4-9 謁見
引き攣った俺達の向こうには、ズラリと並んだ衛兵が左右に並んでいた。何か粗相でもあったら、えらい事だ。ここから脱出するのに骨が折れるだろう。
ギルマスはどすどすと歩いていき、俺達もその後に続く。顔は浮かないが、歩行はいつもの自衛隊丸出しの歩き方で。行進訓練かよ。
ギルマスが跪いたので俺達も真似をする。よくわからないので胸に手を当てておく。こういうのは、大概の場合はこれで間違いないだろう。顔は上げているとマズイだろうな。
『よくぞ、来た。アルフレッド、このもの達がお前の寄越した手紙の者達か』
『はい、陛下。そのとおりでございます』
『代表者は誰だ』
みんなが俺の顔を見る。わかった、わかりましたよ。
「私でございます。まあ、そういう事情なので、念話での会話をお許しください」
ひゃあ~、緊張するねえ。
『よいだろう。異なる世界からやってきたというのは真か』
「陛下は私の献上した物をご覧になられましたか?」
『うむ、見させてもらった。素晴らしい物だった』
「貴方様がお知りになる、この世界の産物であると、お思いになりますか?」
『うむ、思わなんだ』
「ならば、そういう事にございます」
『そうか、この後に昼の宴を用意してある。詳しい話はそこで聞かせてもらおう』
「かしこまりました。私も色々とお話が聞きとうございます」
なんとか、車やヘリの使用許可が下りないかな。あんまり王様に見せないほうがいいかもしれないが。また王都に来ないといけなくなったら、困るな。今回は難儀した。
こうして、俺達は王様とお昼ご飯を食べることになった。
こうしてみると、こいつらって本当にずぶといな。俺は王様と向かい合わせで、合田がその隣で記録官を努める。俺の反対側には山崎がいて、なんか付き添いみたいな感じだ。
王様の隣にはギルマスと、後は知らない人だ。
『名前は何と言う?』
「スズキでございます」
『そうか。ではスズキよ、この男が宮廷魔術師長のマーリンだ。この国における公式の聖魔法使いだ』
聖魔法……使う人がいたのか。公式には……ね。やっぱり、訳あり魔法なのか。魔術師長というには、若すぎるような気がしないでもないが。まだ30歳くらいじゃないか?
召使っぽい感じの人が、杯に酒を注いでくれた。
『よろしくスズキ。マーリンです。まさか、世界を越えし者と出会う事があろうとはな。一体何百年ぶりの出来事か。あるいは1000年ぶりであるやもしれぬ』
俺達みたいなのが来るのは、そんなに珍しかったのか。他にもいっぱい来ているみたいだけど。
俺は話を聞きながらも、明らかに料理を目で追うのに集中しすぎていた。隣に座る合田がゴホンゴホンと咳をする。
俺のそのあまりにも真剣な様子に、王様は笑って話を切り上げた。
『マーリンよ、話は食事の後にしようぞ』
向こうの3人は、もうすっかり料理に夢中になっていた。旨そうに食っている。さすがに酒には手をつけていないようなのだが。
俺は遠慮なくいただく事にした。だって頂かないと、まるで王様を信用していないかのようで気分を害されるかもしれないではないか。まあ、言い訳だけどな。
合田も諦めて食事に手をつける事にしたようだ。なんか味わい方も調査の一環だみたいな風にみえないこともなかったが。
山崎は優雅に平らげている。さすがはボンボンだな。仕草とかはここでは一番似合っているぜ。
ああ、俺も大金持ちなんだった。成金だから、あれだけど。いやあ、お城の料理は旨かったわ~。酒も上等だった。
食後に王族のゾーンのような場所へやってきた。サロンっぽい場所だ。
『さて、スズキよ。我らの世界で言うところの世界を越えし者よ。こういうのは、お前達の言葉ではなんと言うのかしれぬが』
「そういう場合は異世界人とか、私の国では風俗的、民族的な意味合いで稀人とか呼びますね。異なる世界からやってきたお客様、という意味です」
『はっはっはっ。お客様であったか。それでは、稀人と呼ぶ事にするか』
「ええ、神様がやってくるとか、先祖の魂が帰ってくるとかいう意味合いもあったので、おもてなしする相手という意味になったようです。私達日本人は、【おもてなし】という言葉が大好きなので」
侍女さんらしき人が、お茶を運んでくれた。王様の傍に控えている人は毒見係の人らしい。さっきもいたな。
『まず、お前が聞きたい事を言ってみるがよい。さすれば、こちらが知りたいことも見えてくるだろう』
「はあ、それでは、お言葉に甘えて。マーリンさん、そもそも聖魔法とは一体何なのでしょう。名前はよく聞くんですが、珍しいという以外、さっぱりわかりませんよ」
『うむ。それは無理も無いことだね。聖魔法は、言わばあってないようなものだから』
「なんですか、それは」
俺はやや混乱した。あってないようなもの? なんかご大層な儀式に必要で、迷宮から泣きが入って、わざわざ異世界にまで連れてこられるような資質が?
