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8-8 コレクション

 俺は、エルスカイム王国の古い珍しい貨幣をかなり頂いてしまって、大変に上機嫌だった。


 サラメル陛下も、自国の物を見繕って解説付きでプレゼントしてくれる事になった。王家でないと持っていないような凄いコレクションだったりする。


 これは、その方面の煩い顧客に見つかったら、それこそ「寄越せ、寄越せ」とえらい騒ぎになるので秘密にしておかないとな。でもコレクションというのは、見せびらかしてこそなので悩ましい。


 にまにましている俺を呆れたような顔をして見ていた杏。

「社長の趣味って本当にわからないですね。前は、ガラクタみたいな物を集めてたって言ってませんでしたか?」


「ええい、何を言う。鎧の留め金コレクションなんて、地球じゃなかなか出来ないんだからな。それが、こっちの世界じゃ集め放題なんだ。


 凄いお宝なんだぜ。屑鉄置き場に、町のうらぶれた鍛冶屋なんかに、お宝が眠っていたりするんだから。いつか、貨幣と合わせて異世界博物館を開いてやるんだ!」


「はいはい、それも見つけたら集めておけばいいんですね?」

「おう、頼んだ! 働き次第ではボーナスが増えるぜ」


「わあ、お仕事の評価になるのが、ガタクタ集めの成果なのかあ」

 微妙な顔をしている杏に、くすくす笑いながら母親が諭した。


「まあ、男なんてそんなものよ。うちのお父さんも、古いマンガとか玩具とか好きだったわね。今度、地下室のぞいてごらん。昔のコレクションがそのままで、部屋いっぱいよ。


 もう集めるの止めたんだから片付けなさいって言ってあるのに。うにゃうにゃ言って片付けようとしないの。もう一目見ただけで呆れちゃうから」


「それを捨てられていない杏のお父さんは幸せ者さ。ああ、俺は収納があって本当に良かったなあ」


 王様達には、コレクションの見返りとして、とりあえず例のブツ(ハンドスピナー)を配っておいた。


 そして、もれなく虜になったようだった。執務の邪魔にならなければいいのだが。特にサラメル陛下には、『異世界からの福音』として国の重鎮などに配って商売の宣伝してもらえるように、大量に配布した。


 いつかこの世界でも、それが作られる時がやってくるのかもしれない。精密な機械部品としては難しいと思うから、例の異世界通信機のような魔道具として作られるのかもな。


 相変わらず、あれの材料は足りなくて異世界通信機の複製はできていない。特殊な魔道具には、特別な素材が使われているのだろう。


 そうでなければ、他の国でも普及しているだろうから。どれだけの国家が、こういうテクノロジーを持っているのかよくわからない。知っておきたいが、国家機密だろうから、そうおいそれとは教えてはくれまい。


 ご機嫌な成果を得て、杏の歓迎の宴は終わりの時を告げた。杏親子は、王族ゾーンにある、かなり広めの部屋で止まる事になった。


 今夜は、さぞかし落ち着かない事だろうが、物怖じしない性格の杏の事だ。すぐに慣れるだろう。あの辺の感覚も評価のうちなのだ。


 あの16歳の少女、近藤早紀みたいな子だと絶対に雇えないが。あいつの場合、絶対に何かやらかしそう。常駐させている俺の部下が現地の重鎮の不興を買っては困る。杏ならその心配は、まずないだろう。母親を見ていればわかる。


 翌朝、朝食を取りながら親子であれこれ話している。

「とにかく連絡がつかないのは、ちょっと心配ねえ」


「一応、毎週家には顔は出すよ」

「そう。そうしてくれる? お父さんには言っておくから」


『母君よ、そう心配召されるな。我が精鋭の騎士団が娘さんは守る。この世界一の王国の王宮のど真ん中で、彼女に危害が加わるような体たらくでは、それもまた困るというものだ』


 それを聞いて、彼女も安心したようだ。

「そうですか、それでは王太子殿下、うちの娘をよろしくお願いいたします」


 ジェイクの野郎が、そんな風に王太子扱いされているのを見て、思わず「ぷふっ」と笑い声が漏れてしまい、あいつがジロっと横目で睨んでいた。おっとっと。だって初めて会った時の印象がさ。


 そして、俺達は杏の母親を送るために戻る事にした。それに次の仕事が待っているのだ。まだグニガムには行けないため、他の近郊にあるダンジョンを攻めるのだ。


「じゃあ、杏。体に気をつけてね」

「うん、わかっているよ。大丈夫。こっちには病気や怪我を治してくれる魔法もあるんだよ。うちの社長も使えるんだから」


「へえ、魔法ねえ」

 もしかしたら、彼女の頭の中には、アニメに出てくるような魔法少女などが思い起こされているのかもしれない。


 確かに、リーシュみたいな魔法少女もいるにはいるのだが、ちょっと、その方面とは方向性が違うようだ。ファイヤーボールとかエアカッターを放つような人達だからな。


 ああ、俺もあのライトバレットなんかの攻撃魔法を使ってみたかったなあ。まあ、攻撃力に関しては大量の近代兵器があるのだから、いいんだけどな。それとはまた別の、男のロマンというものさ!


「ダンジョンクライシス日本」

3月20日ハヤカワ文庫JA様より発売です。


少年時代に大好きだったハヤカワ文庫から本が出せて、とても嬉しいです。


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