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1-5 食い扶持稼ぎ

 お金を数えてみたが、さっぱりわからない。材質的に銅の合金だろうか。10円玉のように茶色っぽいが、純度がよくないな。形もローマ時代のコインのように歪だ。


 合金のようだが、何が混ぜてあるのか、よくわからない。比較的小さい感じもするから、小額コインだろう。


 数枚、銀貨と思われるものもあった。もしかしたら、金貨もあるのかもしれない。紙幣は多分無いのだろうな。


 銅貨51枚、銀貨2枚。多分、これは高額ではない。御捻りで貰えるようなものだし。おそらく宿も取れないだろう。


 今日は野宿かな。幸い、気温は低くない。治安が心配だが、車を出してしまっていいかどうかもわからない。ハンヴィーは音があまりにも五月蝿すぎるのだ。


 町の大きさもわからないが、やたらと街の外に出てしまって、後で町に入れなくなっても困るし、ダンジョンに出るような魔物が出てもやっかいだ。


 腹が減ったな。なんかんやで、もう昼が近い。広場で飯を売っている屋台に行った。何か言われたが理解できないし、言葉が通じないので指を1本立てた。


 お兄さんだか、おじさんだかよくわからないような感じの店主が、用意できていた材料で、威勢よく作ってくれた。


 厚めの生地にボリユームたっぷりの肉や野菜を炒めた物を載せた、熱々の料理だ。思わず腹が鳴り、受け取ろうと手を出したら、店主は手に持ったそれを上にあげ、反対側の手を突き出した。


 えーと、いくらなんだろうか。銀貨を1枚出したら、さっきの銅貨よりもかなり大きい銅貨っぽいものを5枚置いて、飯を渡してくれた。大銅貨?


 ボリュームがあって、たっぷり肉が入っていて、いい匂いがする。さっそく一口齧ってみると、美味い! 肉汁が零れ落ちるのも堪えられない旨さだ。


 野菜もはさまっていて、栄養満点みたいだ。大方、魔物肉かなんかだろうが、俺は元自衛隊だ。細かい事は苦にしない。


 災害が起きた時なんかは、車の中で被災者の方から見えないように、携帯食なんかを食うのだ。最近はありがたい事に、水を使って袋の中で暖める器具なんかもある。


 レンジャー訓練の中で蛇や蛙、ニワトリなんかを捌いて食う訓練はいい経験になった。蛇とか自分で捕まえるわけじゃないけどね。


 俺は3年目を超えたのもあってか、中隊単位で行なうレンジャー訓練に送り出された。曹候補の人なら、3等陸曹つまり正規の自衛隊員に上がる人も出始めるくらいの時期だ。


 厳しい割に見返りがまったく無いので行きたがらない奴も多い中、「お前のような体力バカなら脱落する事は絶対なかろう」と。初めから脱落しそうな人間は、部隊が絶対に出さない。


 俺は二つ返事でホイホイと行ってしまった。行きたがらない奴も多いが、行きたいからといって、行かせてもらえるものではないので。志願する者もいれば、上から行かされる奴もいる。


「レンジャーになりたい」と言って、憧れて自衛隊に入ってくる人も多いらしいが、中の実態を知れば、それどころか楽な部署に配属されたがる人もいる。


 あれは厳しい訓練を終えても、昇進にまったくといっていいほど影響はないし、ビタ一文手当ても出ないので。だが誇りだけは手にできる。他の奴からもそれなりに扱ってはもらえるのだが。


 試験の最後にある帰還式というもので、迎えに来てくれる女の子もいないのに無謀だったか。


 ゾンビのように歩きながら、涙を浮かべながら可愛い恋人やフィアンセに出迎えてもらう仲間達を横目に、寂しく駐屯地に帰ったよ。


 地元だったのに家族は誰も来てくれてなかった~。別に嫌われているわけじゃないんだけど。


 帰還式というものが、よくわかってなかっただけらしい。普通は誰か来てくれるものだそうだが。うちの家族らしいな。


 俺はあれで除隊を決意した。体力作りの期間を含めて地獄の4か月だった。その後もしばらく休養だったし、この辺は配慮されているだけだから、俺が特別にダウンしたわけじゃない。


