目覚め
「あんたも相当変わってるな、この俺を呼ぶなんて」
目の前の男はそう言い、高慢に笑った。その顔には、自分への軽蔑も読み取れる。
自分でも、馬鹿だと思う。
こんなこと、するべきじゃない。
でもやはり、諦めきれない。愚かでも、なんでもいい。ここで、死ぬわけにはいかない。
「で、あんたの願いはなんだ?」
男はなおも興味なさそうに尋ねる。その声以外は何も聴こえない、静かな夜だ。彼の後ろには欠けた月が輝いていて、彼を照らしている。そうしていると、まるでこれは幻想的な夢のようだ。
夢だったらよかったのに。
彼に、言っていいのだろうか。自分の願いを。決心が鈍るため、声が震える。だけど言わないと。
もう後悔なんて、したくないから。
「願いは……」
プロローグ 目覚め
ここは、どこだろう……?
少女は目を覚ました瞬間、見たこともない部屋で寝ていた状況に驚いた。少女は白い肌に長い黒髪が映える、美しい娘だった。彼女は今、白くて薄い寝巻きのようなワンピースをきていた。
どうやらここは小屋のようで、窓からは一面の緑が見える。空は暗くなってきていて、夕刻頃の時間だろうか。部屋の中は簡素で、彼女が寝ていた寝台の他には、丸いすが一つと、机が奥に一つ置かれているだけだ。
なんなの、いったい、何があったの?
少女は困惑のあまり頭を抱える。
無理もない。彼女はここが何処なのか思い出せないだけでなく、自分が何者なのかすら分かっていないのだ。
そんな時、部屋のドアが開いた。少女は驚き、その黒い瞳で入ってきた者を凝視する。
そこには、1人の若者が立っていた。
長い濃青の髪を後ろで一つに縛り、服は水色がかった白い上着に、黒いズボンを履いている。顔は中世的な顔つきで、女か男かは一見では判断つかない。
「お、なんだ目が覚めたのか」
若者はそう言って、豪快な歩きで小屋の中に入ってきた。その声、しぐさで若者が男だということが分かった。
「よかったー、目ぇ覚まさないから、もう生き返らねぇかと思った」
若者はそう言い、少年のような笑顔で笑う。こう見てみると彼はまだ若く見える。15、6歳くらいだろうか。
少年は言いながら、寝台の前の丸いすに座り、寝台の前に置かれた水瓶から水をコップにつぎ、彼女に差し出す。
「飲めよ、喉渇いてるだろ」
少女はぼーっとしながらそのコップを受け取り、そうして水を飲む。そうすると、自分がいかに飢えていたか分かる。
「飯も食べるか?なんかもってくるか」
そう言って彼は立ち上がり、また小屋から出て行こうとする。少女は慌て、とっさに彼の腕をつかむ。
「まっ、待って…!ここは何処なの?あなたは!?私はどうしてここにいるの…!?」
男は少女を、驚いた顔で見つめ、そうして「驚いた。何も覚えてないのかよ。あんなに俺に会いたがってたくせに」と呟いた。少女は更に困惑する。
「会いた…?私があなたに?どうして?あなたは私の恋人なの?」
男はその言葉に更に驚きの表情をしたと思うと、次に堪えきれないとばかりに大声で笑い出した。少女は恥ずかしくなり、真赤になる。
「な、なんで笑うのよ!?」
「いや、まぁすまん。まさかそう来るとは…まぁそれもいいけど。残念ながらそれは違う」
「じゃあ一体何なのよ」
少女はもう少しキレ気味だった。状況が分からない上で困惑した発言なのに、こんなに爆笑されるとは。
「まぁまぁ。そう慌てるな、俺はあんたの味方なんだから」
男はそう言うと、少女の頭にぽんと手を置いた。少女はなぜかそれを、懐かしく感じた。
「俺の名はオリアス。当分はそれだけ知ってりゃ、大丈夫だろ」
男はそう言い、また先ほどの屈託のない笑顔で笑った。