4-24 この世界に生きる者のあり方
「感謝する。お前がスズキか?」
花婿さんから、お声がかかった。
おう。こんなところにまで悪名が轟いていたとは。
「ふふ。ばれちゃあ、しょうがねえ。如何にも俺がギルマス預かりの問題児スズキよ。それが何か」
俺が無意味に居直ったので、周り中が苦笑する。
「いやいや、そういうわけじゃない。感謝しているのさ。人生がこれで終わると思ったぜ。だが、最後までこいつと足掻こうと思った。まだ、こいつと生きていける。ありがとう」
「本当にありがとう」
2人は寄り添って、笑顔で俺に感謝を捧げてくれた。
あんな事があったにも関わらず、参列者達から祝福されながら2人は幸せそうに互いを抱きあいながら歩いていった。
俺が振り向くと、いつの間にか車外に出ていた城戸さんがいた。川島とメイリーも一緒だ。
「これが、この世界に生きる者のあり方なんですって」
城戸さんは、なんと言っていいものかと困ったような表情をした。
「なあ、メイリー。この世界の結婚式って、あんな風に新郎新婦が武装しているものなのかい?」
『あくまで心構えっていう意味でね。それにしても、あんた! 馬鹿じゃないの? ドルクットと言ったらさ、都市災害級の怪物よ! この街が無くなっちゃっても、おかしくない奴だったんだからね。なんなの、その武器。あの馬車の中からでも、ものすごい音が聞こえたよ』
そうだったのか。怖い物知らずとは、まさにこの事。メイリー、言っておくが、こんなものはオモチャも同然だから。
なんか地球の方が怖くなってきたわ。魔物相手では無くて、同じ人間を殺すためだけに、あんな超兵器の数々を作りまくっているんだからな。
「城戸さん!」
「は、はい」
彼女はいきなり名前を呼ばれて目を白黒していたが、俺はにこやかに話しかけた。
「どうでしたでしょう。元自衛官対バハムートのエキビジョンマッチ。プラチナシートでの御観覧でしたね!」
「肇、お前……」
みんなの白い目が痛かったが、俺は開き直った。
「なんだよー、自衛隊の予算のためにはしょうがないじゃないか。予算が無いと自衛隊も戦えないんだぞ」
城戸さんも苦笑いしていたが、
「いえ、なかなか見られるものではありませんでしたね。宴酣ではありますが、ここいらで、今日のところはお暇いたしましょう。この入り口の町でさえ、この有様です。お偉方も、考える事しきりなのではないでしょうか。さすがに疲れました。鈴木さん、帰らせていただいて宜しいでしょうか?」
城戸さんは、まるで宴会の幹事のような台詞で、にこやかに締めくくった。なんか、逆に怖いんだけど。まあ色々あったしな。
「わかりました。軽く挨拶回りだけはさせてください。特に探索者ギルドには報告する義務がありますので」
「ええ、お願いしますね」
ギルドに付くなり早々、ギルマス執務室を襲撃した。スクードは、やれやれといった風情で俺に目線を投げると、うんざりしたように言った。
『ドルクットのブレスを防いだ挙句、2撃で倒しただと?』
「射撃が青山レベルの腕なら1撃で倒せたよ。でも、そんな事言っちゃ駄目。当ったのは奇跡なんだからね」
というよりも、単にアローブーストの誘導効果によるものだ。
それでも1発では倒せなかった。威力のせいではない。それに素材を有効に取りたいので、あの手の魔物はなるべく首を狙っているのだ。帰ったら、20ミリ対物ライフルの射撃練習をしなくっちゃ。
スクードは軽く執務机に腰かけながら、少し考え込むように言った。
『今までにこんな事は無かった。やはり、何かが起きているのかもしれないな』
「それは、どこへ行ったらわかるんだい?」
彼もその理知的な目を伏して、ただ静かに頭を振った。
それから解体場に行って、子供達と名残を惜しんだ。
「お兄ちゃん! またエアホッケーしようね~」
「さよならハジメ、またね~」
日本語うめえじゃねえか。それにしても、やっぱり俺に対しては御友達とバイバイみたいなニュアンスがあるのは気のせいなんだろうか。
それからマサに赴いて、正さんにもドラゴン出現の報を知らせておいた。
「どうします? 街が壊滅レベルの災厄までが、あっさり姿を現す昨今です。一緒に日本に退避されますか?」
一応は聞いてみた。多分聞かなくても答えはわかっているのだが。
「いや、まだ様子を見極めたい。そのドラゴンも滅多に出るとは聞いてはおらんし。ここには愛着があるんだ」
「そうですか。わかりました。充分注意してください」
さすがに俺抜きで他の奴は残してはいけない。城戸さんも政府関係から来たので、ちょっと複雑そうな顔をしていた。
「本当に帰らなくても宜しいのですか?」
「ああ、これまでの人生を振り返っても、ここにいたい気持ちが大きい。ただ、わしらが来る事になった事情と、この世界が騒がしくなった原因は同じらしいから心中複雑なものはあるが。まあそのへんは情勢を見て、という事だな」
正さんも、腕組みをしながら、そう答える。
「わかりました。政府の方には、そのように伝えておきます。鈴木さんを通してではありますが、政府も状況は見ておりますので」
正さんは頷き、
「じゃあ、みんなも気を付けてな」
「じゃ、またすぐ来ますので」
「それでは、正さん、またあ」
「いってきます」
お前ら、こっちに馴染みすぎだよ。
俺達は高機動車を引っ張り出し、ダンジョンへ向けて出発した。
城戸さんも、もう多分二度と来ないだろう、この世界に少し名残惜しげな表情を見せていた。いつか、この世界について本に書いたりするのかもしれないな。その時、俺はなんて書かれるのか怖いな。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。




