港町ウンア6
今日は出港の日だ。
俺たちは船が到着するのを待つ。
「魔王様!船が到着するの、楽しみですね!」
「ああ」
船を待つのも楽しみ、か。
俺も一緒に楽しもう。
ざぱーんざぱーん
波の音とともにこんな会話が聞こえてくる。
「おい、そろそろあいつが出てくる時期だな」
「いやあ、まだあいつの時期じゃあないさ、エンジンもいつもので十分さ」
船乗りらしき格好の男2人が話し合っている。
あいつとは何のことだろうか?
少し気になる。
そういえば酒場で一緒になった男が言っていたな。
少しでも興味のあることは聞け、と。
俺はクラルテたちと少し離れる。
「すまない、あいつってなんだ?」
俺が船乗りらしき男たちに聞くと、返事が返ってくる。
「ああ、お前さんは知らないのか。ここの人じゃねえとわからねえもんな。あいつってえのはエノーモスクジラのことさ。」
「エノーモスクジラ?」
「ああ、とても大きなクジラで、俺らが乗ってる船を見ると一目散に船に向かってくるのさ。縄張り意識が強いらしいのと発情期が近いので苛立っているのが多い時期なんだよ。だから逃げ切るためにエンジンを変えてやんなきゃいけねえってわけさあ」
「なるほど、ありがとう」
「いいってえことよ」
いい情報をもらった。
クラルテたちにも教えておこう。
この情報はきっと重要だ。
そう思っていると、俺の行動を見ていたらしく、クラルテの方から話しかけてきた。
「どうしたんですか?自発的に動くなんて、珍しいですね?」
自発的に動くのが珍しい、か。
まあ確かに珍しいかもしれない。
俺はいつも、ついていくばかりで自分から行動を起こさなかった。
だが今は違う、今は楽しそうなことや気になることにはとことん突っ込んでいく。
あの酒場の男には感謝しなければならないのかも知れない。
俺は今の能動的な自分が好きだ。
「クラルテ」
「なんですか?魔王様?」
「楽しい」
「そうですか...よかったですね!」
クラルテが微笑み、俺に答えてくれる。
これも俺にとってはなぜか嬉しい。
「また楽しい」
俺は1人呟く。
「俺っちは楽しくないのだ」
ああ言えばこう言うというような奴が目を覚ました。
大抵いつもの定位置でぐっすり寝ているのに、こういう時だけ起きている。
「寝ろ」
「わかったのだ」
意外と聞き分けのいいというか、素直な子ではある。
ちょっとかわいい。
でもそれを本人に言うと、たぶん怒るだろう。
そんなやりとりをしていると船は港に着いていた。
大きな船だ。
鉄の色が激しく主張する地味なデザインではあるが、機能性を重視していそうな見た目である。
観察はやめて急いで船の中に入れと言われる。
俺たちは札を二枚船乗りに渡し中に入る。
甲板は広く見渡せば海の上にいることが再認識できる。
俺たちはようやく、この島を出る。
あまり大変なことはなかったが、俺には目標というか、したいことができた。
生きる楽しみを探す
だから俺は自分探しに行くような気持ちで前に進んで行く。
もちろん、クラルテたちも一緒に賑やかな旅がしたい。
そう思っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「おーい、にいちゃん!ちゃんと楽しみを見つけるんだぞ!あと嬢ちゃんをしっかり守ってやれよ!」
酒場の男だ。
出港は近い。
俺は一言、こういう。
「ありがとう!」
男は満足そうに笑っている。
俺も自分が笑っているのがわかる。
さあ船出だ。
船は島を離れ、水平線の先を目指す。




