8-22 やっぱり猫が一番です
今回はアレイラで見つかった人間はいなかったが、また引き続き探してもらってある。そして、グニガムへ行く時がやってきたが、もちろん一人で行く事にした。
とりあえず例の残念姫様のところへ向かう。というか、ギルドで呼び出してもらったのだ。嬉しそうに飛び掛かってくるラオ。
普通の人だと持て余してしまいそうな巨体だが、今の俺にはむしろちょうどいいくらいだ。
「ははは、よしよし。お前は本当に可愛いなあ」
ああ、心が洗われるようだぜ。俺はすり寄ってくるラオの首っ玉を抱きしめた。ああ、今の俺に足りないのは、このもふもふ成分だったんだな。
「やあ、遅かったじゃないか」
バネッサが嬉しそうに、久しぶりに飼い主に会えたこれまた嬉しそうなラオを撫でている。
「いや仲間が負傷したりして、ゴタゴタしていてね。初めて行く町で待ち伏せを食らった。そういうの、何か事情とか知っているかい?」
却って、こういう残念な人の方が諸事情に通じているような気がする。
「ああ、碌でもない話だ。どこの街にもいる、アウトローの組織があってな。そういうのが国を越えて繋がっていたりする。貴族達もよく使うのさ。
お前、よっぽど煙たがられているんだな。多分、あちこちのダンジョンが張られているかもしれん。短期間であれば、それも可能だな。お前が引っかかったんで、しばらくあちこちで張ってたりするんじゃないか。
このグニガムのような大きなダンジョンは大丈夫だろうが。さすがに、このアーダラ王国をそんな話に巻き込むなどのような馬鹿な事は起きない。ここは大国なのだ。だが初めて行く場所は気をつけろ。特に小さめのところとかな。あまりにも小さなところとかは、却って安全なのかもしれないが」
そういう話なのか。この分だと第20ダンジョンも危なそうだ。最初からそうわかっているのなら、攻め込んで捕まえてみるのも面白いかもしれん。
さっそく新兵器が唸るぜ。今回はすぐ逃げ込めるようにダンジョンのホールから、あまり離れないようにするか。ドローンなんかを偵察に使うのもいいな。
あれはたくさん持っているのだ。軍用のタフな奴ももらってある。実は無人攻撃機なんかも持っているのだ。
「アーラ達はどうしている?」
「ん? たまに覗きに行くが、連中は普通にしているぞ。元々あそこで暮らしているのだからな」
「そうか」
長い事放っておかれて、ちょっと拗ねているくらいを期待していたのだが。
まあ、迷宮の外で代を重ねながら気長に選ばれし者を待っているらしい連中だからな。腹を括っているというか、肝が据わっているのだろう。とにかく一度会いに行くとするか。
例のエブルムを預かってくれている店へ顔を出すと、奥のスペースで丸くなっているというか座り込んでいた愛鳥に声をかけた。
「アーラ!」
ピクっと体を震わせて、そして立ち上がると、俺の前に来て恭しくするアーラ。待っていろといえば、彼らはずっとここで俺達を待ってくれているだろう。俺は体を撫でながら言った。
「すまない、少しトラブっていてな。来るのが遅くなった。他の連中は来れなくて、今回は俺だけだ。また次回は皆を連れてくる予定だから、お前達、また頼むぞ」
「グエエ」
一言鳴いて、また頭を下げる。他の、うちのエブルム達も皆控えていて、理解してくれたようだ。トラブルがあった時はフォローしておかないとな。
このグニガムでは彼らが頼りなのだから。できれば、他の土地にも連れていきたいと考えている。
彼らエブルムは馬などとは比べ物にならないし、何よりも俺達の味方である事が判明しているので心強いパートナーだ。
そして、驚く事になんと八人もの失踪者が保護されていたのだ。アレイラでは、例の将樹君のように、素早く保護された例などもあるのだが、それはあれがジェイクのような人間だからできただけだ。
かなり頑張ってくれたみたいだ。冒険者ギルドで保護されていたので、やはり為されねばならない事と判断してくれたものだろう。
あのギルマスは相当年季がいった感じの人で、ただものではなかった。他にもあれこれと情報が集まっていて助かる。
合田の代わりに少し土産代わりに持ち帰れて嬉しい。ギルマスが預けていた金で信用できる情報屋を使ってくれたらしい。
ラオとじゃれていたら、なんだか本当に気が晴れた。それを見ていた失踪者の人達は呆れていたようだったが。地球の感覚で言うと、超でかい熊や虎とじゃれているネットの動画をリアルで見ているような感じなのだろうか。
「おい、バネッサ。ちょっとラオを借りるぞ」
「なんだよ、私のラオをどこに連れていくんだ」
いつから、お前のものになったんだよ。まあ世話は任せっきりなんだがな。これだけパイラオンが好きな奴なら安心して任せられる。
「俺の仲間も、ちょっとしょげているからな。ラオを連れて行って一緒に遊ぶのさ」
「いいな、それ。私も一緒にお前らの世界とやらへ連れていけ!」
「俺達の世界へ来たいのか?」
「ああ、だって面白そうじゃないか」
「まあいいけど、はたして魔物がお前を連れていってくれるならな」
「まあまあ、試してみようよ」
俺は保護された人々とバネッサを連れてダンジョンのホールへと向かった。今回はギルドの馬車で移送してもらった。俺はラオにバネッサと二人乗りで乗っていったのだ。ちょっと背中の感触が楽しかったな。
「さあ、皆さん。日本へ帰りますよ。はぐれないでくださいね」
みんな少し慌てていたが、はぐれるもへったくれもない。全部魔物にお任せなんだから。
そして、なんとバネッサだけ魔物タクシーの乗車許可がおりなかった!
ラオに抱き着いて一緒に待っていたのに、バネッサだけ落とされていった。器用な事ができるもんだな、あいつらって。
だが、その頃ダンジョンの入り口で一人取り残され地団太踏んで怒っているバネッサがいたのだった。
「わ、私だけ、私だけ置いていったなあ。覚えてろー、ハジメー」




