辺境の街2
食堂に向かうと、何やらいい匂いがしてくる。
早速とばかりにクラルテがカウンター席に座る。
俺もそれにならい、クラルテの隣に座る。
「おじいちゃん!夜食をお願いします!」
クラルテが大声でカウンター奥にいる老人に注文する。
すると老人は、応えた。
「わかっておるわ。二人分でいいな?」
二人分...
キメラの分がない。
俺がそう考えていると、
「あ、すみません。ペットフードありますか。」
クラルテもキメラのことに気づいていたようだ。
「ペットじゃないのだ!ちゃんと味付けされた料理も食べられるのだ!」
「あ、そうなんですか? おじいちゃん! 三人分お願いします!」
「あいわかった。少し待っとれ。」
クラルテが俺とキメラの分も注文してくれた。
俺たちは料理ができる間、話し合う。
「俺はご飯を食べたことがない」
そう言うと、
「ええー! 魔王様! それは人生の三分の一は損してますよ!」
「そうなのだ!ご飯は美味しいし最高なのだ!」
なぜか非難された。
実に心外である。
「ご飯とは楽しいのか?」
「楽しいのもありますけど、美味しいがメインですね!一回食べればわかります。ね?キメラさん。」
「そうなのだ!」
ふむ。
ご飯とは何やらすごいらしい。
キメラが続けて話す。
肩に乗って、耳元で話すため非常にうるさい。
「あと!さっきからキメラだのキメラさんだのと呼ばれているけど、俺っちにはちゃんと名前があるのだ!」
ずっとキメラと言っていたため、今更感がある。
とりあえず寛大な心で話を聞いてあげよう。
「俺っちの名前はカプ!これからもよろしくなのだ!」
ふむ、カプか。
覚えやすそうな名前だ。
「カプ」
「なんなのだ?」
「呼んだだけだ」
「キシャー! 迷惑なのだ!」
耳元で本当にうるさい。
ご飯を待っている間、そんな意味もないような会話が続けられた。
その間にも何やらいい匂いが漂ってきて俺の腹が欲しいと言っている。
これからが俺の記念すべき初ご飯だ。
老人がプレートを持ってカウンター奥の食堂から出てきた。
「お待ちどう、これが我が宿特製のご飯だ。熱いから火傷せんようにな」
老人はそう言うと、またカウンター奥でゆっくりといすに腰掛ける。
俺はプレートを見る。
湯気が出ている赤色と茶色の物体が皿に乗ったもの、それとパンの上に肉と野菜と卵と黄色いソースのかかったもの。
なんだこれは?!
食べ物とはこうも奇抜なものに変わるものなのか?
感情の波が俺を襲う。
その波は防波堤で止まってはいるが当たった瞬間のしぶきまでは防げなかった。
そのしぶきが匂いとなって俺にかかる。
美味しそうだ。
この感情はきっとそう。
「いただきます!」
「いただきますなのだ!」
クラルテとカプが言う。
なんの意味があるのだろうか?
俺の不思議そうな顔に気づいたクラルテが俺に伝えてくれた。
「いただきますって言うのはですね、食材という自然の中の命をいただくときに言う感謝の言葉なんです。だから魔王様も一緒に」
「「いただきます」」
「それでは早速食べましょう!」
初めてのことにちょっと慎重になっている俺はクラルテたちを見る。
ちなみにカプはカウンターの上に移動している。
クラルテはまず赤色と茶色のものを手に持って小さい口で食べる。
断面も同じような色だ。
クラルテが口に入れた。
熱かったのかはふはふしているが、顔は笑顔だ。
「うーん!このミートパイ美味しいです!」
ミートパイというのか。
俺も少し食べる。
サクッ
なるほど。
熱い。
だが、これが美味しいか。
サクサクの中にはアツアツの肉とトマトが入っており、ほのかな酸味がちょうどいい。
クラルテは次に、パンの上に肉と野菜と卵と黄色いソースのかかったものを食べた。
「あ〜、このエッグベネディクトも絶品です〜!」
俺も真似をして食べる。
卵を割り、ナイフで小さくし、フォークで刺して食す。
うむ、確かに美味だ。
シャキシャキの野菜に軽く味をつけたスライスされた肉、それに絡まるソース、この宿特製ということはここでしか味わえない贅沢と思ってよいのだろう。
カプはハムスターの体に尻尾が蛇だ。
どちらで食べるのか見ていると、どちらとも一緒に食べている。
さすが魔物おそるべし。
「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさまなのだ!」
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、いただきますのようにやっていたので、俺も見よう見まねで、手を合わせ口に出す。
これもいただきますと同じ意味合いだろう。
きっとそうだ。
「おじいちゃん!ごちそうさまでした!」
「あいよ」
老人にお礼を言い、俺たちは部屋に戻る。