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8-20 転院

 最強の兵器や防御システムなどは手に入れた。これで大丈夫というわけではないのだが、心に安寧が齎されるというか、備えをしたという事で安心感がある。


 こんな事がそうそうあっては堪らないのだから、やる事だけはきっちりとやっておきたいのだ。


 俺はもう一度、ブラックジャックへ戻り、回復魔法をかけてから合田の搬送に付き合った。お迎えは自衛隊の救急車両が来てくれた。


 普段は訓練でしか使わないから、こういう出動は貴重なシーンだ。本来なら最初に出動してくれてもいいくらいのものだが、絶対に間に合わない。


「よかったな、これで落ち着けるだろう。『軍病院』じゃなあ」

「だが、結構丁重な扱いだったからな。医療費も米軍がもってくれたし」


「というか、本来は自国の兵士向けの無料サービスだから。というか、そんな物が必要な職場って嫌だな」


「あはは。自衛隊だって似たようなものだぜ。クレームがついているけどな。要は訓練以外の個人的な疾病までそうなるからって他の省庁との絡みでと。特に自衛隊に敵対的な勢力とかな」


「政府内部でそんな事を言って自国の防衛部署に因縁つけるのは、この国くらいなんじゃないのかねえ。訓練や任務で怪我しても、まともな治療が受けられないなんて、兵隊の士気が下がるだけだ。そんな国に自国は絶対に守れねえよ」


 よかった。合田も少しは元気が出たようだ。いつものように何気ない会話が出てくるようになった。こいつは理論派なタイプなので、結構饒舌に喋るタイプなのだ。


 これから行くのは、自衛隊関係の病院だ。愛知県に、いわゆる自衛隊病院はないので、国家公務員共済組合連合会直営病院という奴だが。


 川島は師団長命令で合田の看護について、俺も毎日通った。他の連中は負傷を防ぐための工夫や訓練をやっているようだ。


「やれやれ、今回は本当に死ぬかと思ったぜ」

「あはは、あれに懲りたら、知らない土地でのビデオ撮影は寄すんだな」


 観光でどこかに行っても、今回の件がトラウマになって撮影できないかもなあ。でも、こいつの減らず口が出るようになってよかった。


 まったく治癒回復できる魔法を覚えておいて正解だぜ。ありがとう、リーシュ師匠。


「それにしても、これでますますカメラマンは連れていけなくなったな」

「なに、行きたがる奴は五万といるがな」


「そいつらが大怪我したり死んだりしたら、自衛隊が叩かれちまうよ」


「なあ、御前はサリアの事はどう思う? このまま一緒に連れていく事について。あいつがああ言うし、この先も連れていくとは約束したが。今回、あの子がお前みたいになっていたらと思うと」


 サリアの事についても話したが、合田も難しい顔だ。本人がこの有様だからな。反対するかと思ったが、奴もこう言った。


「あの子は本当に訳ありという感じだ。選ばれし者であるお前との間に運命を感じているようだし、その理由もあるんだろう。


 このダンジョンクライシスの件に関してあの子は何か関わりを持っているのではないかという節もある。訳があるのなら無下にするわけにもいかないだろう。あの子は普通の条件で一緒にきているわけじゃない。


 母親は神殿の関係者だった。あの子はきっと何かを知っている。今は俺達に言えない理由があるようだが。多分……一緒に連れていかなくちゃいけない。そんな何かがある気がする。あの子についての決定は慎重にな」


 そうだな、俺もそう思うのだ。ダンジョンクライシスか。言い得て妙だな。


 そして、ダンジョンクライシス日本、いやダンジョンクライシス地球、そしてダンジョンクライシス異世界。我々の知る全ての世界が危機を迎えようとしているのかもしれない。


 それが現在、我々が対面している事態なのだ。そして、ついに我々の中にも負傷者が出た。


 それから、しばらくの間は合田の見舞いが続いた。一生懸命リンゴを剝いてくれるサリアに合田も顔を綻ばせていた。よかったぜ、元気が出てきて。


 先生の許可をもらって回復魔法もかけている。本当はこういうのは違法なのだが、俺の場合はいろいろと、その辺はあれなので。先生も興味はあったようだし。


 そして、合田の容体が落ち着いた頃、愛船ダッタブーダへ向かった。優雅な休暇ではなく、単なる休息だ。


 アレイラへ行き、また第20ダンジョンへも行く予定なのだ。ちょっと息抜きしてから行かないと、体も心ももたない。


 今回は皆を連れていかずに一人で行った。サリアと川島は合田についてくれているし。山崎達は今後の対処という事で、遊びに行くどころではないらしい。俺も遊び気分という気にはならないしねえ。


 丁度今は、ダッタブーダも航海訓練で沖に出ているところだ。俺がいないからといって港でサボっていると、すぐに練度が落ちてしまう。また機械はしょっちゅう動かしていないと、却って調子が悪くなるものだ。


 本日は神野さんに頼んで、着艦訓練をさせてもらった。こいつも馬鹿にならんのだ。揺れる海上でヘリポートがあるとはいえ、俺のような素人が狭いスペースに着陸させるのは困難を極める。


 プロでも、かなり緊張するのだ。丸々空中で何もないところでホバーリングするのならともかく、ぐらぐらと微妙に高さが変わる場所に着陸するのだ。


 変に当たれば機体が弾かれる。斜めにも揺れるから、一つの車輪とか接地しても設置できてなかいとか。これでまだ陸上ヘリポートのように広い場所ならな。


 まだビルの屋上なんかの方がマシだ。あれはヘリポートが揺れないものね。とりあえず、隣で神野さんがいてくれるので、何回かトライしてみた。キャプテンも見に来てくれている。


 こんな俺の醜態を海自や海保のプロが見たら鼻で笑うんだろうが、俺はライセンスだって持っていない素人なんだからさ。


 なるべく、いろいろな状況で訓練しておこうと思っただけなのだ。何しろ、今回の件で一体何があるものかわからないというのが身に沁みたのだから。


「やあ、オーナー。いろいろ大変だったそうですね。本日はお一人ですか」


「ええそれはもう、みんな、しっちゃかめっちゃかですわ。私も、少し休憩したら一人で異世界へ行ってきます。二か所くらいは回らないといけないものですから」


「どうぞ、ごゆっくり。今日は地鶏のいいのを仕入れてありますよ。あと、京野菜も」


 日本人の俺のために、あちこちからいい食材を身にいってくれているらしい。俺の好みに合わせて試食会なども船内でやってくれている。


 この船が係留されている港区には、名古屋の胃袋を支える市場もあり、調理人たちは朝早くから通って品定めしたり、わざわざ東京築地まで食材集めにいったりしてくれているのだ。


 ありがとう。その気持ちが嬉しいのだ。


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