4-11 聖なるファルクット
その後で、敵性魔物と間違えて竜騎士を攻撃したりしないように飛竜を見せてもらったのだが、これがまた、なんというか可愛い生き物だった。
確かに龍って感じの奴なんだけど、今まで見た飛行魔物なんかとは大違いだ。抱きしめたらモフって音がしそう。
お目目がくりくりでさ。また可愛い声で鳴くんだ。なんていうか嘴みたいな感じの口で、カートゥーン・スカイドラゴンとでも名づけたいような。
首周りから背中にかけて、なんか毛が生えてて、もふもふしてる。上等なマントを背負っているみたいだ。
鱗で覆われたあたりも、なんか柔らかそうで撫で心地がいい。それでも高い防御性を持つらしい。
ファルクット。名前も可愛いけどな。まだ子供の奴も見せてもらったが懐っこくて、しかも無茶苦茶に可愛い。
これは飛竜として使われるわけだ。子供から絶大な人気があるらしい。それでエルシアちゃんも御執心だったのかよ。帰りに自慢しちゃおう。
池田がすげえ執着していた。こいつがケモナーなのは、家でいっぱい動物を飼っていたせいらしい。
30分もファルクットのチビから離れなくて困ったのは内緒だ。もっとも、それを口実に俺達もたっぷりと楽しんでいたのだが。
色々な案件について話をしてから、俺達は王様達に見送られながら王都を旅立った。俺達はファルクットの可愛さの余韻を残しつつ、一旦帰路に着いた。
合田までもが、「いや、ファルクットの乗り心地は是非調査して報告しないといけないだろう」などと言い出す始末だ。
帰りの道中は飛行魔物にも絡まれずに、一気にグラヴァスへと辿りついた。
戻ってエルシアちゃんに教えたら、もうカンカンだ。
『えー、ズルイー、みんなズルイよ~。あのファルクットといっぱい遊んできたなんて。大人のくせにー。今度王都に行く時は絶対に私も一緒に行くわよ。置いていったら、承知しないわよ~』
「はいはい、エルシアちゃんはお子様ですねー」
『もー。スズキのバカ~。ファルクット~』
ちょっとお餅が膨れたので、機嫌直しに写真を引き伸ばして作ったA3サイズのファルクットポスターをパウチしてやった。
劣化を遅らせるように紫外線カットフィルムまで張っておいた。可愛いプラ画鋲で部屋の壁に飾って、すぐにご機嫌が直った。
それから土産話や王都の御土産をご披露して、楽しい夜を過ごしていった。
翌朝、出発する際に辺境伯と話した。
『それでゴルディス辺境伯、それなりに情報が集まったので報告のために一旦向こう、俺達の国に帰りますわ。今度は最初から王都へ入る予定なので、また何か王様に見繕ってきます。一応商取引の分はゴルディス家を通させてください。王様を信用しないわけではないのですが、安全を優先させたいので』
『ふふ。わしを国王よりも、信用してくれると?』
「我々からみて、あなたは義理のある関係ですが、国王とはそうではありません。個人的にはよくしてくれそうですが、あちらはいざとなれば、国家の非情という話も出てきかねませんしね」
『まあ、そういうものだろう。世の中には目先の利益に目が眩み、色々と見えなくなるものも多いが、お前は違うようだな』
「慎重にいきたいですね。家族が大切なだけですよ。生まれ育った街も。名古屋、愛知県の人間って、極端にそういうところがありますのでね。なんというか、異常に地元べったりという奴でして。まあこれは同じ日本人にもよくわかってもらえないお話なので」
『まあよい。気をつけてな。それでは待っておるぞ』
執事達には、色々日本から持ってきた食材をしっかりと渡しておいた。短い期間でそば打ちとか、だいぶ腕を上げたようだ。見上げた奴らだ。
屋敷総出で見送られながら、俺達はクヌードへ帰る事にした。だが、途中の飛行中にイルクットの野郎が現れた。
「おい肇。今度こそ、あいつをサンプルに! たいした事ない奴だったろ」
「お前な。まあいいや。じゃあ狩るぞ、山崎」
「あいよ」
