4-25 グーパー
今日の「ドライバー」は、例のおっきな奴だった。
「おい。そっと頼むぞ」
魔物は、「グー」と返事をして、そっと鼻面で押してくれた。この前現れた時も、本人は軽く押してくれたつもりなんだろう。
鳴き声から、こいつの事はグーパーと呼ぶ事にした。よく見ると可愛い顔をしているような気もする。目にも愛嬌がある。
なんというか、地竜のような感じか。ずんぐりむっくりで、ややカートゥーン的なスタイルだ。乗り回したら楽しそうだ。
仲良くなったら、この世界で呼び出して乗せてもらえないものだろうか。運転手の指名は出来ないのかな。今度来る時に試そう。
また出口付近に送ってくれたようだ。サービスのいい奴は、御贔屓にしたいな。
「帰ってきたのねえ!」
城戸さん、そんなに泣かなくても。泣くほど異世界は楽しかったですか?
守山司令部に帰りついて、司令のところへと赴いた。おそらくは城戸さんの上司と思われる年配の男性が一緒にいた。
「お前達御苦労だった。城戸さん、異世界はいかがでしたか」
師団長は第一声で俺達を労ってくれた。
「え、ええ大変でした。最後には巨大なドラゴンまで出てきて、目を白黒していました」
「そうでしたか。鈴木、そのドラゴンは?」
なんかドラゴンとか、冷静に受け止めちゃっている人がいるな。
「倒しましたよ。持っていますが、こいつは特別なものなので、恐らくはギルドないし、国王に渡すような事になるのではないでしょうか。引き取り手がないのなら、グラヴァスへ。見返りに現地での扱いが丁重になり、今後の活動にも良い影響があるでしょう」
「そうか。それは構わないが、少しサンプル用の部位が欲しいのだが」
「わかりました。配慮します。俺も味に興味がありますしね」
師団長も俺の回答に苦笑いしたが、サンプルが手に入りそうなので、よしとしたようだ。
「委員長、これが鈴木さんという人です。取り扱い要注意の危険物ですから、怒らせたりしないでくださいね」
あ。城戸さんが、あんな事を言っている。ちょっと意地悪しすぎたかな。 委員長と呼ばれた男性は、笑って挨拶してくれた。
「今日は、勇者さん。私は、ダンジョン対策委員会の委員長を務めております樫山と申します。うちの若いのが御世話になったようで、どうも。
やはり話を聞くにつけ、年寄り向けの世界ではなさそうですな。若者を派遣しておいて正解でした。また調査報告書を楽しみにしていますよ。
出来れば、魔物肉の味などではない、世界の危機に関するような内容であればありがたいですな。では、本日はこれで失礼させていただきます」
おっと、言われちまったぜ。でも魔物肉に関する関心は、顧客を中心として結構集まっているんだよね。次回はドラゴンステーキの口コミとか、飛行魔物食べ比べとかも悪くないね。
城戸さんも早く帰りたいようだ。今夜はそれなりにいいホテルを用意してくれているらしい。だいぶ、労われていた。
いきなり、魔物溢れる異世界に迷彩服姿で放り込まれたしな。川島に誘われて、着替えと、装備の返還に行くようだった。
山崎は部屋へ帰っていった。今日もまた、異世界の話を聞かせろと他の連中がうるさいのだろう。最近は、なかなか日本にいないしなあ。
残った4人、いや5人には、師団長から話があった。
「お前ら、どうせしばらくは異世界と行ったり来たりになるのだから、しばらく司令部付きになってもらうぞ。守山の宿舎の部屋を一つとっておいたから、そこに入ってくれ。川島、お前もだ」
「「「「「「はっ」」」」」」
「いきなり引越しかあ。えらいこっちゃ」
「いいじゃないか。瀬戸線で、栄まで一直線だぜ」
「金が持たんわ」
「それより、引越しだ。おい肇、次の異世界行きはいつだ?」
「お前らが引っ越すんなら、1週間ほど間を空けよう。いきなりドルクットなんて出やがったから向こうの話も気になるが、まあ慌てたってしょうがないさ。元々は前回のんびりする予定だったんだぜ」
「そういや、そうだった。俺達はそれどころじゃないんだが」
「まあ、頑張ってくれ。でも、お前らって収納持ちになったのを忘れていないか?」
「あ……」
「そういえば」
「無意識的に、あっちの出来事と、こっちの世界は分けて考えているんだよなあ」
「退職や移動でバタバタしている人とか、いっぱい見てきたからな」
「はははは、それでも挨拶回りとか色々あるだろう。まあゆっくりしてくれ」
俺は、連中とそんな話をしてから守山を後にした。もう6月かあ。日本は梅雨でじっとりだ。異世界の気候は爽やかだった。ドラゴンが出るのが玉に瑕だけれど。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。




