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4-7 ギルマス・アルフレッド

 クヌードのギルドマスター執務室が質素に見えるほどの豪華な扉の中へ誘われた。そこには、かなり恰幅のいい立派なスーツのような服を着た男がいた。


 スクードやグラヴァスのギルマスのような、どちらかといえば品を感じさせるような人ではなく、少し角張った顔にもさっと髭を生やし、野獣のようにエネルギッシュなタイプだ。


 とはいえ、噛み付いてやるぞという風な雰囲気は感じられない。


 パイプを咥え、窓辺に立っていた男は、こちらを見ると、その灰色の瞳を鋭く光らせた。うわ、威圧感があるなあ。


『よお。俺がここのギルマスで、アルフレッドだ。お前ら、スクードのお使いだって?』

「いや、お使いというほどでは。とりあえず、まずここへ行けと言われましたので」

 

『ふむ。というと?』


「我々は外国から来たので、勝手がわからないから王都みたいなとこではやたらな事をしないようにと。さっきも門番から厳しく詰問されて参りましたよ」


『ははは。今はちょいとなあ。あちこちで剣呑な事件が起きているからな』

「王都にいる間は、一応、ここの人間だという事で、宜しいですか?」


『ああ、そう言っておけ。あいつも、そのつもりで寄越したんだろう。それより、今夜一緒に飯でもどうだ。色々話を聞かせてもらいたい。スクードが寄越したとなれば、どうせお前らも曰くつきなんだろう。その顔付きもここらじゃ見かけないもんだ』


 彼は鋭い目つきで、俺達を値踏みするように遠慮なく眺め回した。


「ええ、おっしゃる通りですよ。今、馬車を待たせています、それと今夜の宿を確保したいので、一旦退出させてもらっていいですか?」


『ああ、宿なら、すぐそこの【ケーシーの栄冠】がお勧めかな。やや高級だが、風呂がついているぞ。飯も美味い』

 俺達は丁重に挨拶をして退出した。


「なんか、えらいこと場数を踏んできました、って感じの人だったな」

 池田が率直な感想を漏らした。


「普通はそうなんじゃないか? スクードだって優雅な雰囲気だけど、探索者の親玉なんだから。アルフレッドさんの場合は場所柄、政治的な事が絡んでいるんじゃないの?」


「そうかもしれんな。まあ、紹介されてきたんだ。そうそう、おかしな方向に行く事はあるまいよ」

 俺と合田も、そんな感じでやり取りしていた。


 外で待っていた御者を労うと、宿の名を告げて行ってもらう。御者が宿の人と交渉してくれて、無事に泊まれることになった。御者にチップを多めに渡して馬車は帰した。


 宿は1人1泊銀貨15枚だったが、いい宿だったのでここにした。金貨は大量に持っているのだ。よくわからないので5泊頼んでおいた。金貨4枚半だ。


 とりあえず、風呂に入る事にした。実は、この世界で風呂に入るのは初めてだった。どんなものかと思っていたが、割と日本風に湯船と洗い場があって驚いた。


 まあ、それはありがたいので、少しゆっくりと浸かってしまった。


 外に出ると、もう夕暮れになっており、王都の建物や王城が夕焼けに映えて、その美しさに思わず息を飲んだ。


 きっと、フランスの有名な城とかが、こんな感じではないだろうか。合田が、撮影に没頭している。


 少し歩けばギルドなので、ゆっくりと景色を堪能しながら歩いた。中へ入ると、さっきの女性の職員の人がギルマスを呼びにいってくれた。


『おう、来たか。では、こっちへ』

 そう言って、彼は小部屋の方へと俺達を誘った。


「仰々しくて済まんな。どうせ、あいつがお前らを寄越したのは、あまりおおっぴらには出来ん事なんだろう。あいつとは組んで仕事をしていた事もあるからわかる。今はお互い忙しい身だがな。わしなんか、こうやって会食する事も多いんで、この腹よ」


 そう言って、彼は腹を揺すって笑った。うーん、なんとなく事情を察してくれているんだ。


「あの、そちらの女性は?」

 さっき案内してくれた女性職員に視線を送りながら聞いてみる。


『ああ、こいつはうちのサブマスのミッシェルだ。後で説明するのも面倒だから呼んだのだ』

 やっぱりか。どうも、アンリさんと被る感じが気になっていたんだ。


「あ、その前に、うちの酒を飲んでみてもらえますか?」

 そう言って俺は、ビールサーバーセットを取り出した。


『ほう、収納持ちか』

 ギルマス・アルフレッドは少し考え込む風に言った。


「はい、これがビールです」

 山崎がグラスに上手に3度注ぎしたものを2人に差出した。


『ふむ。冷たいな』

 ギルマスはビールを手に持ち、泡だった黄金色を見つめた。


『いい香りがするわね』

 ミッシェルさんも、香りを嗅いで感想をくれた。


 飲み物が全員にいきわたったので、言ってみた。

「カンパイ」


『それが、お前らの国の酒盛りの挨拶か?』

「ええ、そうです。よく偉い人がやったり、その会の主賓がやらされたりしますよ」


 ギルマスは一口飲んで目を見張り、残りの黄金水をゴクゴクと飲み干した。

『ぷはあ。これは美味い酒だな。こんなのは初めてだぜ』


 彼は手振りで御代わりを要求し、山崎はすかさずサーバーを操作する。

「そうですか。クヌードでも好評でしたよ」


『ふむ。単刀直入に聞くが、お前らは何者だ。収納という能力は、ここ2年ほどの間に僅かな数の人間が手にしただけのものだ。それもダンジョンに潜っている探索者のみのものだ。貴族や、兵士、商人などが手に入れようと躍起になっていたが、未だ成功した者はおらん』


「そうだったのですか」

 俺は驚いた。そんな動きもあったのか。


『それに、このビール。見た事も聞いた事も無いような酒だ。それに、何よりもお前達自身だ』

「私達?」


『そうだ。お前達はどう見ても貴族には見えない。だが、一目見て理知的な、高い教育を受けてきたものだとわかる』


 いや、ここに大卒なんか1人もいませんが……。まあ、この世界準拠だと、そう言ってもおかしくはないのかな。


「あ、ああ。私達は、他の世界から来たのですよ」


別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

も書いております。

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