4-14 視察とは行軍する事と見つけたり
「初めまして、日本政府ダンジョン対策委員会の城戸です」
その女性は、30歳くらいと聞いていたが、もっと若く見えた。
「あの、失礼ですが、何故城戸さんのような若い女性が? 今現地は非常に情勢不安定な状況です。本来は女性など連れていけるような場所ではないですが」
彼女は肺活量検査をするかの如く、深く、深く溜め息を吐いて。
「あなたが書いた報告書を読んで、うちの爺様達がね。日和ったって事よ。いきなり昨日言ってくれたわ。城戸君、君ちょっと異世界まで行ってきなさいですって。憤慨しちゃうわ。こっちにも都合っていうものがあるのよ」
あっちゃあ。そういう話だったの。それはお気の毒様。
「でも、同じ女性がいてくださって助かりますわ。宜しくね、川島さん」
「は、はあ」
川島も、なんだか間抜けな声を出している。
「ところで、城戸さん、足は速い方ですか?」
「は?」
「いやね。現地での移動には、高機動車やヘリを使うんですが、万一の場合は走って逃げるしかないし。行軍、40キロくらいならいけそうです?」
「あんたね……」
川島が腰に手を当てながら足を開き、少し前かがみになるようにして、呆れたような声を出しながらジト目で俺を見ている。まるで悪ガキをとっちめる婦警さんだ。
「いや、冗談抜きでヘリはいきなりだと飛べないしさ、飛んでも落とされそうだったら地を這って逃げて、どこかで反撃した方がいいし。車でも走れる場所に限界ってものがあるんだ」
俺は笑顔で前もって説明した。どうだ、親切だろ。いきなりだと、びっくりされるだろうし。
「それはなるべく無しにしていただけると、ありがたいですわ」
城戸さんは、顔色ひとつ変えずに答えを返してきた。おお、意外と冷静だな。
「そうですか。重装備を着込んで真夏の16キロ走とかも、慣れれば病みつきですよ」
今まで、それは無くて幸いだったが。この先、いや今回無いなんて誰に言えるのか。
「そこ! レンジャー訓練、基本に考えない!」
すかさず川島から突っ込みが入る。
「レンジャー!」
俺が突然大声を出したので、城戸さんに驚かれてしまった。
「な、なんですの?」
自衛隊の内輪ネタなので不思議がられていた。
「ああ、気にしないでください。レンジャー訓練中は何があっても、あの返事しか許されないのです。たとえ首まで地面に埋められていてもね」
城戸さんが目を丸くしていた。うるさいぞ、あれは不可抗力だったんだよ!
「一応、その厳しいレンジャー訓練を積んだ猛者がメンバーに3名いますので安心してください。私も、それなりには戦えますから。女はレンジャー訓練にいけないのが残念です」
「そ、そうですか。宜しくお願いします」
城戸さんが、何か不安になってきたようだ。
そして、師団長がそれに追い討ちをかけた。師団長が手に持った迷彩服やヘルメット、訓連用の半長靴などに城戸さんは視線を彷徨わせていた。
「ああ、川島。これ、城戸さんの分だ。装備の付け方を教えてやってくれ。靴の磨き方は教えなくていいぞ」
「銃の撃ち方はどうしますか」
城戸さんは、「ええっ!」というような顔をして川島を凝視していた。
「ああ、今回はやめておこう。素人に持たすと危ない。持たせるのはナイフくらいにしておこう」
「はっ」
城戸さんが、「ねえ!」とでも言いたそうな顔で司令を見ていた。
「さあ、城戸さん、行きましょう」
半泣きの城戸さんを川島が優しく引っ立てていった。
半長靴は履いてほしいな。足首をホールドしてくれるんで、普通の靴よりは向こうでも頑張れるんじゃないかと思うの。行軍の必需品だぜ。
「師団長も人が悪いですね。可愛いからいじめちゃうんですか?」
ちょっと、いたずらっぽく笑って言ってやったら、
「何を言っている。あの人に死なれでもしたら、えらい事だからな。無理せずに今回はさっさと帰って来い。危ないところへは連れて行くんじゃないぞ」
やれやれ。本気だったのか。しょうがない、今回はクヌードだけで我慢してもらおう。それくらいなら、さっさと明日出発するか。
とりあえず、司令部に山崎を呼び出して、明日行ってさっさと片付ける話になった。
「というわけでな。急いで2~3日、クヌードでも見せておこうかと」
「わかった。お偉方の事情じゃ、仕方ないよな。頑張るか」
「他の連中にも言っておくか。あいつらは豊川からだから、急に無理は言いたくないんだけどな」
HJネット小説大賞一次選考通過してました。
288作品もあるから、二次選考通過は難しいかな~。
でも、1900作品もの中から残れたのは、やっぱり嬉しいです。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。