『ああ、混乱させてしまったかな? なんていうのかな。儀式専用魔法というか、本体ならば、大司祭とでもいうような人が持つべきものなのだよ。異世界から来た人がその素質を持っているとは、我々にはその方が驚きだ』
うーん。
「でも、あなたは大司祭ではなく、宮廷魔術師長なのでしょう?」
『うむ。そのへんが、またややこしくてな。使える事は使えるのだが、なんというか使えないようなものなのだ』
ますますわかんねえ。どういうこったい?
『なんというかな、自分で言うのもなんだが、私は魔法の素養が素晴らしくて、色んな魔法が使えるのだ。その上、あまり器用貧乏にならずに、高威力の魔法も使える。だから、この地位についているわけなのだが。聖魔法は少々異なるのだ』
俺には性魔法ならよかったかもしれない。
『魔法適性があり使う事ができるという正規の資質に加えて、司祭のような特別な才能があって初めてきちんと使う事ができる。元々適性のあるものが少ないにも限らず、更に才能が必要だという事でね。
公式には存在しない事になっているが、各国の王が全てを把握しているわけでもない。知られていない、使い手がいないとは限らないというわけだ』
なるほど、希少なジョブとスキルが合わさって初めて使える超希少スキルであったのか。しかし、それで何故、俺が招かれる?
「それが俺の話にどう繋がるのでしょう」
『それはね。この1000年ほどか? 現れなかった強力な聖魔法の使い手が現れて、今まさに儀式を行なっているのではないかという事さ。それを打ち消すことができるのは、同じ聖魔法の持ち主だけという事なのだよ。
アルフレッドの手紙からすると、迷宮は力を吸い上げられ続けたために悲鳴を上げて、君の世界で力の補給をしようとした。そして、ダンジョンやこの世界に危害を加えない、聖魔法の素質のありそうな人間を探していた。そして、それが君だったのだろう』
そ、それはまた。可愛い子ちゃんに頼まれるならいざしらず、迷宮からお願いされるとは!
「うわあ。そして、その儀式が辞めさせられないとどうなるのです?」
『この世界は混沌となり、世界は激しい争いに巻き込まれるだろう。そして、迷宮は力を吸い続けられ、さらなる補給を求め、おそらくは君の世界で更に勢力を拡大するだろう。こちらの世界では、概ね成長限界を迎えている迷宮が殆どでね。それで、空間魔法で根のようなものを伸ばしたのだろう』
「冗談じゃないですよ~。あれ以上ダンジョンが拡大したら、俺のうちがあ!」
「では、すまないがなんとかしてくれ。聖魔法については、私が指導しよう」
『わかりました。ただ、1回戻らせてください。上に報告しておかないといけませんので』
マーリンは王様に向かって、
「おそらくは、こういう事のようなので、宜しくお願いいたします」
『わかった。スズキよ、何か便宜を図ってほしい事はあるか?』
俺は、がっくりしつつも言うだけ言っておいた。
「それでは、この国全域における、車両やヘリの使用の許可をください。あとヘリポートの設営のご許可を。内容については、後で説明いたします」
こうして俺の悪夢は、異世界の王様の前で幕を開けることになった。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。




