。 足や腕に、小さな切り傷が無数にある。


「全然気づかなかった」


 少女はそう言い、何か奇妙な感覚にとらわれた。傷は治りかけているが、完治の段階ではない。それなのに……


「そうか、なら良かった。あんた死にかけだったからな」


 オリアスは少女の困惑の様子に気づいてもいないのか、彼女の答えに満足そうにしている。


「あなたが助けてくれたの」


 少女は驚いて、オリアスを見つめる。オリアスはそれには微笑んで返した。


「ちょっと待ってろ」


 オリアスはそう言うと、少女の側を離れ小屋から出ようとした。少女はその背中に慌てて叫んだ。


「ま、待って。置いていかないでっ」


 何故かそう叫んでしまい、少女は後悔して俯いた。その姿を見てオリアスは吹き出した。何がおかしいんだ。


「飯もってくるだけだよ。お前のこと置いてったりしないって」


 そうして彼は優しく笑った。少女はその笑顔を、どこかで見た気がした。


 それから数日間は、オリアスに食事を持ってきてもらう日々が続いた。彼がまだ自分は完治してないから外には出るなと言い、少女は言うとおりにしていた。

 外に出なくても、オリアスの話は面白かった。彼は、この世界に伝わる古い物語などを、面白おかしく話してくれた。

 そうやって少女が目覚めてから三日程経った時、オリアスが少女がスープを飲んでいる隣りで言った。


「明日にはここを出る」

「ここを出るって?どこに行くの」


 オリアスは彼女の問いに、何故かいばって答える。


「決まってるだろ、ローレア国だ」


 ローレア……?


「あんたの母国だよ」


 母国。言われて一生懸命思い出そうとするが、何も思い出せない。オリアスはそれに苦笑し、優しく言った。


「まぁローレアに帰ればすぐ思い出すさ。故郷のことも、あんたの願いも」


 ローレア……そこに行けば、思い出せるのか。自分は一体何者なのか……

とそこで、少女は自分の名も知らないことに気づいた。オリアスは自分の名だけ名乗り、少女の名は教えなかった。知らないのか、あえて言わないのか。


 少女は目の前の屈託なく笑う人物を、ただ静かに見つめた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