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1-3 辿り着いた世界

 だが、そこには米軍はいなかった。いきなり明るい広い空間に出てしまった。自然光のようだ。そんな馬鹿な。


 いつの間にか、怪物どももいない。どこに行きやがった。まさか屋根の上とか? 生きて帰れたら、迷宮仕様のハンヴィーの屋根には監視カメラを装備する事を提案するぞ。


 迷宮仕様に標準装備の、左右と後ろのカメラで見たがどこにもいない。後ろに隠れているといけないので、くるっと車を動かしてみたが、どこにもいないようだ。屋根の上にもいないだろう。車の動きでわかる。


 どこかに車を止めて、トレーラーから弾薬を取り出す時間があるだろうか。しかし、俺はMK19など扱った事がない。恐る恐るドアを開けてから、おっかなびっくりで屋根の上を確認すると、ためていた息を吐き出した。


 こんな状況に陥るのならば、もっと射撃に精を出しておけばよかったぜ。誰が思うだろう。自衛隊を退官して何年も経ってから、高度な射撃技術を役立てる必要に迫られるなんて。


 自衛隊時代は、自動小銃を年間2回各100発足らず、それくらいだったろうか? 割と成績はよかったので、追加の射撃訓練はさせられなかった。それでも、後方部隊よりはかなり撃っていたように思う。


 一際体力馬鹿だったので部隊レンジャーの訓練は行ったが、銃での戦闘に限っては普通科の人に比べれば自信が無い。


 ボーナスが出ると長期休みにグアムまで、小銃での短発射撃を中心に銃を撃ちにいったりもしていた。特にレンジャー訓練の前は、土日に少し休みを繋げて、わざわざ特撃ちみたいな感じで撃ってきた。


 自衛隊も一部の人間を除いて、大概は腕に自信があるというわけではない。自衛隊時代は射撃検定とかやらせるなら、ちゃんと射撃訓練はやらせてくれよと思ったもんだ。


 ただ、みんな課業が忙しいから射撃訓練の時間が取れないという事もある。そのあたりの事情は、普通科には敵わない。


 各種検定の表彰を受けて、ネットにアップされている人を見たら素直に羨ましいと思ったものさ。


 通常の軍隊ならば、言わば工兵にあたる施設科は、災害・有事共に比較的、歩兵などにあたる普通科よりも最前線に位置する事も多いと言われている。


 陸上部隊では、偵察を除けばまっさきに敵の銃火に晒されるポジションにある。偵察と違って、隠れるわけにはいかないしな。


 口の悪い人は、実戦では普通科より先に施設科が全滅すると言っている。本当に弾の飛んでくる本番であれば、状況によっては充分ありうることだが。


 そのため、近接戦闘も行なう可能性が非常に高い。有事には、普通科よりも死傷者は多いだろうと言われている。普通科以外では、一番射撃訓練の弾数は多いと言われるが、どうだろう。そこまでの実感はない。


 うちは、いわゆる「土木部隊」だった。自衛隊全般そういう傾向にあるのかもしれないが、施設科の仕事は多岐にわたり、同じ施設科の人間でも、他部署が何やっているのかまで、全て把握しきれない。各部署それぞれ専門職種だ。それなりに色々は経験させてもらったのだが。


 そのストレス開放のため、自衛隊を辞めてこの仕事に就く前に、グアムで撃ちまくってきた。高かったが、アサルトライフルも数百発は撃ってきた。その他も色々、かなり撃った。


「自衛隊での数年分以上を、1日で撃ってやったぜ!」

 とドヤ顔していたような有様だ。


 俺はやむを得ずに車を止めた。この先の通路がどうなっているかわからないためだ。いきなり奈落の底は勘弁してくれ。


 マジで、ここはどこだ。距離的に、第2防衛ラインの駐屯地には届いたはずなのだ。しかし、こんな、場所ではなかったはずだ。


 拡張工事したのだろうか。そんな話は聞いていないが。そして、誰もいないし、何の装備もない。駐屯部隊が死体になっているわけでもない。


 電源配線や、証明設備もない。放棄したのではなく、最初から痕跡が無い。後方を見ると、あちこちにダンジョンの暗い通路があり、前方には灯というか、はっきりと陽光とわかる眩しさが、目を焼いた。


