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8―6 就職祝い

 そして三人は、さほど時間を置かずにすぐ戻ってきた。ちゃんと入り口まで送ってくれてグーパーも、しばらくいてくれた。


 他の探索者の邪魔になるんで、横にどいていたけど。気をつけないと、間違えてグーパーを攻撃してくる探索者がいるかもしれない。


「おっかえり~」

「ただいまー」

 なんとなく気の抜けた感じで、挨拶を交わす俺と杏。


 こいつも、きっと俺の仲間だから迷宮神使の魔物達も行き来を承知してくれたのだ。これが他の王族や、あのエバートソン中将なんかだとプイっと横を向いちゃうんだろうな。ジェイクなんかどうだろう。こいつなんか、半分くらい現地の仲間みたいなものなのだが。


「どう? 一人でこなせそう? うちの仲間達も一緒にはいないから、こっちは騎士団の付き添い、向こうは自衛隊のダンジョン警備しかいないが」


「うーん、なんとかやれそうです。就職しちゃってもいいですか?」


「大歓迎だな。細かい話はまた詰めよう。健康保険なんかの福利厚生とかは、うちの会社の制度が借りられるか聞いてこよう」


 城戸さんも、横から声をかけてくれる。

「なんだったら、公務員の制度を貸与してもいいですよ。それくらいは、うちの爺にやらせます。その代わり、一部公務を手伝ってください」


 ははあ。ここの王族との繋がりみたいな物にしたいわけだな。今、日本の味方をしてくれそうな国はラプシア王国とここくらいだからな。


 どちらも三大ダンジョンの所在地だし。この世界第二位の地位を誇る、ダンジョン・グニガム所在地であるアマラ王国が、あのていたらくなのだし。まあ、いいんだけれど。


「いいじゃないか。もし、この騒ぎが片付いても、お仲間の公務員にしてもらえるかもしれないぜ。今なら好き放題に条件がつけられる」


「あはは。それもいいですけど、きちんと公務員資格だけは取っておいてくださいね」

 なんか、その後の逆天下り先まで用意されそうな勢いの杏。


 よし、ここの商売はこの子に任せよう。助かるぜ。クヌードは地元の21ダンジョンなんだけど、グラヴァスは結構遠い。王都に比べたら、三分の一くらいの距離しかないので、断然近いんだけどさ。


 そのグラヴァスでも、俺一人で行ったら車だと一日がかりになってしまう。ヘリで行くと、一人じゃ飛行魔物と戦えないからな。そういう意味でも、辺境伯にビジネスを依頼しておいてよかったぜ。


 メインの資金調達先は、このアレイラになる。エルスカイム王国の王都に駐在員を置けるのは最高だ。やろうと思えば、土日に俺が一人で行って、商売の仕事を済ませてしまう事も可能になるのだから。


『いや、めでたいな。これで俺も余計なプレッシャーをかけられる謂れが無くなる。ついては、ささやかだが今夜は王家から祝いの席でも設けよう』

 首尾よく事が運んだので、探索者王太子も大層ご機嫌のようだった。


「ああ、そういや、こいつにも探索者証を持たせたいんだけど、王宮でできるかな」

『ああ、任せておけ。そうだな、身分証くらい持たせておかんとな』


 ジェイクの威光で、見事に王宮にて書類が作成され、後承認という事で探索者ギルドの追認を受ける事になった。彼らも、王国からダンジョンの管理を委任されているだけの、ただの民間団体だからな。王家からの意向は絶対だ。


 そういうわけで目出度く、探索者・佐藤杏(書類上のみ)が爆誕した。ついでに、ちょっとそれっぽい感じの格好もさせてみた。


 可愛らしい、短めの御洒落系の革のスカート。革製の胸当てのついた半袖の薄皮の服。足回りは革のブーツ、腰にはミスリルのレイピア。ちょっと弓も持たせてみた。


 実際には、武器なんてこの子が使えないどころか、逃げる際に邪魔にしかならないだろうと思われる物ばかりなのだが。部活は弓道部でも剣道部でもなかったそうだ。


 だが、お母さんには馬鹿受けだった。スマホで記念写真を取り捲っている。

「あはははは、うちの、うちの娘が異世界の冒険者ですってえ。ぶははは」


「お母さん、笑い過ぎだよ~。それと、冒険者でなくって探索者! そりゃあ、書類の上だけの話なんだけどさ」


「就職祝いだけじゃなくって、そっちの方もお祝いしましょうかね。お留守番のお父さんが聞いたら、なんて言うかしら」


「もう~」

 ついでに、うちの新妹にも着せてみたのだが、本当に可愛らしいだけだった。


 こっちはなんとなくそれっぽい感じになっただけで、殆んどピーターパンのような感じになってしまった。まあ、あれも劇の役とかでは、女の子がやると相場は決まっているのであるが。


「お前は何か装備を使えるのかい?」

 そう聞いてみたら、彼女は荷物から何故か日本の包丁セットを持ち出した。


「最近、お母さんに少し料理を習ってるよ。とりあえず卵焼きだけど」

 うーん、それは包丁が必要な料理だったろうか。


 オムレツなら具を刻む必要はあるかもなあ。それと、彼女は俺が日本で買い込んだ解体ナイフも持ち出して、にっこりと笑う。


「解体も少しは出来るよ。あの子達ほどじゃないけれど、きっとハジメよりは上手~」


 少なくとも、レンジャー訓練を受けている自衛隊員よりは上かもしれないなあ。普通は蛇や鶏レベルまでだしね。そして、ご機嫌な面々を乗せたバスは王宮に戻った。


「ふう、今日は大変だったあ~」

 普段着に着替えた杏は、王太子の部屋のソファで寛ぎながら言った。


 このソファ、日本で買ったら、三百万円では飼えないだろうな。多分、1千万円は下らないはずだ。その辺のデパートや家具屋さんでは普通に展示されていない、特別な輸入品か特注品となるだろう。


 外国だと売ってそうだけど。杏は普通に寛いでいるが、なんかホテルのロビーのような解放感があるからな。


 部屋っていう感覚が持てないので、却って緊張しないのかもしれない。俺達も最初は驚いたもんだ。まあ、これくらいで丁度いいさ。あまりビビられていても困る。


「何、初日だからな。これからもよろしく頼むよ」


「あー、わかりました。あの冒険者スタイルっていうか、ああいうのが疲れるんですよね。こういうハウスマヌカンって感じなら大丈夫ですよ」


 どうやら、王族相手という感覚があまり無いようだ。まあ、この子なら、そう問題になるような騒ぎを起こしたりはしないだろう。


 俺だって、ここの王太子付きの騎士達とは顔見知りだし、そのあたりは俺としても気楽なもんだ。この国は邪神派の勢いもそうはない。わざわざ杏を狙ってくる事も多分ないだろう。


 もし何かあったその時は、自衛官の常駐を考えないといけないかもしれないが。日本政府に予算をくれとは言わないが、必要なら資金調達の手伝いくらいは付き合ってもらいたい。


 アメリカから人材を回してもらえるんだったら、元軍人みたいな武装したSPを寄越すんだが、アメリカ人はこっちには来れないだろうな。


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