4-23 死を運ぶ者
「川島~~! 城戸さんを中へ!」
「え、何、何が起こったの?」
「ドラゴンが来る、退避するぞ」
「マジで~~!」
他の連中も口々に叫ぶ。
「マジか!」
「ヤバイのか?」
「スクードは逃げろと言った。だが、逃げられそうにない。だから倒す」
このままだと、民間人に死傷者多数の事態だ。これはもう既に有事だ。
「わかった」
山崎はメイリーを池田に放った。
池田は黙ってメイリーを受け止め、抱えたままマイクロバスに乗り込んだ。
「お兄ちゃあん!」
佐藤も乗り込んでエンジンを始動した。迷わず川島が、訳もわからず目を白黒している木戸さんを『担いで』バスに放り込んだ。
「俺は記録に集中させてくれ。実質お前が戦うんだろう」
合田から要請が入った。
「わかった。俺達と一緒にいてくれ。バスと、こっちはイージスで守る。他に被害が出ないうちに倒すぞ。駄目なら逃走する」
俺は武器と魔法の組み合わせ。合田は戦力外。俺以外の戦闘メンバー2人は、対空ミサイルを構えている。大型の対空兵器を準備する時間はなかった。
俺はそれを扱う訓練も受けていない。いや、青山と合田は高射特科なんだが、運用する専門化の人数が不足でもある。
通常は最低でも3人くらい必要なはず。俺達のような素人がついても邪魔になるだけだ。だてに一番高価な機材を使用している部隊ではない。
しかも、あの2人は運用する兵器の種類が異なる。今度、自衛隊の協力でも貰って対空ミサイルの緊急発射訓練でも行なうか。
人数的に、いろいろ器用貧乏になっているきらいはあるな。ハイテク対空兵器を使おうと思えば、使えるだけマシなんだが。
豊川の高射特科部隊の懐かしい顔が目に浮かぶ。今この時こそ支援に来てほしいぜ。空自の連中でもよくてよ。
凄まじいスピードで、そいつはやってきた。なんだ、ありゃあ。明らかにマッハを軽く越えている感じだがソニックブームを起こしていない。アローブーストと同じだ、
勘弁してくれ。魔法による速度ブーストは音速の壁を境界にしないのか。参考にできそうだ。もし生き残れたなら。
合田が乾いた声で報告してくる。機械で測定したようだ。
「全長およそ50m。死んだかな、こりゃ」
まだわからんさ。せっかく大富豪になったんだ、こんなとこでは絶対にくたばらん。
まさにドラゴンだ。いやこれって、なんていうか、もはや「バハムート」じゃねえ? いわゆるベヒモスの事だ。
この前のラドーは恐竜大図鑑だったが、今度は神話の世界、いやゲームの世界の住人か。空を覆わんばかりのスケールの羽根と太くて長い尻尾をなくしたら、もはや巨大な竜人だ。
こいつは、いかついわあ。筋肉隆々で、なんとも威圧感のあるスタイルだ。今までの奴らとはまるで格が違う。
スクードが逃げろと言った意味がよくわかる。鱗の厚さが違うのが、ちらと見ただけでハッキリわかる。
顔立ちや尻尾の凶悪な事。眩暈がしそうだ。こいつと格闘は勘弁してほしいぜ。こんな奴が日本上空に現れたら、さすがの空自も「攻撃するのは1発撃たれてから」なんて悠長な事は言っていられまい。
奴が、頭を引いた。
『いかん、ブレスだ! 逃げろ』
誰かが叫ぶ声がした。だが、その死神はそんな時間を与えるつもりはさらさら無いようだった。絶望があたりの空気を速やかに満たしていった。凍りつく人々。幸せな結婚式が一気に屠殺場にと変貌を遂げた。
次の瞬間、猛然とした巨大な紅いファルスが押し寄せたが、俺は本能的にイージス以外のものを使った。さすがに、うちのメンツも全員が死んだと思ったことだろう。
「アイテムボックス」
正式名称なんて存在しない。元々は無かったものなのだ。一般には収納と呼ばれている。アイテムボックスなんて俺が勝手に命名したものだ。そして、俺は絶体絶命のその瞬間に、そいつを起動した。
何故そう思ったかわからない。だが、いけると思ったのだ。そして、紅蓮の業火は見事に俺の腹に収まった。絶望に凍りついた人々の驚愕した顔。
「ゲーップ」
そいつは明らかにそれとわかるほどに目を丸くしていた。なんだよ、トカゲ野郎。俺みたいなちっこいのがお前の攻撃を防いだのが、そんなに驚きか?
俺はその隙を逃さなかった。20ミリ対物ライフルを瞬時に構え、真正面に棒立ちな奴の首に狙いを定めた。瞬間にかけたアローブーストの青い光。
俺はノータイムで最大ブーストを実現するための訓練を行なっていた。おかげでパワーも増したし、魔力もぐっと増えた。
奴は身を翻そうと思ったが、もう遅い。すかさずぶっ放した青い霹靂を食らい、瞬時に奴の首は千切れかけた。
もう1発。あたりを揺るがす20ミリ砲の轟音と共に、奴の首はその禍々しい胴体から弾け飛んだ。あれ、死んだよな?
そいつは俺のアイテムボックスにあっさりと納まった。チラっと横目で見たが、バスの窓に張り付いた城戸嬢が、口をあんぐりと開けているのが目に入った。合田、ああいうのを撮らないと。
ふっと気がつくと、花婿は花嫁を守る体制で長剣を取り、花嫁はショートソードを構えていた。俺はドラゴン出現よりも、そっちの方に驚愕した。なんて物騒な世界だ!
「ふう。よくやってくれたな、肇。ミサイルは撃ちづらかった。照準を合わせる前に目前に。これでは撃てない」
いろんな状況がある。まず、ミサイルは遠くにいる敵を撃つものだ。ロケット兵器の一番の弱点は、あまり近いと加速が充分じゃないので速度が出ないことだ。
この、基本は敵機の熱に反応する武器は、近代兵器ほど熱を発していない魔物相手には使いづらい。
俺がアローブーストで誘導しないと当たらない上に、その攻撃力は弾頭の爆発によるものだ。アローブーストの主効果である、着弾による衝撃破砕があまり効果を発しない武器なのだ。
有線対戦車ミサイルの方が有効だが、さすがにドルクット相手では分が悪い。食らっても屁でもないだろう。
そして、こんな状況では肝心の標的を倒せない上に、周りに被害が出かねない。
山崎は俺の手持ちを知っているので発射はしなかった。青山も自分で判断を下したようだ。
「青山、指示が出せなくて悪かったな。俺も、いっぱいいっぱいだった」
「お互いそれどころじゃないぜ。嫌な汗でびっしょりだ」
俺だってそうなんだ。着替えたい。あの鱗にチャチな歩兵携帯式対空ミサイルは通じなかっただろう。デカイのが欲しいぜ。大型対空ミサイルは許可が出なくて持っていないんだ。
だが、もし持っていたとしても、この小部隊で使えるかどうかは厳しい。それに緊急すぎて手に負えない。こっちに対空部隊の高射特科を駐屯させるのは駄目かな。プロでさえ間に合うか怪しいものだが。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。




