4-20 豪傑タイム
それから馴染みの宝石屋へと回ってみた。俺がいつものを買い付けている間に川島と一緒に、城戸さんもかぶりつきの状態だ。
彼女には、この世界の土産物を買い付けるという重要任務があるのだ。当初は1億円で買い取ってもらえた代物だ。
「ねー、肇、これ買ってよー」
「バーカ、それは高いから駄目だ。今回、こっちで商売できないから予算が少ないんだよ」
「ケチー、じゃこっちの安い奴で!」
もう既に観光モードになっている奴がいた。
「安いって、てめ。それは金貨20枚じゃねえか。こっちの金貨1枚のにしろよ」
「やったあ、御土産ゲットー」
まあいいけどな。日本だったら絶対買ってやらねえ。お、そろそろ時間的に頃合だな。
「ちょっと面白いとこに行ってみよう」
「へえ、どんなとこ?」
もう、すっかり異世界の虜になっている感じの川島が食いついてきた。
「いや、お前じゃなくて。城戸さんの仕事の方でだ」
あれは見てもらわないとな。ランクルに乗りこんで佐藤に言った。
「子供達のところへ頼む」
「え! マジで?」
池田も、知らないからな、という目でこっちを見ている。
時間は14:30。まだ始まっていないはずだ。
解体場に着くと、エンジン音を聞きつけて子供達が一斉に外に出てきた。勉強していたらしくて、マリエールも一緒だ。
『あれえ、今日は女の人が一緒だ』
『彼女なの~?』
警戒しつつも、珍しいので興味があるようだ。野郎共の時ほどは警戒されていない。この世界のろくでなしどもに酷い目に合わされてきたのだろう。
女の人の方が子供には優しい。そういや、こいつらを助けてくれていたのもミリーやマリエールだったな。
まだ、時間があるので、みんなで遊ぶ。
「ガオー、怪獣だぞお~」
川島が張り切っているので子供達からすぐに仲間認定された。獣人の子は、耳と尻尾がすぐに餌食になったが。
城戸さんも、しゃがみこんで子供達と遊んでいた。そこへアンリさんがやってきた。さて始まるかな。
「アンリさん、今日の獲物を渡しておくよ」
そう言って俺はイーグー52匹を出した。それから、アンリさんが46匹を収納した。
城戸さんは、ただ驚いている。
「城戸さん、今から異世界の厳しい現実の一つをお見せしますよ。気分が悪くなったら席をはずしてくれても構わない。出来たら、全部見てほしいところだけど。川島は付いていてやってくれ」
そして、間もなく怒涛の解体ショーが始まった。まさに血の饗宴だった。
最初、城戸さんはあまりの事に衝撃に固まってしまったが、激しい解体の様子と音や血飛沫に青ざめて、最後は出してやった椅子に座り込んだ。
吐かないあたり、中々たいしたもんだ。見直したぜ。川島もちょっと青い顔になったが、気丈に振る舞っていた。
「こ、これが、異世界! これが……。この子達はどうして、こんな」
「この子達は親のいない子だ。ギルドの支援を受けて、ここで暮している。領主から見て、こういう事は小さな事だし。ここの領主様も広い領を持っているから、全部は見切れていない。この街は、探索者ギルドに自治権を与えてはいるが、ギルド運営と街の運営もある。孤児院まではやれない。ここは21世紀の地球じゃなくて、異世界なんだ」
それから青い顔して俯いたまま座り込んでいたが、子供達が笑顔で飴を強請りに来るのを見て、これがここでは普通の事に過ぎないんだと理解はしたようだ。
その後で宿へ戻って少し休んでもらった。
夕方6時を回ったので女性部屋をノックした。
「起きていますか? 今から日本人の経営する店に行きますけど、行けます?」
ドアが開いて川島さんが顔を出した。まだ顔色はよくないが思ったよりは平気そうだ。
「そうですね、宿はどうせ魔物料理なんですよね。行きます」
マサだって魔物料理なんだけど。使わない物も出せるからいいか。
行きは車で乗り付けた。アイテムボックスのおかげで駐車場がいらないから、ありがたいな。
「ちわーす。マサさん、御久しぶりです」
「お! 泥酔娘じゃないか。よく来たな」
「きゃー、言われちゃいました~」
それは言われるわ。マサに通っていたメンツの中で、こいつが一番派手に酔っ払って目立っていた。帰りにみんなで豊川まで引きずって帰ったもんだ。
