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8-5 転移テスト

「えー、皆様。過分のお引き立てありがとうございます。つきましては、その、是非お言葉に甘えたく存じますが、そのう。ちゃんと日本に帰れる保障があればという事で」


 しばらく親子二人で協議していたが、そのように話が落ち着いたようだった。何しろ、とてつもなく条件がいい就職先だ。それは二つの世界で、この子だけが享受できる特権なのだから。


「じゃあ、実験してみようぜ。君が、俺と関係なく世界を行きできるか。日本に帰る時は、騎士団に送ってもらい、帰ってくるまでダンジョン入り口に騎士団の誰かが常駐してくれると。向こう側は魔物が入り口まで送ってくれると思うが。


 入り口は自衛隊が警備しているのだし。米軍にも頼んでおこう。探索者連中も、ジェイクから言ってくれれば、気を付けてくれるだろう。そうだ。君も探索者ギルドに入るといい。探索者証があれば、心強いぜ」


 探索者ギルドと聞いて、杏も微妙な顔をしていたが、とりあえず試してみる方向で決まった。


 それから、また王族ゾーンを出て、何故かお姫様達も一緒で出かける事になった。今度は姫様達も一緒なので、高級観光バスを出した。


 ジェイクだけなら、普通のマイクロバスに捻じ込んでおけばいいのだが。大型バスは大きくて危ないので、騎士団が馬で先導してくれる。


 すぐに王宮の外に出られるルートを通ったので、バスはその巨体を石畳の上を滑らせ、ディーゼルエンジンの音を響かせていった。


 非常に注視されていたが、特に何事もない。一応騎士団の馬はついてきている。魔法ないし魔法薬の効果なのか、馬は悠々と時速三十キロを超える速度で先導している。騎士団が先導しているため、道はどんどん開いていく。運転している佐藤も楽しそうだ。


「いや、気分いいな、これ。さすがに、この広い道で大型バスの超徐行運転は勘弁してほしいぜ。体が持たないわ」


「はは、日本でいったら白バイ先導ってところだよな」

 超VIPを乗せた車両だものな。日本なら護衛のSPが乗った車両もつくところだ。


 快調に進み、ダンジョンのドーム内へとバスは侵入した。そして降り立つ一行。何事かと目を瞠る探索者ども。かなりの人垣ができたが、中からジェイクが姿を現すと納得した様子だった。


『おや、ジェイク。今日はまた、変わったお召し物で』

 楽しそうに気さくな言い方と、わざとらしく謙った言い方を取り混ぜて声をかけてくる、顔見知りの探索者。


 節くれだった指で顎髭を引っ張りながら、いかにも王子然とした格好のジェイクを見てニヤニヤしている。


『ええい、煩い。今日は特別なんだよ』

 良い訳する探索者王子を、他の連中も面白そうな顔で見ているようだ。


 こんな無頼の大国王太子って、他にもいるのかねえ。この世界の事だからあっても不思議でもなんでもないが。だが、その後に続いている方々はどうなのだろう。


 王妃様にお姫様のエルスカイム王家三人衆が【帯剣】して、ついてきなさる。ドレス姿のままなんだけどさ。

「なあ、ジェイク」


『ああ、言うな、言うな。我がエルスカイム王家に、剣の一つも使えぬような、たおやかな御令嬢や王妃などはおらぬ。我が婚約者どのの母国も含めてな』


 そう言われて改めて見返したら、本当だ。アルメイーラ王女も立派な奴、しかもパワーファイターが用いるような両手剣らしいのを持っていた。まだその中では小柄な奴だとは思うが、女性が腰に差すタイプとしては、ギリギリの大きさなんじゃないか?


「なんか、すげえな。お前のとこ」

『だから、言うなと言っておろうが』


 それから、メイレアと川島に付き添われて一緒にダンジョン内に入っていく杏。無論、俺も一緒だ。一行も後に続いた。


「さて、じゃあ、心の準備はいいかな。佐藤駐在員」

「もう、ここに就職は確定なんですね。もう、嫌だなんて言える空気はどこにもない訳なのですが」


 不安そうに周りを見回す杏。思わず母親の方に目線を向ける。それに応え、にっこりと笑顔で彼女は娘を励ました。


「頑張って。これだけの皆さんがついていてくださるのですから」

「うん、頑張るよ。それで、鈴木さん。いえ、社長。どうすればいいんですか」

 お、社長ときましたか。俺も愛知商事の会社員なんだけどね。


「今、迎えを呼んで説明しておくから一人で行き来できるかどうか、試してみてくれ」

「わ、わかりました」


「心配するな。今日は付き添いをつける。一応、ダンジョンの入り口まで送らせる予定で、そいつらは念のために付けておくだけだ」


 杏も、にこっと笑い両側に立つ川島と青山に気がついた。川島は当然のように自動小銃を構え、そして青山は俺が渡した魔法弾を装填した軽機関銃を持っている。背中には対物ライフルも背負って。


「じゃあ、いくぞ。グーパー、おいで~」

 そして、でろんっと現われた御馴染みのでかい奴。相変わらず可愛いのう。


『こ、これはまた、大きい魔物なのですね』

『可愛いな、触っては駄目ですか?』

『目が可愛いですよね。うちで飼いたいですわ』


 ジェイクの身内が年功序列で発言していた。いい根性しているな。婚約者の姫も、うんうんと頷いている。


「あー、少し触ってみますか?」

 大事な顧客なので、ちょっと媚びてみる。


『いいのですか?』

『それは素晴らしい』

 王妃様は、真っ先に駆け寄って鼻面を撫でた。


『おお、これが選ばれし者の仲間か。おまえ、どうかこの世界を守っておくれや』

 そう言い聞かせて。グーパーも、任せろと言わんばかりに、王妃様に鼻面を擦り寄せた。


 ふう、そういう意味で見てみたかったのかな。国王陛下は忙しいらしくて、今日は顔を見ていないが、代わりにこういう方が見極めたりするのかもしれなかった。


 俺は頃合を見て、グーパーに話しかけた。

「グーパー。今日は試してみたい事があるんだ。お前達は、俺がいなくても、俺の仲間を行き来させることができるか? もちろん、俺が仲間として承認させた相手だけだ」


 そして、グーパーは真っ直ぐに俺の瞳を見て頷くと、尋ねるように小首を傾げた。


「そうか、そうか。この佐藤杏さんだがな。俺とは違って、彼女は戦えない。必ずダンジョン入り口まで連れていって、警備の自衛隊員のところに行くまで見ていてくれ。


 そして、向こうで彼女が呼んだら迎えにいってやってくれ。お前が選任で頼む。今日は、川島と青山が一緒に行く。できるか?」


 コクコクと可愛らしく、その大きな頭を上下に二回振ったグーパー。


「ようし、それじゃあ佐藤さん。行ってみてくれ」

『賢いのですね、この子は』


「ははは、王妃様。こいつらは、迷宮の神使のようなもの。普通の魔物とは異なるのですから」

 さきほどから王女様方に混じって、グーパーを撫ぜ回して話しかけたりしていた杏が言った。


「じゃあ、行ってまいります」

「ああ、すぐ戻っておいで」

 そして、グーパーの大きな頼もしい体に守られながら、3人の姿は一瞬にしてかき消えた。


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