ヘリは速度を落とし、青山が扉を開けてくれる。凄い風だが、特に動じることはない。
向かってくる奴に向けて俺は弓を引き絞った。加速した矢は、あっという間に音速を遥かに超えた。ソニックブームを起こさずに音速を超えるという現象が未だに理解出来ない。
魔法で防護されていなければ、矢が一瞬にして燃え尽きたかもしれない。青い必殺のプロミネンスは威力を適切に調節されて、バチンと掠めただけで奴の首を切断した。
サンプル回収は合田の仕事だ。奴は満面の笑顔を不気味に顔に張り付かせて、にまにまとほくそえんだ。
こ、こいつ。既に魔物コレクターと化しているな。まあ、ここにいるのは全員男の子の延長なんだし。その気持ちもわからんでもないがな。
実のところ、俺だって結構あれこれコレクションしているのだ。
みやげ物屋のがらくた細工。集められるだけの種類の迷宮宝石。屋台の食い物を各街で。本当にしょうもないけれど、心の琴線に触れたがらくた類など。
我ながら、壊れた鎧の留め金なんか集めてどうするつもりなのか。王都でも、王様に頼んだら、爆笑されたわ。
王様も自分のコレクションを見せてくれたけれど、結構くだらない物だった。王妃様には内緒だそうだ。男って、どこの世界でも身分の上下を越えて変わらないもんだな。安心したぜ。
ギルドの庭に着陸して、いつもの如くデータをバックアップする。みんなも、もう慣れたもんで、ヘリのブレードスラップ音が聞こえてきたら俺が帰ってきたと思うらしい。
俺達は、遠慮のえの字もなくギルマスの執務室に入り込み、事の子細を告げた。
『ああ、思ったよりも大事になっているじゃないか。お前の世界は大丈夫か?』
「あまり大丈夫じゃないと思う。だが、やらんと更に大丈夫じゃないな」
『そうか。じゃあ、また帰るんだな』
「ああ、すぐ戻ってくるわ。行きかえりのコツも掴んだっぽいし。チビ達のとこへ寄ってからね」
俺達は久々に車を走らせて、解体場に向かった。
「おーす。元気してたか~」
「わーい、ハジメだ~」
みんな、わらわらと寄ってきた。
マリエールもいる。最近、子供達もお金とか余裕になってきたので、時間をとって読み書きその他を教えているらしい。無論、文房具は豊富に与えてある。
『見てえ、あたし名前が書けるようになったの~』
そう言って駆け寄って名前練習帳を見せてくれる、アンジー。手を切ってしまった女の子の名前だ。
儀式している奴らを倒さないと、この笑顔も守れないかもしれないな。少し気負っている。いかん、リラックスせんと。
そこへ、ポンっ、ポンっ、とあいつらが俺の肩を叩いていく。
「まあ。ボチボチ行こうや」
「気張らずにな」
「力抜けよ」
仲間っていうのはいいもんだ。帰りの道中、俺の顔が強張っていたのを、みんな見ていたらしい。
「わかっているよ。さあ帰ろうか」
子供達に手を振られながら、俺達は高機動車に乗り込んだ。今回はこいつで試してみよう。
迷宮に入り、どこでもいい、通路に入って停止するように佐藤に頼んだ。
「ひゃあ、行きには経験したけど緊張するねえ」
「こいつはM2積んでいないしな」
一応、銃座についた青山も緊張する。
「大丈夫さ。じゃあ呼ぶぜ」
俺は、覚えたての聖魔法を放った。
やがてほどなくして、ザッザッ、と魔物の足音がしたかと思うと、あたりをビッシリと大型の魔物が押し包んだ。
「お、おい肇!」
「大丈夫だ」
なんとなく、奴らから、かすかだが歓喜の雰囲気を感じ取れたような。俺がついに聖魔法を覚えたので喜んでくれているのかもしれない。
そして、魔物達は俺達の車を押すようにしながら消えていく。
そして俺達も。すうっと闇が包んだかと思ったら、21ダンジョンの出口手前にいた。今日はサービスがいいな。お祝いのつもりか。
「期待されている、か」
俺は帰還した日本の大気と共に、不思議な感慨に包まれていくのだった。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。




