8-30 お熱い時
そして、翌日俺は合田の見舞いに行ってきた。もちろん、ラオの奴は抜きで。
「あーん」
「あーん」
パジャマの合田と私服姿の川島が楽しそうな事をやっていた。
のっけから、このようなシーンに遭遇してしまうとは。ファクラの能力を用いて、こっそり忍び寄っていた俺はどう対応すべきか、しばし悩んでいたのだが、結局0・5秒で決断し即座に声をかけた。
「よお、お二人さん。お熱いこったねえ」
中学生かよ。でも、仲間内でこういうツッコミはやめられないよな。
いきなり声をかけられて二人とも慌てている。なんだか顔を赤らめているし。おいおい、まさか。
「なんだ、肇。来てるなら声をかけろよ」
「だから声をかけたじゃないか。ひゅうひゅう、熱いねえ」
「ほかの奴らには黙ってろよ」
「お、認めちゃうの、お前」
「悪いかよ」
マジか。ふと川島の方を見たら黙って顔を赤くして横を向いている。やだ、この人達マジだわ。別にいいんだけどね。
「いやな、とりあえず第20ダンジョンへ行く前にクヌードに行ってこようと思ってな。その前にお前の見舞いにと思って。しかし、この展開は予想していなかったぜ。まあよくある話なんでいいけどな。ところで、合田。正直に言ってどうだ」
俺は話題を切り替え、ここで少しマジな顔に戻る。今のほのぼのした空気を漂わせる一幕を見て余計に確認しておきたい。
俺が言う「どうだ」には精神的な物も含まれているのだ。事故に遭った宇宙飛行士、凄惨な目に遭った兵士。
それらの人々は、なかなか元の職場に復帰するのも難しいことがある。合田の場合は逆に特別任務を解かれ、通常の任務に戻るというだけなのだが。
場合によっては戦闘部署ではなく事務的な職場に転換という事も考えられるのだが、対空戦闘のプロである合田は転換が難しいかもしれない。合田のように頭脳も優秀な隊員は上官も手放したがらないだろう。
今の場合は、川島もセットで抜ける形になるだろうから、一気にメンバーが二人欠員する事になる。おそらくは補充がきくまい。
自衛隊が寄越さないのではなく、魔物タクシーが連れていってくれないだろう。この前のバネッサの一幕を見たので、あれと同じ事になる可能性が高い。
あと、川島が抜けると城戸さんのパンツ持ちがいなくなるな。まあその時には、城戸さんにはパンツは自分で持ってもらうか、必要に迫られて収納の能力を身に着けていただくか、どちらかを選んでもらうとしますか。
俺がそんな事を考えている間に、奴は目を閉じて些か沈黙していたが、やがて力強く答えた。
「大丈夫だ。体が回復したら俺も一緒に行くよ。まあ次は少し慎重に行くかな。エバートソン中将から新兵器も手に入ったんだよな。そっちの訓練もやりたいし。
俺達は選ばれし者とその仲間なんだろう? もう行くの行かないのではない。行くしかないんだ。あのドルクットの団体さんなんかに、こちら側に押しかけられて堪るものかよ」
奴は俺に向かって右拳を突き出したので、俺もそっとそれに合わせておいた。
「ふふ、頼んだぜ、英雄の仲間達。川島もいいんだな?」
「うん。あたしもアイツらを、魔物達を、そして敵の姿を見ているんだもの。この世界と、そして向こう側の世界も守らないと。行きつく先はどの道地獄よ」
この女は本当に気風がいい。こういうところ、すっぱりと割り切れるのだ。いい仲になった合田がまた危険な目に遭うかもしれない。
自分もまたそうなる可能性はあるのだ。それでも、やらなければならないのなら、それを厭う事はないときっぱり決断できる。
「じゃあ、二人はまだはずれるという事で。合田はもう少し体を治すのに専念してくれ。俺達は一度クヌードへ行く。グラヴァスか王都で情報を取りたい。ヘリを飛ばすから山崎達も連れていく。それから俺が第20ダンジョンへ潜り、偵察してくるから、その後で第20ダンジョンへ行くか、グニガムへ行くかだ」
「はは、グニガムといやあ、あの女どうしてるかな」
俺は顔を顰めてから声を潜めて笑った。
「そりゃあ、お前。カンカンに怒ってるのに決まっているじゃねえかよ。なあ川島、こういう時は何で機嫌を取るべきかねえ。あいつも案外と現金な部分があってさ」
「あはは、また相談に乗るわよ。考えておくわ」
「いや、こういう時には女性メンバーがいてくれると助かるよな」
城戸さんに聞くと、年齢的に違う方向性の答えが返ってきそうだしね。