 単に限界までやらかしたので、休養させないと課業ができる状態に戻らないだけだ。


 訓練をクリヤはできたけれど、何かこの先歳を食ってもっとこういう生活かと思ったら、ちょっと駄目だった。


 せっかく任期制隊員なのにレンジャー訓練にも出してもらったのだが、申し訳ないけどやめさせてもらった。


 自衛隊は53歳くらいで定年だけど、仮にそれ以上残ってもよっぽど楽なとこでないと勤まらないとみんな言っている。


 豊川駐屯地の他部署で、レンジャー徽章をつけたそれなりの歳になった人も、「定年を引き上げてくれたとしても無理、体がついていかない」と言っていた。


 幕僚になったって一般隊員と同じように訓練する。平隊員なら、なおの事だ。色んな人の話を聞いて、自分の意思で決めたんだ。みんなにも相談したし、相談窓口も利用した。


 そういった事も含めて、しっかりと上司達と面談した。中隊長は残念そうにしていたが、文句は言われなかった。


 自衛隊はきちんと話をすれば本人の意思を重視して、ちゃんとやめさせてくれる。退職する時には、送別会で「お疲れさん」と笑顔で言ってくれた。


 同期の仲のよかった連中は、みんな自衛隊に残った。俺は地元だったので、よく一緒に遊びにいったりもした。最近は3曹への昇進も難しい。


 曹候補の人達も多い中で任期制隊員の3曹の試験合格は厳しいものもある。残留を希望した優秀な人もなかなか残れない中で、彼等は全員優秀だったんだろう。


 一次試験に合格して、3等陸曹への見込みありな陸士長として、3任期目へ進んでいった。

 そして、俺はといえば……今異世界らしき場所にいる。


 先ほど受け取った大きな銅貨のようなものを取り出した。多分、これはいわば大銅貨とでもいうべきものだな。


 軽食1回の代金とすると、多分銀貨が1000円くらいで、500円お釣りくれたってか。さしずめ残りは2000円くらいの感覚だな。あかん、宿には泊まれそうにない。


 ん? さっきの狼さんご一行が、店屋で何か交渉している。見に行くと、何かをどさどさと出している。なんとなくわかるぞ。あれは魔物の一部分みたいなものだ。よく米軍の奴らが得意げに見せてくれた。


        ◆◇◆◇◆


『おーい、ハジメ。どうだ、こいつはよ。お宝だぜ~』


 米軍の連中から、しょっちゅう見せびらかされるので、それなりに魔物の値打ち部位は覚えてしまった。


 そして、彼らは報奨金で栄や錦の店に繰り出すのだ。第21ダンジョンは名古屋近郊にある。俺も実家から通えるんで、仕事場はここにしたのだ。


 この大型ダンジョン警備のため、自衛隊の守山駐屯地は増員した。岡崎・豊川方面にも2個のダンジョンが発生しているので、豊川駐屯地も大幅に増員されている。


 米兵は、遊びに行く時、俺も誘ってくれる事もある。米軍には内緒で、頼まれた物とか、差し入れしてやったりする事もあるんだ。


 まあ、たいしたもんじゃないから、彼らの上官もお目溢しだ。それで士気が上がるんならいいか、みたいな上も多い。彼らはあくまで現場の人間なのだ。


 逆に空気を読まない奴の方が嫌われる。うちの会社の連中は、そういう裁量に長けたやつが多いから営業成績はいい。


 俺も誘われたら断らない。俺の給料じゃ行けない店に連れていってくれるしな。特に黒人兵からは、よく誘ってもらえる。陽気な彼らと過ごすのは結構楽しい。


 連中も日本は気に入ってくれている。奴らはいつもパワフルで陽気だ。興味本位で近づいてくる女の子も少なくない。こっちにも、お零れがなかったとは言わない。


『ハジメ! お前も米軍に入って、狩りに参加しないか?』

 酔っ払って、無茶な事ばっかり言う。


『あいにく、俺は堅実なんでね。ゴールドラッシュは、Gパンやツルハシを売った奴が勝利者だったんだぜ~』


 こっちも酔っ払って、一緒に騒ぐ。ホステス達も、派手なドレスと化粧で飾り、けたたましく笑って騒いでいた。


 ダンジョン特需に合わせて、柔軟に対応している店も多いので、本来俺や連中が入れないような店も入れる事ができた。


 次は18時の更新になります。


 初めて本になります。

「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

7月10日 ツギクルブックス様より発売です。

http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html

 こちらはツギクルブックス様の専用ページです。



 お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。


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