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4-16 異世界到着

 俺達は直でダンジョンへと入った。そしてすぐに停止した。佐藤もわかっている。

「何故、こんなところで止まってしまうのですか? そもそも、どうやって……」


 そこまで言って、城戸さんの悲鳴が車内をつんざいた。


 川島といえば、

「女の悲鳴は2キロ先でも聞こえるっていうけど、本当ね~」


 なんて肝をしていやがるんだ、この女。既に窓の外は百鬼夜行だ。


「よかったですね、城戸さん。ちゃんとお迎えが来てくれました。異世界へ行けそうですよ」


「お、お迎え??」

 彼女は、車の周りでひしめいている魔物に怯えている。


「ええ、こいつらに送り迎えしてもらわないと、行き来できないんですよ」

「……」

 絶句していらっしゃるらしい。


「わあ、すげえ、魔物だあ。この状態で襲ってこないんだねえ。写メ撮っていいかな?」

 一方川島はといえば、スマホを出して撮影を始めた。


「写メ送るんなら早くしろよ。魔物さんだって暇じゃないんだ」

「はいはい。送信っと」


「それって誰に送っているんだ?」

「内緒~」


「まあいいけどな。じゃ、もう行くぞ。おい、待たせたな。やってくれ」

 俺は軽くビニール窓のジッパーを開けて、魔物に声をかけた。


「タクシーですか……」

 城戸さんが、力なく呟いた。


 そして、魔物達が車を押すような感じで消えていったかと思ったら、俺達は明るい大広間の中にいた。

「着きましたよ。ここが異世界です。ようこそ川島さん」


「こ、ここが」

 車の窓ごしにあたりを見回して、きょろきょろしている。


「ねえ、鈴木、降りてみてもいい?」


「駄目だ。この人をあんまり歩かせたくない」

「そうでした」


 川島がペロっと舌を出す。大丈夫か、こいつは。残念美人だが、そういう仕草は可愛いな。山崎が見てくれているから、いいとは思うけどな。城戸さんが、頼みますよ、みたいな顔で俺を見ている。


「ここが異世界の最初に来る場所ですか。必ず、ここへ?」

「他の人は知りませんが、俺の場合はここがポータル、出現する地点です」


 だが、城戸さんは言った。

「あの、少し下りてみていいでしょうか?」

「わかりました、どうぞ」


「あー、鈴木。あたしの時は駄目だって言ったくせに~」


「バカ野郎。視察として見たいとおっしゃられるから許可したまでだ。そうでなければ、余分な危険は避けるのが常識ってもんだ。まあ、ここは基本安全地帯だけどな」


「基本と申しますと?」

 若干不安になったのか、城戸さんが訊いてきた。


「ダンジョンは放置していると、魔物が溢れることがあります。ここは探索者ギルドがきちんと管理していますので、そんな事はないでしょう。もし危険があれば、俺が対応します」

「わ、わかりました」


 城戸さんは車外へ出て、しばらくぐるりと見回していたが、思わず言葉を漏らした。

「このホールは人間が作ったのかしら」


「うーん、ホール自体は天然なのかもしれませんが、明らかに人の手が入っていますよね」

 川島は、石畳をつんつんしたり、天井を見上げたり、スマホで写真を撮ったりと忙しい。もう夢中だ。


 おい、護衛はどうした。他の連中が銃を持って立っているからいいけどな。こいつは、男が立ち入れない場所でのお世話と護衛のために連れてきたのだ。


「さあ、行きましょうか。なんなら、歩いていきますか? 外はちょっとした見ものですよ」

「ええ、そうしてもいいかしら」


 城戸嬢は、慣れないブーツの覚束ない足取りで、あたりを見回しながら歩いていた。

「あ、その前に。おい、川島。ちょっと、こっちへ」


「なあに~」

「その89式をしまってみろ」


「え? どこへ?」

「いいから、仕舞うと念じてみろ。口に出してみてもいい」


「じゃ、仕舞う~」

 なんて、締まらないんだ。


 だが次の瞬間に、重量3・5kg以上ある89式自動小銃は奴の手の中から消え失せた。


「おお~~」

 両手をバタバタさせて驚いている。川島め、なかなかいいリアクションだな。連れてきた甲斐があったというものだ。


「何これ」

 川島がパチンコ玉のように目をまん丸にしている。


「出してみろよ」

「出ろ~」

 やっぱり締まらんなあ。


「凄い鈴木、出たよ。何、これ」


「それが収納。いわゆるアイテムボックスかな。さて、今度は城戸さん試してください。そのバッグでいいですよ」


「え?」

 凄い戸惑いが伝わってきた。うーん、一般人の反応はこんなものか。一方、川島は出したりしまったり、概ね他の連中の時と同じ反応を示した。浮かれてやがるな。


「できませんわ」

 非常に困惑した様子だ。


「やっぱりですか。自衛隊の隊員は、個人装備の運搬や弾薬・水・食料などの補給などの兵站を敷く事を必要としています。だから、こういう能力を身につけるようです。あなたは連れてこられただけで、必要ないので身につかないのでしょう」


 大荷物を背負って行軍したり、ハイポートと言って、いわゆる捧げ筒で走らされたりしなけりゃ、切実感が湧かないよな。俺は退官後2年近くにもなるのに、身についてしまった。


 城戸さんは、眉の間を揉んでいた。あー、早く異世界事情に慣れてくださいね。


 俺達は出発して大広間を出た。異世界の抜けるように青い空。石畳の広がる広場と、それを取り囲む高い塀。


 その上には多数のバリスタに取り付いた、革鎧の兵士達が多数見られる。城戸さんが息を飲む気配が感じ取れた。


「さあ、行きましょう」

 俺達は呆然と見ている城戸さんを促して先を進んだ。


別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

重版&緊急コミカライズ決定いたしました。


http://ncode.syosetu.com/n6339do/

も書いております。

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