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8-11 痛恨の一撃

 第19ダンジョンを抜けた先は予想通り、ダンジョンの規模相応の小さめなホールだ。通路も第19ダンジョンと同じ五本で、ここまではダンジョンの定番で教科書通りだった。ただし、ホールには猫の子一匹いないのだが。


「また、ここも寂れてやがるな。通りかかる探索者が誰もいやしねえ」

「まあ、ここは規模の小さなダンジョンだからな。多分、ここも小さめの王国の中なんじゃないか」


「ああ、そうだろうな」

 俺も合田と同じ意見だ。今のところ、この異世界側では、その法則は合っている。


 日本側では必ずしも合ってはいないのだが。東京に近い関東方面の千葉に日本最大のダンジョンがあるかと思えば、静岡に二番目のダンジョンがあったりする。


 名古屋も第21ダンジョンも順当に三番目ではあるのだが。日本の場合は、狭い地域に集中しているせいもあるのだし。


「表に出てみようぜ」

「ああ、みんな油断するなよ」

「了解」


 俺達は銃を構えながら、ゆっくりと外に出た。特に何かある訳ではないのだが。いや、なさ過ぎる。


「なあ、ここはやけに人気が無いんだな」

 青山が小銃を軽機関銃に持ち替えて、不審そうに周りを見ながら呟く。池田と佐藤もサリアのガードに入った。山崎は城戸さんの傍に移動した。


「あ、ああ。別にダンジョンが封鎖されているわけでもないのにな」

「今までにこんな事は無かったよな」

 山崎もあたりに鋭い視線を投げかけた。


「塀はあるけど、兵士の姿が見えないわね」

 川島も不思議そうに塀の上を指さした。これがクヌードならば、アランあたりが手を振ってくれるシーンなのだが。


「そいつはおかしいな。通常、ダンジョンが閉鎖されていても、監視の兵くらいはいるはずなんだが」


「緊急シャッターは開いたままだよな」

 佐藤が指さした通用門は、通常のまま閉鎖されてはいない。


「外はどうなんだ? 場合によっては車での移動も考慮しようぜ」

 池田も自分の管轄の話を切り出してくる。


 これまでも、安全を最優先にやってきたのだ。俺達は用心しながら外に出た。定番のお店なんかもあるが、無人店舗と化している。人っ子一人いやしねえ。さすがにおかしい。俺達の間にも緊張が走った。


「どうする、肇」

「う、うん。こんなのは初めてだぜ。薄気味悪いな。一旦戻るか」


「しかし、少し調べていかないと、なんだか薄気味悪いな」

「それに、ここは地元のダンジョンだしなあ。あと何回も来ないといけないかもしれないし」

「でも不気味ね」


 意見も割れる中、もう少し様子を見る事にした。後にして思えば、もう少し用心深くいくべきだったのかもしれない。初めてのところで勝手がわからないから、本来であれば自粛したいところなのだが、ここは車を出すかと思案した、まさにその時。


 悲鳴、いや苦鳴が空気を劈いた。それは俺の隣で撮影していた合田の声だった。そのどてっ腹に対魔物用の大きな槍が突き立っていた。力なく、口の端から血を吐きながら崩れ落ちる合田。


 初めてこの異世界を濡らす仲間の血に、俺は顔面蒼白だった。槍の飛来は通常の速度ではない。おそらくは魔法で撃ち込まれたものだろう。こいつは半端なダメージではない。ヤバイ!


「合田ー!」

「合田さん~!」

 城戸さんの悲鳴も轟いた。川島も青い顔でサリアの手を引いた。


「肇、あ、あれ!」

 サリアが怯えたように叫んだ。


 そこには、いつの間にか湧いてきた『軍勢』がいた。どこに隠れていた! あるいは隠蔽していたか。まさか、空間移動術とかいうんじゃないだろうな。


「肇、合田の手当てを」

 だが、俺はそんな事はできなかった。何故なら、一斉に奴らが攻撃してきたからだ。槍・弓、すべてに魔法がかかっている。止むを得ず、イージスに魔力を集中させた。反対側からも軍勢は現れた。


「ちくしょう! 待ち伏せかよ」

「しかし、どうやって! 俺達は初めてここへ来たんだぜ。ずっと待ってたっていうのか」


「そんな事より、合田の負傷の手当てを。早くしないと」

「わかってる。お前ら、頼むから持ちこたえてくれよ」


 俺は周りに装甲車をズラリと並べて盾にした。このままだと治療できない。


 体を貫通したままの槍を抜かなくては。槍は前方は刃で太くなっており、後方も装飾がついていて、どちらからも引き抜けない。このまま前後に引いたら合田が死んでしまう。合田を貫いている槍を途中で切断し引き抜いた。


