4-17 異世界諸事情
塀の上に、ここの警備隊長のアランが見えた。
「おーい、アラン。今まで来た事ない人を2人連れてきたんだが、いいよなあ」
『お前の友達かあ?』
塀の手すりに掴まって、アランも叫び返してきた。
「1人はそうだが、1人は国の関係の人だ。とりあえず人畜無害だから。ま、今回はその人の御守みたいなもんだ」
『そうか、通っていいぞ。ビールは持ってきたか?』
「おう。山盛りな」
『今夜もマサだろ?』
「もちろんだ」
それを聞いた彼は満足そうだ。毎回新しい食い物を持ち込んでくるから、そっちの方も楽しみにしているらしい。
「ね、鈴木、マサってもしかして」
「ああ、マサさんの店だ」
「やったあ。お店やっていないと思ったら、こんなとこにいたのね」
川島は大はしゃぎだ。こいつの飲兵衛具合は、山崎とどっこいなんだった。そういや、正さんの話はしてなかったなあ。
「あのう、正さんというのは?」
おずおずと城戸さんが聞いてきた。
「ああ、ダンジョンで行方不明になっていた民間の方なのですが、我々が来た時にはお店を開いておりましたよ。こちらで定住されると言っておられたようなのですが、最近情勢が不安定なんで、その辺は流動的ですね」
城戸さんは頭痛そうな感じで、片手で押さえていたが、
「他に日本人で来ておられる方は?」
「御一人、行方不明の方がおられましたが、生存の見込みはありません。古い血痕のついた本人のリュックが発見されまして。自衛隊による11日間にわたる捜索が行なわれましたが、とうとう発見には至りませんでした」
「そ、それは」
彼女の顔色がまた悪くなった。
「な、なんていうか、その、ダンジョンで行方不明になった場合は、亡くなられていた場合でも、遺体が見つかる事はありませんので」
ああ、更に顔色が悪くなった。説明へたかな、俺。
「さ、行きましょうか」
俺はさっさと歩きはじめた。きょろきょろしながら川島が後に続く。ちらと後ろを見たが、木戸さんの後ろに3人、前に2人ついている。
やれやれ、川島、お前は何しにきたんだ?
外の広場の歓声に身を委ね、周りの景色を見渡して、城戸さんもようやっと異世界へ来た実感が湧いたようだった。
「とりあえず、宿舎へご案内します」
「宿舎?」
「いつも定宿にしている宿ですよ」
いつもの通りの定宿に足を運んで、ラーニャに声をかけた。
「よ! 今日は8人なんだ。2泊で3部屋頼む」
『じゃあ、これね。金貨1枚と大銀貨2枚になるわ』
鍵を受け取り、代金を払ってから城戸さんを案内した。魔法陣の湧く鍵には驚いたらしいが、城戸さんは不安そうに訊ねた。
「あのう、御風呂とかトイレは?」
「お風呂は無いです。お湯で拭くのが一般的ですかね。王都だと風呂付なんかもありますが、ここは探索者の街ですので。後はどこかで水浴びじゃないですか」
城戸さんは思わずぐっと奥歯を噛み締めて、恐る恐る訊いてくる。
「あの、ではトイレは?」
俺は、あー、という感じで少し目を宙に泳がせてから現場に向かった。
無論、男女別になっている。そして案内して、自分の目で確かめてもらった。
ここは西洋式ニイハオトイレで、固い紙か不浄の左手だった。けっこうローマ式が入っているかな? 横に並んで座ってする感じだ。
川島にはトイレットペーパースタンドを渡しておく。俺の自作だ。これは案外と売っていなかった。いや、日本じゃ需要がないよな。
「へー、女の方も一緒なんだねー」
俺は感心した。さすがに、そこまで調査したことはないし。
川島にはトイレが受けまくっていた。爆笑して、へらへらしていたが、城戸さんは完全に涙目だった。
「トイレ、トイレだけはなんとかなりませんか~」
マジ顔で泣きつかれた。
仕方が無い。彼女達の部屋へ行き、ベッドの間にレンタルトイレを出した。タンク式の水道も一緒に。
「うわあ、部屋の中にトイレかあ。勘弁してよ~」
今度は川島が泣き叫んだが、嗜めておいた。
「お前は。何のために収納を覚えたんだ。これ、5セットほどやるから。あとトイレットペーパーも。それだけありゃあ、どんなに出しても、帰りまで持つぜ!」
「そうかあ。いや、収納って便利だなあ」
馬鹿笑いする川島。
「早く帰りたい……」
異世界には、あまり馴染めていなさそうな城戸さんが呟いていた。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。