「何っ! 馬鹿な。地下ダンジョンの奥深くで、あんな太陽光のような光が差すはずはない」

 そして、何か違和感があったのだが、その正体がわかった。


 この場所は『コンクリート舗装』されていない。その代わり石が綺麗に敷き詰められている。このダンジョンに、こんな駐屯地があったか? いや、米軍駐屯地なら例外なくコンクリート舗装のはずだ。


 米軍は必ず車両で移動するため、平坦に舗装されている。先にある程度掃討しておいてから、警備付きで工事を行う。


 その間に他地域での侵攻作戦を行なう。彼らは、この作戦を何故か侵攻と呼んでいる。理由はよくわからないが。


 重量物が通過できる事を前提にし、柔らかくメンテが手間なアスファルトは使用されない。必然的に、ダンジョン内の米軍の制圧地域はコンクリート舗装となっているはずなのだ。長く使う予定なのだという。


 相変わらず魔物の姿は確認できない。俺は、そっと車を降りた。ああ、やはり、これは、お日様の光だ。心の底まで温かくなるような。


 あたり一面が、真っ白な世界。ハンヴィーの迷彩色が、違和感の塊として鎮座ましている。

 

 俺は思い切って、トレーラーの蓋を開け、米軍の係官が施した封印を破った。後でお目玉は必至だ。そして手早く車内に銃・弾薬を運び込んだ。


 魔物は襲ってこなかった。ホッとするが、とりあえず砲塔に弾薬をセットした。マニュアルが置いてあったので、その通りにセットしてみた。


 装弾は慎重に行なった。こいつは装弾ミスをすると、中で炸裂する可能性がある。マニュアルも一通り見てみたが、これくらいなら扱えそうだ。元々が、そうご大層な兵器じゃない。


 俺は落ち着いて、持って来た缶コーヒーを1本飲み干した。美味い。1滴1滴が沁みるぜ。


 車内に置いた武器は、まず12・7ミリ対物ライフルだ。ダンジョンでは非常に有効な武器として、どこの米軍分隊にも装備されている。分解されて、封印された物を輸送した事もある。こいつもグアムで撃ったので扱いはわかる。


 そして7.62mm軽機関銃、5.56mm自動小銃の機関銃類。


 そして45口径自動拳銃。米軍も通常は9mm拳銃がメインのはずだが、ダンジョンでは大口径拳銃が好まれる。米軍の正式拳銃も昔はこれ1本だった。


 7.62mm狙撃ライフル。あとは自動小銃装着用の40mmアンダーバレルグレネードに手榴弾か。


 今日は兵装輸送の日だったんで、武器には事欠かない。ただ、絶対に破ってはならない封印を破ったので、厳重な処罰は覚悟しないといけない。


 へたすると刑務所行きだ。だが裁判では「緊急避難」を主張するつもりだ。それくらいは通るはずの状況だ。


 日本で、こんなものの弾とかをバラまいたら、翌日に新聞1面トップでワイドショーのスターだがな。あ、ダンジョン内も一応は日本扱いだった。


 あー、でもこれは……帰ったらワイドショー物の事案かな。秘匿されるかもしれないが。

 これらの物騒な装備の数々が、これほど似合う車もそうそうは無いだろうな。


 ん? 人? 人だ。ダンジョンの方から歩いてくる。おい、徒歩であんなところを、うろついているのか? どこの馬鹿だ。


 おう! 人間じゃないのかもしれない。毛深そうな狼? の獣人さん!? そして、ドワーフの爺さんか? そして、エルフ! すげえ美女だ。


 魔法使いっぽい、ローブを着込んだ少女もいるぜ。よく見えないが、美少女っぽいぞ。コスプレの団体さんかなあ。ここはダンジョンの中だ……少し、無理があるな。


 俺は、ガツンと押しつぶされそうな嫌な感じに包まれていた。とんでもない事になっているような予感がする。


 次回更新はは15時です。


 初めて本になります。

「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

7月10日 ツギクルブックス様より発売です。

http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html

 こちらはツギクルブックス様の専用ページです。


 お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。


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