1-7 探索者達
何かを叫びながら、こちらへ走ってくる人影があった。女性のようだ。その後から、男性がもう1人の、負傷したと思われる仲間の男性を、肩に担ぐようにしてやってきた。
こちらを見ると、ぎょっとしたような顔をしたが、俺が行けと合図したら、そのまま立ち去った。大きなエンジン音にも警戒していた。
それでも魔物に追われていたので、仕方なくこちらへ来ていたようだ。みんな、こっちを振り返りつつ去っていった。言葉さえわかれば、情報が聞きだせるのだが。やばかったら、さっさと逃げだすぜ。
そして、魔物が現れた。そいつらは、身の丈2メートル余り。毛むくじゃらで、まるでイエティって感じの奴らだが、全身の筋肉が凄い。
恐らく捕まったら、俺なんか、あっという間にバラバラにされる。普通は最初にゴブリンあたりとやるんじゃねえのか~、という俺の叫びは闇にかき消された。
ずんぐりむっくりで、暗闇に順応したのか恐らく真っ黒と思われる毛皮で覆われていると思われた。そして、その数。わらわらと湧いてきた。数十体はいそうだ。さっきの奴らが逃げるわけだ。
俺は、迷わず手榴弾を次々次々と投げ込んでいった。官給品じゃないし、おまけに複製品だ。命がかかっているのにケチケチしない。グレネード付きのアサルトライフルに持ち替える余裕は無かった。
映画でよく見るような、こんなグレネードは使った経験がない。うっかりミスって、自分の前に落ちたなんていったら!
120mm迫撃砲なんかだと、年に何回かそういう事故はあるそうだ。あれは発射の加速度で信管の安全装置がはずれるはずだから爆発したりはしないが。今のところ手榴弾を投げた方が確実だ。ライフルグレネードの練習をしようと心に決めた。
投擲というのは、人類が2足歩行を始めて得た強力な能力であるといわれるが、本日も如何なくその威力を発揮してくれた。自衛隊で4年間訓練されて、今は毎日厖大な物資の積み下ろしで鍛えられた俺だ。
投擲した剣呑な爆発物は見事に奴らの群れへと、狙い違わず飛び込んでいった。野球関係は得意だった方だ。これで奴らが映画みたいに瞬時に投げ返してきたら、笑えないけどな。
手を持っている生き物だから、案外侮れないかもしれない。猿真似はありうる。塹壕で使う、手榴弾の爆発を逃がす縦溝は掘っている余裕は無かった。
激しい炸裂音の連鎖が、洞窟状のダンジョンに響き渡った。奴らはこちらの通路へ入る前にある、広い空間にたまっていた。
そのため、かなりの被害があったろう。破片で相手を倒す武器なので、こんな相手には効率のいい武器だ。
俺はその都度、車の陰でその爆発の余韻をやり過ごした。まあ、ここまで破片は届かないはずなのだが、念のため。
軽機関銃で二脚銃架を用い、伏せ撃ちで撃ちまくった。大量に複製して、弾薬ベルトを装着した銃を次々とアイテムボックスから引っ張り出して、2000発ほど打ちまくった。
生き残った奴らが、立ち上がってくるのを、弾幕を張って倒していった。
そして、オプションで積み込まれていた3脚銃架に収まったM2重機関銃を引っ張り出す。あの程度の相手なら軽機で充分なはずだが、あれで立ち上がってくるようなら、こいつの出番だ。
緊張しつつ待ったが、立ち上がってくる奴は現れない。俺はM2を仕舞い、あたりに散らばった空薬莢を資源回収し終えると、車に乗り込み前進しながら、次々と奴らを収納していった。
収納すると数までわかる。53体あった。そのまま前進させながら見回ったが、もういないようだ。残りは逃げたか、全滅したか。
最初に試してみたが、生きたままの奴らは収納出来なかった。
とりあえず一旦帰って、店が閉まらない内に換金できるか試さないといけない。俺は広くなっているところで、車を転回させると出口へと向かった。この車は迷宮探索仕様なので、「マッピング機能」がついている。
探索した区域の地図を作成するソフトが車載コンピューターに搭載されているのだ。途中経過はクラウドで米軍のデータセンターにも送られる。ここではオフラインだが、単独でマッピング機能は使用可能だ。
そして、それを辿ってきた道を戻ると、うん、いたな。思ったよりも早目に出くわした。迷宮通路の左側に仲良く背をもたれていた、さっきの連中を発見した。完全にへばって、もう歩けないのだ。
ハンヴィーが轟かす轟音とライトに、へたりこんでいた連中は一瞬ぎょっとしたらしいが、俺が窓から手を振ってやると、ホッとしたようで手を挙げて挨拶してくれた。
しょうがないな。車の中の荷物を片付けて、スペースを開けた。このMk19装備のハンヴィーは6人乗りだ。1人立ち席で1人は荷台にあつらえた特別席だが。6名編成の部隊なら1個分隊単位で行動できる。
言葉は通じないだろうなと思いながら、俺は車を降りて、ドアを開けてやった。煩いのでエンジンは切る。このあたりもう魔物はいないはずだ。エンジンは温まっているので一発で始動できる。新車だからな。
「どうだい? 外まで乗っていかないかい?」
案外、ニュアンスというか、意味は通じるものだ。いやあ、別に可愛い女の子がいたから声かけたんじゃないよ~。
連中は顔を見合わせた。俺は迷宮に入る前に、複製しておいた、ペットボトルの水の蓋を開けて差し出した。
彼らは貪るように飲み終えると、少し元気が出たようで、俺の手振りに従って車に乗り込んだ。怪我人は、真ん中の盛り上がったスペースに毛布を引いて、寝かせておく。
2人はおそらくは金髪だろう、凄い体をした連中で、女の子も髪などは同じような感じだ。そっちは普通に可愛らしい外人の女の子といった風体だ。助手席に乗せたので、ついチラチラと見てしまう。
日本でこんな彼女いたら最高だよな。可愛い女の子を助手席に乗っけてドライブするには、ハンヴィーだの高機動車だのは真ん中に邪魔なものがありすぎる。
もう、連中もきょろきょろと車内を見回して、あれこれ訊いてくるが話が通じない。向こうも、俺に言葉が通じないのが理解できたらしく、仲間内で話していた。落ち着いたかな?
俺はエンジンを始動させた。その轟音に、乗客がまたちょっとパニくった。どうせ説明なんかできやしないのだ。そのまんま走り出す。怪我人を乗せているんだ、ゆっくり走る。
乗客が騒ぐ騒ぐ。無駄と知りつつ何か訊いてくるが、俺はただ御構いなしで笑顔を返すのみだ。言葉がわかったとしても、五月蝿すぎて話はしづらい環境だ。
車載コンピューターのマッピングは完璧だった。ほどなく無事に、明るい大広間に辿り着いた。時間の加減か、今回は他にも結構人がいた。目立つな。
みんな、ガン見してくる。無理もねえわ、反響音が凄まじい。ショッピングモールの店内を、暴走族が団体で駆け抜けていくような騒ぎに聞こえただろう。
このまま大広間の外に出た、ら魔物と間違われて超大型クロスボウの矢が飛んでくるかもしれない。矢を装填するための兵士が4人もついている。
さすがにあれはヤバイだろう。絶対に車体を貫通できる威力だ。とりあえず、出口付近で車を止めて、乗客は降ろした。
向こうもなんとなく察したようで、素直に降りてくれた。車を収納して、怪我人に肩を貸す事にした。
次回は20時になります。
初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。