「今日はいい魔物肉が入っているぞ」
「あ、正さん、こっちの城戸さんは魔物肉駄目なんで」
「え? そうなのかい。食べたら美味しいんだけどね。って、誰だい、その人は」
「政府の委員会から来た視察の人だよ。川島はそのお世話担当さ。今日魔物の狩りや解体を見せたんで、余計にね」
「そりゃあ、また。日本産の材料もあるから、そっちを使って作ろうか。飲み物は? 生ビールもあるよ」
「そ、そうですか。じゃ生ビールをお願いします。あと、なんかすぐに出せるもので」
そして、回りを見回して、獣人やエルフにドワーフなどが生中をやっているのを見て、眩暈がしていたようだ。
壁には、日本語とこっちの文字で料理の名前が大きく書かれた紙が貼ってある。値段も一緒に書かれていた。
ネコミミ娘が生中とエダマメを運んできてくれたので、城戸さんはじーっとその後姿を眺めていた。
「じゃ、乾杯しよ」
川島がささっと音頭を取った。早くビールが飲みたかっただけだな。山崎が深く同意するかのように頷いていた。
「この異世界にかんぱーい」
城戸さんがいきなり、ぐいぐいぐいぐいと生中を飲み干して、ふい~っと息を吐いた。
案外と豪傑だな。そういや魔物の解体も最後まで付き合っていたし。女1人で異世界まで乗り込んでくるくらいだから、肝は据わっているんだな。だが据わっているのは肝だけではなかったようだ。
すかさず山崎が御代わりを捧げ持った。彼女の注文のイカゲソとオニオンリングフライがさっとやってきた。俺達のは、とりあえず魔物串セット10人前だ。あと天麩羅も頼んである。
「異世界。日本にダンジョンを作り出した世界か!」
あ、酒が入ったら何か語りだした。なんか嫌な予感がする。
「おい、鈴木。そこになおりなさい」
えー、マジか。他の連中は爆笑している。俺は串を片手に生中をちょぼちょぼと啜りながら、お話を拝聴する羽目になった。
「あんた、わかってる? 今のとこ、世界であんただけが日本とここを自由に行き来できるんだから。アメリカなんぞバックに付けおってからに。面倒だったらありゃしない。
いい? 国家の安全保障問題が絡んでいるのよ。本来なら強引にでも国家の管理下に置かなければいけないというのに。それが治外法権ですって? あんた、ふざけてんの?」
うっわ。このお姉さん、酒癖悪いな。
「まあまあ、姐さん。こちらの串でもいかがですか?」
山崎は調子こいて魔物串を豪傑に差しだした。
「うむ、山崎、気が利くな。お前は出世するぞお」
もう、俺以外のメンツは素敵な笑顔だ。佐藤と池田は背中を震わせていたし、合田は頬をぴくぴくさせて笑いをこらえていた。
「ははっ。ありがたき幸せー」
おい、山崎。俺はちっとも幸せじゃないんだが。昼間ちょっといびりすぎちゃったかな。なんて事だ。
「大体、お前という奴はだな……」
延々と説教モードに入り、彼女は魔物料理をじゃんじゃん持ってこさせて、うわばみ女王として店内に君臨した。雰囲気がヤバイので、ドワーフに飲み比べを挑まれることもなかった。
「ねえ肇ちゃん。彼女、魔物肉は駄目だったんじゃないのかい?」
マサさんも不思議がって聞いてくる。最近は生中のせいで客が爆発的に増え、厨房にも人を入れているので客席にいる時間も増えた。新入りの狐耳のウエイトレスが気になるなあ。
「俺に聞かないでくださいな。勘弁してほしいんだけど」
そして、閉店まで弾けまくった彼女は、自衛隊装備を複製した「大八車」で宿まで運搬されたのだった。消音の魔法のおかげで、深夜に大八車の立てる音が鳴り響くことはなかったのだが。
こういう時だけ川島はピッタリと付き沿って、ちゃっかり上に乗っかっている。マサに新しい伝説が誕生した瞬間だった。
彼女は翌朝、かなり大変だったらしい。お昼まで出てこなかったし。げっそりしていた。
付き添いの川島は少し苦笑いしていたが。たまにはお前も、御付きの人の苦労を味わえよな。
本日予定されていた『運がよければ飛行魔物ゲット遊覧飛行』は催行中止となった。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。