 俺が剣を魔法で強化して切ったのだ。引き抜く時は、なるべくそっとやったつもりだが、合田は思いっきり呻いた。口からおびただしい血を吐きながら。


 無理もない。内臓を完全に貫通しているのだ。複雑な部分である腸をまともにやられている。引き抜く時にもダメージは避けられない。でも抜かないと治療もできない。イージスを解き、治療に集中する。


「しっかりしろ!」

 傷は浅いよ、なんて気休めは厳禁のシーンだ。俺は回復魔法を与えたが、傷が酷い。すぐには塞がらない。このままだと傷のダメージと出血性ショックで、お陀仏だ。


「肇ー、イージス!」

 山崎の声に、瞬間的に治療を中止して最大級のイージスを張ったが、周りが一瞬にして轟音に包まれ吹き飛んだ。煙が晴れると、四方に置かれた装甲車が、ほぼ粉々だった。上から来ていたらお陀仏だったが、囲まれていたのが幸いした。


「くそ、攻撃魔法かよ。前に見た奴よりも強力な奴だな」

 俺は片側の攻撃魔法を食らわせてきた奴らに【それ】を食らわせた。


 そう、以前にドルクットが放ったブレスを収納しておいたものを。超強力ブレスの前に、前に出ていた奴らは慌てる暇さえなく残らず吹き飛んだ。


 まだ収納の中にいやがるドルクットの野郎に礼を言いたいくらいの気分だぜ。もう片側には、ラドーのブレスを食らわせ、大岩の雨を降らせてやった。畜生、合田の槍を抜いたら、すぐに全力で治療したかったのに。出血が思ったよりも酷い。


 俺はかろうじて出血を抑えるレベルの回復魔法をかける。このままではイージスが解けないので全滅だ。


「さっき最初に魔法を食らっていたら、全員お陀仏だったかもしれんな。畜生、連中まだいやがるのか」


「肇、敵の数もわからんが、ここにいてはこっちが不利だ。合田を動かせるようなら撤退するぞ」


「わかった。本当はまだ動かしたくはないが止むを得ん。もう少し治療したら行こう。グーパー!」

 俺の呼び声に現れてくれたグーパーがダンジョンの出口から駆けてきてくれる。


 来てくれると思ったぜ。助かった。俺の魔法だけでは切り抜けられそうもない。虎の子のドルクットブレスはもう使っちまった。


 敵は攻撃してきたが、グーパーはその強靭な体で盾になり、口からオレンジ色の不思議な火焔だか光線だかわからない物を吐きつけた。吹き飛んでいく敵。そして、ぐるりとその大きな体で俺達を囲んで守ってくれる。


 だが、グーパーも魔法などの攻撃を食らって苦しそうだ。体に何本も槍や矢が刺さっている。すまない、グーパー。もう少し頑張ってくれ。


 その間に、俺はまた合田の回復に努めた。合田の具合も、さっきよりはマシそうにはみえるのだが。なんとか命は助かりそうな塩梅だ。


 脇で川島と城戸さんが合田の治療のサポしてくれている。サリアも血を拭いてくれて、手を握ってやってくれている。みんな血まみれだ。他の連中は応戦中だ。


 俺は、今度は戦車や射撃場構築に使っていたコンクリートを出して攻撃を遮蔽して防いだ。今も上はがら空きだが、さすがに手が回らない。迫撃砲やロケット砲で攻撃しているが、いつまた吹きとばされるかわかったものじゃない。サリアや城戸さんが耳を塞ぐ。


「よし、多分これで病院までは持つはずだ」

 そして最低限の治療を終え、撤退する事にした。


 グーパーに後衛を任せ、自衛隊用の救急車を出してイージスを張りダンジョン入り口へと進む。そして待ち伏せしていた敵の部隊を次々と撥ね飛ばし、ひたすらに進んだ。


 グーパーも怒りのままに蹴散らしていく。敵が怯んだその隙に、そのままダンジョンに飛び込み帰還を果たした。


 グーパーが、かなりやられていたようだったので心配だったが、ここは合田が優先だ。満身創痍のグーパーに送ってもらい、ダンジョン内から救援を要請して、米軍地上駐屯地ブラックジャックの医療施設に飛び込んで治療してもらい、合田はなんとか一命をとりとめた。


ダンジョンクライシス日本書籍版、4月4日付けの日経新聞夕刊で紹介されていたようです。小さな記事ですけど。瞬間、ハヤカワ文庫JA内でのランキングが目に見えて上がる効果はありましたね。すぐ落ちてきましたが。

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