8-10 第19ダンジョン
こうして、本日は久しぶりに新ダンジョンへとアタックをかける事になった。豊川方面第19ダンジョン。これもまた定番で市街地をはずれて山の手方面に出現したものだ。
ダンジョンは基本的に北あるいは東方面からナンバリングされている。あくまで大雑把にだ。千葉が1から8、静岡が9から18、愛知が19から21、三重が22から30、和歌山が31から40だ。グループ分けは都道府県別になっている。
国での扱いと自治体での扱いはやや異なる。単に事務的な扱いが一本化されていないだけの話なのだが。当初、自治体では愛知の1・2・3と呼ばれていたのだ。
それに米軍の管理上のナンバリングが1~40に振られた。愛知の1~3がそのまま順に19~21に振られたのだ。
既存の米軍とは異なり、彼ら日本ダンジョン探索統括部にとってはあまり都道府県の都合など関係ない。日本の国と交渉するのみだからな。
現在のナンバリングは、そういう割とゴタゴタした中でついたものだが、一旦ついた名称はやたらと変えると、また混乱するのでそのままになっている。
俺達は名二環から東名高速へ入り、豊川インターで一般道へ降りた。俺達にはおなじみ過ぎる場所だ。
こちらも主街道にすらかかる事もなく、山の中にひっそりとダンジョンがあった。
ここのダンジョンもご多分に漏れず、東名と第二東名にはさまれた場所に「ちょっくらごめんなさいよ」という感じに存在している。
大方の人はもうここにダンジョンがある事すら忘れているかもしれない。わざわざ何も目立つ物が無いような、地元の人くらいしか入らない脇道に逸れていかない限りは。
高速からは見られるのだが、それも見慣れてしまえば、ただの風景に過ぎない。
うっかりと道に迷った人などが入り込むと、寂れた山の中に相応しくない荘厳なゲートを持つフェンスのあるゾーンに入り込み、初めてそこがダンジョンと呼ばれる場所であると思い出すのだ。
この進入禁止区域の中へ勝手に入り込むと、かなり重罪となる。最低でも留置場での数日の拘留くらいは最低でも覚悟のゾーンだ。
以前は、度胸試しで入り込む馬鹿がいたが、そいつらがどうなったか新聞やテレビなどで報じられたので、今はほとんどいなくなったようだ。
さらに米軍基地ではないが、完全武装の米軍兵士が地上にも駐留している。
ダンジョン兵は、本来の在日米軍よりも、かなり質が悪い兵士も多かったりするので、仕事以外でダンジョンの駐屯地にわざわざ近寄りたがる日本人は本来いない。
そもそも魔物が中にいる危険地帯でもあるのだから。警備の自衛官がいてくれるので、深刻な危害を加えられてしまう事はおそらくないが、警察には通報されてパトカーのお迎えを待つ羽目になる。監視カメラくらいは、あちこちに置かれているのだ。
俺達は、そこを警備する自衛官に挨拶して正規にゲートを通過した。ここは魔物を警戒しているわけではないのだ。中へ入る人間がいないようにだ。これまた大概は暇なんだけど。
不法侵入者はゲートでない部分から入る。さすがに広大なフェンスに電流までは流していない。そして、中はダンジョン化していて監視所から丸見えなので、すぐに御用だが。ダンジョンの中なんて入って一体どうするつもりなんだろうか。
以前に捕まった奴の話だと、ゲームみたいだから入ってみたかったと供述していたらしい。ここは一種の戦場のようなものだ。
米軍基地の公開日などで、みみっちいスパイ活動をしているような、おかしな連中も命が惜しいのでここには絶対にやってこない。ここの連中は気が荒いからな。
来るのは不法侵入なんて日常茶飯事の廃墟マニアみたいな馬鹿者だけだ。ここの門番は基本米軍だからな?
さらにダンジョンの中へ入れば地獄の門番達が徘徊しているのだ。それが何故わからんのか自衛官たちも皆首を捻っている。
「ハジメ、ここもダンジョン?」
「ああ、そうだ。うちの県には3つしかない貴重なもんだぜ」
「貴重品!」
「いや、サリア。それはちょっと違うぞ」
それに、ここは第21ダンジョンに比べてかなり小さい。直径は約五百メートルだ。立ち入り禁止区域は直径一キロメートルになる。
21のような巨大ダンジョンではなく比較的小型のものだ。中の通路は五本ある。
「じゃあ行くか」
俺達は気楽にそのままダンジョンへ向かった。
米軍基地のような警備のゲートは米軍が管理しているが、ここは俺も警備に参加していたような古巣だ。
話は通してもらってあるので、地上駐屯地へ寄る事はない。身分証だけ見せてさっと通過する。このままダンジョンまで直行だ。
俺達は入り口にいる警備の自衛官に声をかけた。そのうちの一人は顔見知りの奴だった。
「よお、萩尾。久しぶりだな」
「お、鈴木か。噂は聞いているよ。はは、お前らも雁首揃えているな」
こいつは特科の奴で、一緒に飲みに行った事もある。ここは地元中の地元で、知り合いの顔まで見られる、この豊川。俺達は少し油断し過ぎていたのかもしれない。
「じゃあ、いってくるわ」
「ああ、気をつけてな。なんか土産くらい持ってこいよ」
彼の軽口に送られて、俺達は新ダンジョンへと旅立った。




