4-29 新ダンジョンへ
丁度いい機会なので、土曜日に第9ダンジョンに行ってみる事にした。ここは東名にかなり近い場所で、インターからも近いので行ってみる事にしたのだ。
ちょっと試してみたかった。ここにも、魔物タクシーがやってきてくれるのかを。
自衛隊には申し入れしてあったので、問題なく封鎖ゲートは通してもらえた。ここは、元はゴルフ場かなにかがあった場所らしい。今は見る影もない、岩山のような様相を示している。
岩山は直径500メートルほど。21に比べるとかなり小さい。中の通路も2本しかないし、それぞれ枝分かれもない。探査完了済みのダンジョンだ。ここは、あまりいい獲物がないので人気がない。
大きい所、上から順に、千葉の第5・静岡の15・そして愛知の21がダンジョン駐屯米軍兵の憧れだ。人気が高くて、なかなか配置されないのだ。
だから、こういう小ダンジョンにいる米兵は、ふて腐っている奴も多く要注意だ。
中には色々と国民に被害が出るケースもあり、地域をあげて警察の警戒対象になっている。ダンジョン兵は正規の在日米軍とはかなり異なるのだ。愚連隊のような輩も少なくいない。
他の欧米系外国人も一括りで警戒されており、彼らを嘆かせている。いきおい、それが彼らの母国とアメリカとの軋轢を発生させる事にもなりかねない。
日本政界においては、野党の与党に対する攻撃材料にもなっており、与党にとっても頭が痛い話になってしまっている。この手の問題は21ダンジョンに限った話ではない。
昔からある米軍基地の偉いさん連中は頭を抱えてしまっていて、MP増員を在日米軍司令官に訴えまくっている現状だ。
特に近隣の米軍基地などは、長年地域との交流に心血注いできたのに思いっきりぶち壊しにされて、怒り心頭だ。主にその怒りはワシントンに向けられている。
俺が中へ入ろうとすると、いかにも不良米兵といった連中がやってきて因縁をつけてきた。
ここには自衛隊はいなかった。小さい場所なので、入り口の警備も米軍の管轄になっていた。静岡は、ダンジョンの数が多いので。
『おい、お前! 勝手な事をするな。誰の許しを得て、この中へ入ろうとしている。ここは、俺達の縄張りだ』
『違うな。ここは日本の領土だ。米軍基地ですらない。お前らがよそ者なのさ。俺は日本政府と、ダンジョン米国側最高責任者エバートソン中将の許可を得てきている。邪魔をするなよ』
米兵は間髪を空けずに殴りかかって来た。こいつらは、そこいら中で問題を起こしているんだろう。よく本国送還になっていないものだ。
最近の在日米軍はこの問題に神経を尖らせていて、ダンジョンの不良米兵は、あっという間に本国送還とあいなる。
だが、俺はあれこれ支援魔法を使用した。一瞬にして奴を捻じり上げて、片手で頭の上に持ち上げて、そのまま超高速でくるくるとピザ生地のように回した。
やがて奴は悲鳴を上げて、あたり一面にシャワーのようにゲロを吐き散らした。遠心力の関係で、中心にいる俺には絶対にかからないもんね。
傍にいた相棒が、ゲロだらけになりながらも拳銃を抜いて、俺に何発も打ち込んだ。弾はイージスに当って跳ね返り、火花を散らした。
『化け物!』
『俺が化け物なら、お前らは反逆者だな』
銃声を聞きつけて、MPの連中が駆けつけてきた。
そしてあろう事か、そいつらの肩を持ち始めた。
『よし、つかまえろ』
『貴様、大人しくせんか!』
エバートソン中将が、また嘆くな。
俺はアイテムボックスからロープを取り出して、全員を問答無用で縛り上げた。ファストの重ねがけがかかった人間を、普通の人間が捕まえられるわけがない。加速装置付きなんだぜ。
喚き散らす連中を尻目に、ここの代表駐屯地まで高速ダッシュした。門前の警備兵と一緒にいた人物にに声をかける。
『責任者の方はおられますか?』
『あなたは?』
驚いたような声で軽く詰問された。こんなところに来たがる民間人もまずいない。何かダンジョンに用のある関係者の可能性が高いのだ。
『俺はスズキ。向こうの世界へ行ける、地球でただ1人の男だ。今日、ここのダンジョンに潜るとエバートソン中将から聞いていませんか? 米兵が邪魔をして襲撃してきました。3発発砲されて全弾命中しましたよ。責任の所在を明らかにしたい。軍法会議の開催を要求します』
大尉の階級をつけたその人は、顔を引き攣らせながら慌てて奥へ引っ込んでいった。
それから、間もなく外へ出てきた責任者のパーマー中佐と共に現場へ行き、転がっている馬鹿共を見せた。その中にMPが混じっているのを見て中佐は片手で顔を覆った。
俺はそこに転がっていた、空薬莢と潰れた弾頭を確認してもらった。
『何故、こんな真似をした!』
中佐の詰問に男達は沈黙で答えた。
『これは決まりですね。こいつらは某国から金をもらい、俺を消そうとした暗殺者だ。エバートソン中将には連絡します』
『待ってくれ。事情徴収は行なう。中将にはこちらから報告する』
パーマー中佐は慌てて、俺を片手で制し懐柔に動いた。まあ責任者としては色々とまずいのだろう。
『お前ら、言いたいことがあるなら、はっきり言え。このままだとスパイ容疑がかかり、えらい事になるぞ。このダンジョン計画は大統領の肝煎りだ。それがどういう事なのかわからんでもあるまい』
男達は、しばらくの間俯いていたが、やがて沈黙を破った。
『……そいつは、自衛隊でさえないくせに、ダンジョンで華々しい活躍をして大金を稼いだ。ダンジョンで一山当てる夢もあったのに、俺達はこんな廃坑のような糞ダンジョンで飼い殺しだ。頭にくるぜ』
『お前ら……』
さすがに中佐も呆れて黙った。
そんな話かよ。ちいせえなあ。まあ、わからんでもないけどな。どの道、お前ら米軍は向こうへは行けないぜ。
『Mr.スズキ。大変申し訳なかった。彼らには、応分の処罰が与えられるだろう。どうぞ任務の続きを。おい、ヘンダーソン大尉。残りの馬鹿が彼の邪魔をしないように、今すぐ手配を』
やれやれ。近いからって、こんなところに来るんじゃなかったぜ。
俺は入り口の近いところで聖魔法を使い、グーパーを呼んでみた。やがて20秒くらいして、奴が来てくれた。中佐が慌てて攻撃命令を出そうとしていたが、俺が手で制した。そして彼に話しかけた。
「おまえ、他のダンジョンでも来てくれるんだな。21ダンジョンと同じ奴なのかい?」
「グー」
米軍の連中は驚いていたが、俺はグーパーの首のあたりに跨り、中佐に言った。
『今から、ちょっとこのダンジョンから異世界へ行ってきます。もし今日中に戻らなかったら、エバートソン中将に連絡を。それと、そこの馬鹿共の後始末は頼みました』
そう言って、グーパーの首をポンポンと叩き、声をかけた。
「さ、やってくれ」
俺達は、驚いている米軍の前から、すーっと消えた。さて、どこに現れるものやら。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。




