4-18 クヌード探索者ギルドにて
とりあえず、げっそりした感じの城戸さんを連れてギルドへと向かった。川島は対照的に楽しそうだった。
特に亜人さんに興味津々であるのだ。顔見知りに会うと立ち話になるので、言葉もわからんくせに混ざりたがる。
図々しくも、全身毛むくじゃらの獣人さんの耳や尻尾を触りまくりだ。エルフさんの耳も餌食になった。
女の子同士だと、きゃあきゃあ言いながら騒いでいる。魔法少女も触られまくりだ。ちょっと羨ましい。おい、胸はやめとけ!
『おい、スズキ。何なんだ、この子は』
やられたほうも、爆笑しながら訊いてくる。
「まあ、気にするな。こういう奴だ。あ、こいつはカワシマだ」
『そうか。じゃあ、カワシマまたな』
お互い手を振って分かれたが、城戸さんは呆然としている。
「どうしました?」
「あれが若さというものでしょうか。羨ましいわ」
「いや、あれは単にああいう性格なのです」
「そういうものですか……」
俺達はギルドに着くと、ギルマス執務室を直接訪ねた。
「というわけで、こちらが城戸さんだ」
机の上で執務中のスクードが、ペンを置いてこちらを向いた。
『何が、というわけなんだ?』
「今回は、この人の御守なんだ。成り行きでね。明後日には帰るんで、宜しく」
俺はやや欠伸をこらえながら紹介する。
「初めまして。城戸と申します」
「だってさ」
『それで、その人がどうしたのか』
「いや、国の方から連れて行けといわれて、連れてこざるを得なかっただけなんで。まあ、適当に見てもらうだけなんだが。ここでなんか聞きたいこととかないかなと」
俺が念話で話しているので、城戸さんにはスクードとの会話はわかっていない。通訳が必要だ。スクードに念話で話してもらえば問題はないが。
「城戸さん、こちらは、このクヌードを治めているスクード・ギュスターブだ。探索者ギルドの長も兼ねている。なんか質問あったらどうぞ。念話というスキルを使っていて、日本語で喋れば通じるから」
「そうですね。初めまして、城戸と申します。私は、このダンジョンを通じて繋がっている、日本という国からやってきました。その日本の政府関係者が、直接調査に赴いたと思ってください。
鈴木さんは民間人ですし、自衛隊は米軍からの要請で鈴木さんに応援を出しているだけと聞いております。その繋がっているという事について、どう思っておられますか?」
『まあ、繋がっているというか、そいつが個人的に迷宮に招待されているだけなんだが。そちらの世界に繋がっている迷宮は、こちらの迷宮が伸ばした根っこのようなものだ。直接通路が繋がっているわけではないから、どうとも思わない。そちらの軍隊が押し寄せてくるというなら国を交えた問題だが、そうではないのでね。
スズキの話では、アメリカという強引な国が軍事制圧をもくろんだが結局来ることはできないし、魔法の反撃による被害が甚大との判断で、こちらへの侵攻は諦めたようだし。
そちらの金持ちがこちらの物品に興味を示し交易を望んでいるそうだが、スズキ以外にそれを行なえるも人間はいない。それもいつまで続けられるかわからない代物だ。それもグラヴァスの辺境伯を通してという事なので、このクヌードは基本関知しない。国王とも謁見したそうだから、こっちの国とも話はついている。日本でもそうなのでしょう?
