表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/232

4-15 異世界視察紀行

 そして、翌日。半泣きの城戸さんを連れて、俺達は師団長の前で敬礼していた。城戸さんも見事な迷彩服だ。全然様になってはいないが。


「では、いってまいります」

「うむ。気をつけて行ってこい。城戸さんも楽しんできてください。滅多に行けるところじゃありませんよ」


 城戸さんは肩だけでなく、髪の毛から表情まで、何もかも垂れ下がっているような雰囲気だ。慣れれば異世界も楽しいんだがな。怪獣映画の主人公気分だぜ。


 司令部の廊下を歩きながら、佐藤がボヤいてきた。

「今日行くとは聞いてなかったぞ」


「仕方が無い、今回は接待ツアーだ。自衛隊の予算のために頑張れ。周辺はヘリで飛ぶぞ。ついでに飛行魔物との戦闘シーンも見せよう。あれを見てもらわないと、何のために行くのかわからん」


 それを聞いて、城戸さんの顔が青白くなった。

「あの、別に怪獣退治が見たいわけでは……」


「はい、はい、見たい~」

 川島が大はしゃぎで手を上げる。同じ女でも、こうも違うんだな。


「それじゃ、ラドーなんかどうだい?」


「あの、ラドーというのは?」

 おそるおそるといった感じで城戸さんが聞いてくる。


「大昔、地球にいた大翼竜に似た奴です。全長30mある大物です。政府にサンプルとして提出されたはずですが。生きている奴は大迫力ですよ」

 城戸さんは眩暈がしてきたようだった。


「ああ、あれは置くところが無くてな。俺がまだ預かっているんだ」

「米軍なら、いつでも引き取ってくれると思うぜ」


「うむ。寄越せと、結構うるさいらしいな」

 俺と合田の会話にも、川島はまったく動じる気配すらない。


「私、何か間違えちゃったのかしら……」

 城戸さんのか細い呟きが聞こえたが、誰も聞かなかったことにした。


 彼女は政府の委員会からやってきた人間で、自衛隊は要請を受けて異世界へ視察に連れていくのだ。


 書類は既に処理されている。今更泣き言など許されないのだ。学校とは違う。親戚1人殺したくらいでは行くのはやめられない。


 高機動車の荷台に城戸さんを積み込んで出発する事にした。俺達はいつものノリで次々よじ登っていったが、城戸さんはおろおろしていた。


「川島、お前が城戸さんの面倒みないでどうするんだ。俺達がお尻を押し上げてやるわけにはいかないんだぜ」

「いっけなあい。すいません、城戸さん、今から押します」


「あ、あのう。できれば、台か何かあるとうれしいのですが」


 そういや、試乗会の時に使う乗り降りするための台があるんだった。最後まで下に残っていた俺は、台を出して木戸さんを促した。


 乗り込む姿勢も何かこう、へっぴりごしだ。高機動車の後ろの部分にヘルメットをゴンゴンぶつけている。すかさず手を差し伸べるのは山崎だ。


「鈴木、相変わらず気が利かないわねえ」

「お前だって、気がつかなかったじゃん」


 俺と川島は肩をバンバン叩き合って大笑いした。


「あ、城戸さん。頑張って、台無しでも飛び乗れるようになっておいてくださいね。急に魔物に追われて逃走するような場合、逃げ遅れてやられてしまうといけませんので」


 ダンジョンに向かうため高速を走行中に、城戸さんがおずおずと聞いてきた。

「あのう、助手席に乗せていただくわけにはいかないでしょうか」


「駄目です。あそこは、車長といって、車の運行に責任を持つ人が座る場所なので。何の訓練も受けていないあなたにできますか?」

「無理です……」


「色々厳しいことを言うようですが、現地では何が起こるかわかりません。自衛隊本隊の支援も無ければ警察すらいません。大使館もありませんので。はっきり言えば人間としての権利すらありません。王族貴族が現役の封建社会で、平民には文句言うこともできません。


 剣と魔法、そして魔物溢れる世界です。日本円を現地通貨に替える事もできません。盗賊も出ますし、治安も悪いです。くれぐれも言っておきますが、間違っても1人歩きなんてしないでくださいね。レイプや殺人なんて、当たり前のようにおきます。


 見た事はないですが、奴隷商人なんかもいるそうです。攫われて、売られる人間なんて数が知れません。基本は全員で行動です。なるべく御要望にはお答えしたいと思いますが、頼りになるものは、我々が築いたコネと、こいつだけです」


 そう言って、俺は89式自動小銃を引っ張り出した。


「あと、一応川島はついていますが、女性だけでの行動は謹んでください。理由は先ほど申し上げた通りです。現地では、本日を入れて3日滞在。基本的に迷宮都市クヌードからは出ません。移動には危険が付き物なので。我々は慣れっこですが、一般の方を連れて行くのは躊躇われるレベルです。


 あと、その迷彩服をずっと着ていただきます。それは我々のトレードマークのようなもので、それを着ていればクヌードでは友好的に扱われます。敵対する者がいても、簡単には手を出してきません。


 相手は我々の火力を知っているし、何よりクヌードを管理するのが探索者ギルドでありますので。我々は彼らと懇意にしています。というか、我々自身が探索者として身分証の発行を受けています。あなたと川島は身分証が無いのも、実は問題なのですが」


 なんか、城戸さんが泣きそうだ。

「大丈夫よ、城戸さん。こいつは回復魔法なんて便利なものを覚えてきたのよ。手足の1本2本もげたって生きて帰ってこられるって!」


 いや、その考えはどうだろう。いくら政府の人間だからって、非戦闘員にその考えを押し付けるのはどうかと思う。まあ、間違ってはいないのだが。


 かなり顔色の悪くなった城戸さんを乗せて、高機動車は一路ダンジョンへと向かった。


別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

も書いております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