8-17 現代の超兵器
俺達は、到着予定だった第5ダンジョンではなくて、指定された横須賀にある米海軍基地の埠頭へと舞い降りた。そこにある輸送船にあれこれと積まれているのだ。
こいつの輸送のために、イージス艦を含む三隻の水上戦闘艦と二隻の原子力潜水艦がついたとエバートソン中将が笑っていた。
核兵器の輸送並みだなと思いつつ、輸送業務に従事してくれた彼らには感謝の念を送っておいた。
やがてヘリは降下し、そこには海軍基地の偉いさんらしき人物と一緒にエバートソン中将も待ってくれていた。
そしてヘリを出た俺達を出迎える笑顔。ああ、なんというか少し悪戯坊主の雰囲気を湛えた感じの。わかるなあ、そういうのって。
「やあ、エバートソン中将。お出迎え恐縮です」
そう言って俺と神野さんは、彼らと熱く握手を交わした。
「私が一緒でよろしいのでしょうか」
神野さんは国家機密に触れるのを少し恐れたようだったが、中将はそんな彼の懸念を軽く笑い飛ばした。
「何、本日見せる物のうち、大物なんかはもう既にメディアを通して世界にアナウンスされているものだよ。こいつは鈴木達専用でグレードアップバージョンだがな。まあ見学していってくれたまえ。どうせ、君の雇い主に今引き渡されるものなのだからね。さあ、ついてきたまえ」
俺は彼らの後について輸送船へと向かった。その甲板上には、ぶ厚い超大型のシートで隠された積み荷があり、その封印を解く作業が始まった。そして徐々に露わになっていく、その禍々しい姿。そいつの正体は。
「こ、これはまさか、レールガン⁉ あんな電力を食うものを、携帯式に?」
神野さんの驚きの声に満足気なエバートソン中将と、その横に立つ、おそらくはこの品々の輸送隊の司令官であっただろう、エバートソン中将と年のころは同じくらいに見える同じく満足そうな人物。
「ふっふっふ。これならドラゴンでも吹き飛ばし放題だぞ。こいつのレールには君から買い上げた大量のミスリルが組み込まれていてな。威力はもとより、何よりも冷却性や連射性能に優れている。
プロトタイプは、まだまだデモンストレーションレベルに留まるのだが、こいつは違う。ミスリルは不思議な金属だ。魔法金属などと呼ばれるのがよくわかる。
これは何故か摩擦を起こさずに鉄の弾丸を打ち出す。弾体の一部がプラズマ化する事もない。エネルギーも非常に効率よく使われる。ミスリルとは、それ自体が魔法の力を発するものなのか。
このような事は理論上ありえないのだが、そういう特性としか言えない。ぴったりのサイズで作られているにも関わらず、砲身と弾丸の間は僅かな隙間を開けていて、弾丸は砲身の間でレールと接触していないのだ。にも拘わらずローレンツ力で弾丸を打ち出している。
あまり高速で打ち出せば、鉄が溶けてしまうが、弾丸もミスリルあるいはミスリル被覆にすれば解決する。あまりに勿体なさすぎるがね。君のあの魔法ならば、さらに弾丸を超加速できるだろう。
放熱性も高く、我々が今まで使っていた金属と異なり、何故か電力自体もあまり食わないらしい。まるで魔法だ。
通常、数千キロワットの電力を必要とし、現状では艦載か陸上固定式でしか使えない大型兵器なのだがな。こいつは数十キロワットの電力でそれをやってのけるのだ。
いや、やはり一種の魔法なのだろう。そして耐久性も文句なしだ。さらに、こいつには特製のバッテリーが搭載されている」
見れば、大変異質なスタイルだ。公開されている写真で見ていたのとは異なるものだ。想像していたように、アニメなどで登場するようなゴツイ砲身ではなく、比較的シャープな砲身だった。
文字通りの『レール』ガンだ。おそらく砲弾の一部がプラズマ化したりしないためだろう。砲弾も見せてもらった。
「こいつは公開されているものとタイプが異なりますね」
「ああ、これはもはや『ミスリルガン』と呼んでもいいような別物の兵器だ」
そう言って、エバートソン中将はその厳めしそうな顔を軽く歪めニヤリと笑った。
特殊な対戦車砲弾のように弾体が分離したりせず、昔の戦車砲弾のような形状でそのまま威力を敵まで持っていってくれる、ありえない代物のようだ。
長さは十メートルほどで、おそらく発射の衝撃にも耐えるように、砲身にはレール以外にもミスリルを使ってあるはずだ。これはプロトタイプよりも長く、そして細いのか。
プロトタイプの正確なサイズは知らないが、現在あるのは艦船に積載して使うものだし、巨大なガスタービンエンジンから供給される電力を使用するため、そう小さなものではなかったはずだ。そして大口径の金属弾を装填された特殊な給弾機構はボックスマガジンだった。
「ふふ。そのマガジンはな、君のアイテムボックスを利用して付け外しするシステムだ。そして、こいつが高性能に作れたのも、そのいわば《選ばれし者》専用に設計されたせいなのだ。