そちらの国で多大な被害が発生しているいというのは耳にした。しかし、それを我々クヌードが齎したわけでも我が国が画策したというわけでもないので、私の立場から特に言えることはありませんね。
あなたも、全権大使としていらしたわけではないでしょうし、国交を樹立したいわけでもないでしょう。自由に行き来できるわけではないのだから。ただ多少の交易はできるので有意義かもしれませんね』
城戸さんは、そのあたりの内容をよく噛み締めながら話を続けていく。
「ただ、問題は今後も日本でダンジョンが拡大して更なる被害を齎すのではないかという事です。我が国としては、そのあたりを非常に危惧しております。鈴木さんが提出した報告書は、その可能性が示唆されており、予断を許さない状態です。
恥を偲んで言えば、そのあたりの事情が政治の混乱を招き、更には国防にまで大きく影響しそうな可能性も秘めています。
出来ましたら、この国の王様とお話をさせていただいて少しお話を窺いたいのですが」
おいおい、ちょっと待った。
「城戸さん、それは話が違うぜ。クヌードで3日という約束だ。まあ、話を聞いていれば、なるほどとは思うが、あんたの安全を絶対に確保できる体制ではない。それは諦めてもらおう。
自衛隊が預かっているんじゃなくて、俺があんたを預かっているんだ。自衛隊は米軍経由で寄越させた応援だ。その川島だって、俺が急遽あんたのために要請した人間だ。言ってみれば全部俺の部隊ってわけだ。
だが、あんたに何かあれば自衛隊も責任を追及される。あんたの勝手を許すつもりはない。あんたを連れてきたのは、守山の師団長に頼まれたからに過ぎない。
更に言えば、あんたが王様に会って何か気にいらない態度をとったら首が飛ぶぜ。ここは、そういうところなんだ。別にあんたを斬首にしたからって、日本の国が仕返しに来るわけじゃないからな」
ぐっと言葉に詰まり唇を噛み締めながらも、彼女は引き下がらない。
「それでも、政府としては、手を拱いて見ているわけにはいかないのです。王様に会わせてください」
うーん、どう言ったもんかな。偉い真剣な顔で、ぐいぐい押してくる城戸女史を眺めながら説明してやる。
「スクードは市長に過ぎない。ここで、そんな事言ったって無駄だ。この騒ぎは国さえも関係ない。今この世界は、地球で言えばイスラム過激派みたいな連中が国を跨いで色々やらかして、キリスト教徒とドンパチやっているような感じ?
それだって、一般のイスラム教徒の人やキリスト教徒の人にはまったく関係が無い。
宗教的な覇権に自らの利益を求める貴族などが入り乱れ、怒涛のように組んず解れつのバトルロワイヤルをやっている感じだ。
それも、裏切ったり寝返ったりが激しいから、どいつが敵か味方かよくわからんみたいな。つまり、全世界が入り乱れて泥沼の内戦をやっているようなものだ。
しかも、表立ってやっているわけではなくて、テロレベルの事が集積しているみたいな闘いだ。地球でも大国が苦戦している奴さ。ここは全部がそうだ。国同士で戦争しているわけじゃないし。どこの王様にだって手も足も出ないような状態だ」
「では鈴木さん、どうするのですか」
「どうもこうもない。おかしな儀式をやっている連中がいる。邪神派とかいう連中だ。別に神様のためにやっているんじゃなくて、その神様を崇めている派閥の利益を求めての行動だから。主に貴族連中だからな。色んなしがらみがあるので、王様だって迂闊な事は出来ないんだ。神様だって迷惑しているさ。
少なくとも、あんたにはどうする事もできないよ。そのへんの情報を探しに行きたかったのに、あんたみたいな足手まといがきたので、こっちまでクヌードに足止めだ。あんたがここにいる事が日本の国益や安全保障に反している」
彼女は俺を思い切り睨みつけたが、状況はまったく変わらない。
「わかりました。とりあえず視察は続けさせてもらいます。記録は撮ってくださっているようなので後でください」
やれやれ。全身から黒いオーラが立ち上っているな。こんなものを押し付けられて、今回は不運だった。
「悪かったなスクード、仕事の邪魔をして。まさか、ここであんなにゴネるとは思わなかった。よく知らないが、たぶん政府の、与党の人間なんだろう。失点が無ければ安泰というわけなのさ」
俺は彼に非礼を詫びて、部屋を退出した。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。




