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8-32 ラオ、クヌード・デビュー

 例によって、門番に挨拶をして門を潜った俺達。向かうは子供達がいる解体場だ。


 例によってホーンの挨拶をくれてやると、一斉に飛び出してきた。今日はまだお勉強の時間ではなかったとみえて、マリエールの姿はない。


「お兄ちゃん!」

「おにいちゃーん」

「慎吾お兄ちゃん!」


 また例により、見事なまでのお兄ちゃんコールの嵐であった。なんと、こいつらは既に『山崎慎吾』と漢字でお兄ちゃんの名前が書けるのだ。


 『お兄ちゃん』の文字は小さい子に至るまで、全員がマスターしていた。恐るべし、お兄ちゃんパワー。どれだけ、お兄ちゃん派なんだよ、お前ら。


 そして、その中から進み出るリーダーのロミオ。おや、ちょっと見ないうちに少し背が高くなったかな。


 この年頃は竹の子のように伸びるからな。靴が傷む前にサイズが合わなくなってしまうのだから。


 その少し大人びたかのような柔らかな、前よりも素直そうな感じで向けられる笑顔に俺の顔も思わず綻んだ。


「ふふ、肇。久しぶりだね」


 最近、少し暮らし向きがよくなったせいなのか、その言葉遣いや仕草などにも余裕が感じられる。元から大人びているというか、しっかり者ではあったのだが。


「ああ、みんな息災だったかな」

「ソクサイ」


「みんな元気だったかという事だよ」

「ゲンキー」


 そして、その意味がわかる子達も片言でそう言うと、弾けるような笑顔を見せてくれた。まだ日本語がよくわからない子達も、皆一緒に笑ってくれた。


 ああ、ここのところ心の奥底で濁り、澱んで蟠っていた何かが溶けていくかのようだ。尿道結石とかが薬で溶けると、こんな感じなのかね。あくまで心理的なものなのだけれども。これも俺に必要だった成分なのに違いない。


「今日は、是非お前達に紹介したい奴がいてな」


 俺は皆にわかるように念話を使って日本語で喋った。これで他の子は意味がわかるし、ロミオとは日本語でやり取りができる。


「へえ」

 俺は笑みを隠しきれない。この子達は一体どんな反応を示す事だろうか。


 まあラオだって間抜けに殺されたりはしない。猫なんてものは、こうやってお子様のお相手をするのが宿命なのだから。という訳で俺は口笛でラオを呼んだ。それから名前を呼んでやった。


「ラオー」

 あれ、なかなか出てこないな。


 よく見ると、コースター・ビッグバンの扉の蔭に隠れて様子を伺っている。野生の本能で子供達を警戒しているらしい。


 こいつのそういうところ、本当に猫っぽいなあ。でもまあ、生ける大型ヌイグルミの立場としては、上々の判断と言えるのではないだろうか。


 だが、気配を消すのが得手な獣人の子が、そっと忍び寄っていた。いつもなら、ラオもあっさりと看破するのだが、今日は前面の主力部隊に気を取られていたものか。


 凄い集中力で子供達を観察している。こういうところも猫っぽい。これが犬なら新しいお友達目掛けて全力で駆けていくところだろう。


『わあ、可愛いなあ』

 そう言って彼は横手からラオに飛びついた。俺が連れてきたのだから危険はないと思ったのであろう。


「ぐるう!?」

「しまったー、油断したあ」とでも言いたそうな顔で慌てふためくラオ。


 もちろん、他の子も放ってはおかない。あっというまに子供の波に飲み込まれるラオ。頭のいいラオには、この子達を傷つけてはいけない事がわかるので抵抗は出来ず、これはもう為すがままだ。


 力のいい獣人の子供達にビッグバンの外に引き摺り降ろされて、ちょっと情けない顔をしている。


 隙を見て、必殺のぺろぺろ攻撃でプチ反撃していたようだったが、いかんせん、戦いは数だ。あっという間に全身もふられていた。


 解体されるなんてまったく意味のない心配だった。この子達だって、可愛い生き物を飼ってみたかったのだ。それが許されるような境遇ではなかっただけで。


 かくしてファーストコンタクトでは、子供達がラオから一本取った格好になった。


 お互いすぐに慣れたようで、ラオも子供達を代わる代わる、三~四人ずつ乗せて歩いている。もうみんな、この新しいもふもふで綺麗な生き物に夢中だ。


「綺麗だよね、この子。もしかして貴族のペットとかなの」


「ああ、そういう貴族王族はいるようだが、なかなか懐かないらしいな。俺にはすぐに懐いたんだが」


「あはは、肇は子供や動物・魔物とかはすぐ仲良くなれそうなタイプだよね」

 そいつは嬉しいんだけど、年頃の女の子にもそれなりに懐いてほしかたったぜ。


「そういや、まだ魔物は足りていたかな」


「ああ、うん。イーグーはまだあるみたいよ。アンリさんもうまく数えられないくらいあるらしい。一応、勉強教わってからの分は、ノートに解体した分だけ記録してあるんだけど」


 おや、彼女の収納にはカウンターがついていないのかな。いやもしかして、あまり数が多いと数えられないとか。


 普段あまり使わない数だものなあ。こっちの世界、ましてや冒険者だし。あの人、冒険者の腕も凄いけど、知的な感じがするんだよね。


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