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8-21 気分を入れ替えて

 ダッタブーダでは、二日ほどボヤーっとしたまま過ごした。サロンの高級ソファで川島のようにだらしなく寝ていたり、トップデッキのジャグジーで寝ていたり。


 またヘリデッキで耳にイヤホンしながらサンベッドでごろごろしていた。クルー達が巡回してくれるので、ドリンクを頼んでまたごろごろする。


 まさに、ここはオーナーがそうするためだけの空間なのだ。海に浮かぶ別荘。誰もいない大海原で自分の船を浮かべてぼーっとする時間。


 だが、ここはもちろん日本で有数の輸出港である名古屋港、そして三河港の船で通るので、自動車輸出船や資源や部品などを積んだ運搬船もゆく。最近は自動車の輸入船も入ってくる。


 標識灯や派手な青や紫で船体を彩る夜間ライトアップ用の電飾を点けて目立つようにし、邪魔にならぬように少し航路から停泊していたりすると、汽笛を鳴らしてくれるのでお返しに返す。


 なんとも、のんびりとした時間だ。十七時には港も閉まるので、日の長いシーズンだと、日暮れ前には船も通らなくなる。


 時折、大きな魚の立てる音が聞こえるのみだ。ここは湾なので、鮫なども小さなうちはここで過ごす。


 以前に出くわしたホオジロザメのような奴に会う可能性もあるのだが、会ったらまた仕留めておくかな。どちらかというと食べるのなら小さめの奴が美味しそうなのだが。


 しっかりと休養をとってからアレイラへは一人で行った。うちの従業員もいるのだし、ビジネスもあるのだ。早めに確認をしなくてはいけない。


 そして、来てくれたグーパーの体をよくチェックした。

「おお、体は元通りになっているな、よかったよかった」


「グー!」

 軽くバンザイして愛敬を見せてくれるグーパー。


 ちょっと気になっていたのだが、元気そうで何よりだった。俺は向こうへ送ってもらってから、すぐに王宮へと向かった。さっそく杏のいる部屋へと向かった。


 そして杏には合田の負傷を正直に話した。そして、こういう場所ではおそらく襲撃はないだろうとも。


「いや迂闊だったよ。一世一代の不祥事だ」

 だが、杏の奴はビクともせずに、しゃあしゃあとこう言った。


「社長死亡で、会社が倒産しなくてよかったですわ。せっかくいい就職先を見つけたんですから。お部屋なんか凄いんですよー。とっても広くて、天蓋付きのお姫様ベッドなんです。そして、なんと、なーんと侍女さんがいてくれるのですよ。すごーい」


 うーん、どうして女って、こう肝が太いのかね。まあ実際問題としては非常に助かるんだけど。これで、「きゃあー、異世界怖いー。もう退職します。帰りますー」などと言われてしまっても困るのだ。


 それにしても、この子は異世界を楽しみまくっているようで、なによりだ。何しろ、今うちのチーム鈴木はお通夜ムードだからな。一人くらいこういう能天気な奴がいたっていい、そんな空気なのだ。


「いや、今回入手した装備一式で八千憶円なんだぜ。少し税金で持ってくれないものかな」

 いや本当、洒落にならないレベルの出費なのだ。こうなるとは思っていたんだ。払える金があるだけマシだった。


「やだ、社長。税金は払っていないんじゃなかったんでしたっけ」

「そういや、そうだなあ。もう出費の具合が、むしろ税金を払った方がマシなくらいになってきているんだが」


「まあまあ、商売は頑張りますから。今日も仕入れできますか。他の貴族の方などにもあれこれと好評でして。王家の方も、そういう方面にも便宜は払わないといけないそうで、一部品切れしています。


 これ仕入れが必要な物のリストをデータカードに入れてあります。首にかけられるようにしておきましたから、収納にしまったりしないでくださいね。データが消えちゃうんですよね。社長、今日はなんだかボーっとしていますよ。まあいろいろあったみたいですから仕方がないですけど。


 アルメイーラ王女の関係の方がそのうちお見えになられるようです。初見の方は大量に買われる事が多いようですので、在庫は多めに持ちたいのですが。購入が予想される物のリストもカードに入っています」


 こいつがしっかり者で本当に助かるわ。またボーナスの査定の時は色をつけてやろう。


 そして俺はジェイクに会った。

「別のダンジョンで襲撃を受けた。待ち伏せだ」


「なんだと。本当か。信じられんな。どこのダンジョンだ?」

 そんな事は俺が聞きたいくらいだぜ。


「わからん。そのダンジョンは俺の地元中の地元なんだが、この世界のどこに通じているのかもわからない。そういうところは実に不便だ。調べようとして襲撃を受けてそのまま帰還したからな。


 まあ、向こうで世界中にダンジョンに散らばられていても困るのだが。政治的に中へ入るのが許されないとかになると、こちらの世界で移動しないといけなくなるから、とんでもない事になってしまう。そんな状態での活動は俺達には無理だからな」


 奴も腕組みをして深刻そうに考え込んでいる。


「そういう事を起こすような碌でもない話もないでもないのだがな。ただ、ダンジョンを閉鎖してまで、お前達の対応をするなど俄かには信じられぬ。あれはあれで貴重な財源なのだからな。


 とにかく気をつける事だ。何しろ、世界中を巻き込んだ騒動になっているようだし、お前達の噂から風体などの情報もいくらか漏れていたのではないか。


 まあラプシア王国やうちでは、かなり大っぴらに活動していたしな。グニガムでは少し慎重にふるまえ。あそこの大陸は少し偏屈な奴らも多くてな。余所者を下に見る傾向もある。


 我が道を行くみたいな部分もあって、少し付き合いにくい面がある。あまり協力的ではあるまい。世界の危機だというのに困ったものよ」


 そうだったのか。薄々そうではないかと思っていたが、この豪放な王子様をしてそう言わせるのか。クヌード・アレイラ・グニガムと先に進むに従ってあれだな。


 格式が上がるというか、グニガムなんか付き合いにくくなっている。王都マルシェの王様なんか、豪快なもんだったが。懐かしいぜ、あの王様のとこが。


「とにかく、杏の警備はしっかり目を配っておいてくれ」


「ああ、メイレアや、うちの騎士団にも厳しく通達しておこう。しかし、あのアンはたいしたものだな。仕事もしっかりしているが、うちの女性陣とは非常に仲良くやっているし、貴族の御婦人方からも評判はいいので助かる」


 ふふ。何しろ高給取りだからね。俺の給料の何倍くらいかなっと。だがそれくらい払わないと、危険な異世界常駐なんて務めてくれる人はいないからな。


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