だから試射も大変でね。大型のクレーンでマガジンを吊り上げ機械でねじ込むなどしてね。それでミスでマガジンが曲がってしまったり、抜けなくなって壊したりと大変だったようだ」
「そいつはお疲れ様です」
コンデンサシステムは砲身の後部に装着され、まるでリボルバーのように回転式になっていて、チャージ無しで十発撃てるようになっているようだ。
発射時には大型杭打機などの重機が車体を固定するような、伸縮する油圧式の固定足で動かないように踏ん張る。
なんと自走式になっており、自走砲のように自在に動くのではなく、155ミリ砲のFH70のように低速で動かせるシステムのようだ。
本来は車両でけん引するのだろうが、こいつの場合はアイテムボックス収納を大前提にしているので、それは必要ない。
陸自時代にそのような話を聞いたら「馬鹿にするなよ! そういう作業がどれだけしんどいと思っているんだ」と言いたくなるが。まあ俺は野戦特科の人間じゃなかったがな。
デモで砲身を動かしてくれたが、コンデンサシステムごと三百六十度全方位に自由に回転し、上下にも非常に素早く動く。なんと十二時の方向、つまり真上まで動かせるのだ。
「どうだ、鈴木。お前の倒したドラゴンとも戦える設計にしたのだからな。こいつは、お前でなくても扱えるのがいいところなのだ」
俺ならアローブーストを使えるので、多分ぶっぱなせるだけでドルクットより強力な奴も倒せるが。他の連中なら対地攻撃に有効だろう。
「なるほど。収納持ちなら十発でいいなら、こいつを撃てると」
そいつはありがたい。他の連中が強い敵と渡り合えるのは俺が渡した魔法の弾丸くらいなのだ。
「ああ、しかもどういうわけなのか、エネルギー効率が凄まじくてな。いくら最新で最高性能の製品とはいえ、そのサイズのコンデンサで、砲自体は艦船搭載型以上のパワーを得られるのだから不思議だ。
砲身は五十ミリと百ミリの二種類をアタッチメントで交換できる。五十ミリの方は一個のバッテリーで四発撃てる。今回はミスリルが対価で得られてよかった。もっとミスリルを寄越せと、開発部門の連中が煩くて敵わない」
それでバッテリーの数が多いのか。そうか、じゃあ通常は五十ミリ砲身にして、強力な砲を使いたい時は、百ミリ砲と入れ替えるか。
砲身が変更になっても、システムが自動で調整してくれるらしい。とことんハイテクだな。火薬の砲ではこうはいかん。
ただ、あくまで百ミリ砲として使用する前提らしく、五十ミリ砲として使用するとエネルギー効率がよくない。燃費が倍になってしまう。
有限の魔力を使えば、攻撃力が半減するという事だ。さすがにバッテリーやコンデンサを山ほど用意しておくのはナンセンスだ。
そのような物量戦になったらこちらが不利に決まっている。相手にも攻撃魔法使いがいるのだから。逃走した方が早い。
しかし、逃げられるとは限らないので、そのようになったら他の連中に鶴瓶打ちにさせて、俺がイージスを張りながら電力補充係に徹するまでなのだが。そこまでの戦いは絶対にやりたくない。
あと、発射の衝撃を防ぐ衝撃防護のシステムが付いていて、射手がその中に入れるようになっている。敵の魔法攻撃が心配だが、それを構成するチタン装甲板は後でミスリルに交換しておくか。それだって原材料が銀だから結構な値段がするのだが、背に腹は代えられない。
それに俺とて、この前の時みたいに忙しいとコンデンサをフルに戻している暇がない。イージスが張れないケースも考えに入れるべきだろう。
この間はさすがに泣いたな。盾と回復、どちらも同時に最大で必要なシーンなんて、もう二度とゴメンだぜ。
だがまだまだそういうケースがありそうな予感は山盛りするんだよね。バッテリー搭載機器で試したが、俺のアイテムボックスに入れた場合のみ、電力満タンで取り出せる。
ただ、それも魔力消費と引き換えだから、無限のパワーではない。だが、俺達は《現代の魔法の杖》である実用レベルの大型レールガンを手にしたのだ。
こいつは気を付けないと威力が高すぎて、迂闊に使うと偉い事になるのだが、威力の調節は効くので、そこは助かるところだ。
超大型のコンデンサを回転させ入れ替えて使用し、一発分ずつの電力を供給する事により、連続射撃を実現できているのだ。
コンデンサのような電気機器は、本来なら回転させる必要はないのだが、リボルバー方式にする事により、アイテムボックスによる収納を可能にした『選ばれし者専用仕様』なのだ。
俺が使えば、充電可。他の奴等は『予備弾丸』と交換できる。今手に入るだけの各種弾丸とコンデンサは用意してもらった。コンデンサは追加でほしいので頼んでおいた。また金が要る。そっちは頼んだぜ、杏。
だから、この砲は非常にスリムなスタイルの砲身を頑丈な筐体に取りつけて、それに巨大なコンデンサを組み合わせているのだ。
なかなか頼もしい奴だな。選ばれし者の持つ剣には相応しい代物だ。あの邪神派どもめ。今度会ったら、こいつをお見舞いしてやるぜ。




