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8-1 異世界御訪問

 早朝、俺達はヘリで佐藤さんの家方面へと向かった。城戸の姐御が、またもや強引に近所のテーマパークにヘリの着陸許可をとってくれたのだ。


 もともと、俺達の仲間になる前から強引な仕事をやってきているんだろう。柔硬取り混ぜた手腕を発揮する人だ。


 最初のあたりの印象が非常に頼りないものだったので、どうかと思っていたが、特に地球サイドでは頼りになる。電話で連絡を入れてから、そこから僅か数キロの距離を走らせて、例の豪華バスで佐藤さん親子を迎えに行った。


「鈴木さん、おはようございます」

「先日はどうも。本日は、御世話になります」


 今日は、杏とお母さんの二人だ。お父さんは仕事が忙しいらしい。「よろしく御願いします」という伝言だけを預かってきていた。


 二人共、手には都内のデパートで買ったと思しき、デパートの名前の入った上等そうな紙袋を持っていた。相手は王族と、その関係者だ。下手な物より、美味しい御菓子でもという事のようだ。うん、その方がいいと、俺も思うな。


「では、これより千葉第5ダンジョンへと向かい、そこからダンジョン内を通過し、エルスカイム王国は王都アレイラへと向かいます。途中、魔物のお迎えが来ますが危険はありませんので。では出発」


「魔物……ですか」

 お母さんの方はよくわかっていない様子で首を傾げていた。杏の方は、ちょっと楽しみなのか、くすくす笑っていたが。


 民間人の乗客がいるので、ゆっくりと発進させていく運転手の佐藤。もう、すっかりこのマイクロバスの運転手が板についている。これで、俺あたりが運転していたのでは、絶対にこうはいかない。そして、杏が話しかけてくる。


「ねえ、鈴木さん。ずっと異世界回りしてるって、どんな気持ち?」

「ん? まあ、そうだな。楽しいっちゃあ楽しいし、しんどいといやあ、しんどいかな」


「たとえば?」


「そうだなあ。面白い魔物や人に会えたり、異世界の珍味やお宝に会えたり。魔物と戦うのも、そう危険が無いのなら狩りの感覚だしなあ。


 でも、対人戦闘は好きじゃない。自衛隊は国防を担ってきた組織だけど、災害出動がメインだ。ダンジョンの魔物を相手にした戦闘出動は経験あるけど、対人は経験がない人間ばかりだ。こっちを殺しにかかってくる人間の相手はしたくないな。


 しかし、そうは言ってはおれない。前回も、日本人女性を拉致した奴らを追跡して戦闘したからなあ。邦人救出は自衛隊にとっては重要な使命だ。それに、俺の場合は自衛隊じゃないけどさ、俺が行かないと邦人救出任務が行なえない」


「うーん、やはり異世界は厳しいのね」

 改めて、自分の幸運を噛み締めているようだった。


「まあ、今日出かけるアレイラは、必ずしもそうでもないさ。あのエルリオット王子の管轄だ。精鋭の騎士団もいる。市井の人ならばともかく、王子の手元から誰かを攫っていくのは至難の技だろうしなあ。


 敵さんもそれは考えないだろう。むしろ、係わり合いは避けるはずだ。連中の目的に対して百害あって一利無しだからな」


 一応、勧誘のための伏線は張っておいたぜ。


「ふうん、確かにそうだね」

 バスは軽快に首都高速湾岸線を走っている。平日だし、首都高も昔に比べて随分整備され利便性は高くなったため、さほど混んではいない。


 大昔は『首都低速道路』と揶揄されて、東京に入るコースを大きく迂回して抜けたり、朝の6時前に東京を通過したりするような人達もいたという。まあ、高い金を払って延々と渋滞していたんじゃあな。


 バスは1時間を僅かに切って高速を降り、そこから十キロほど走って第5ダンジョン・アレイラへと到着した。本日は、お客さんを連れているので、中将には挨拶していかない。彼にも前もって、そう伝えてある。


「さあ、いよいよダンジョンですよ。一般の方は入りたくても入れてもらえませんので、この機会によく見ておいてください」


 そう言われて、戦々恐々な様子で辺りを見回す、お母さん。


「グーパー、おいで」

 俺は一際優しい声で彼を呼んだ。慣れない人に、いきなりマダラを見せたりすると悲鳴上げちゃうからな。


 奴もわかっているとみえて、すっごく媚び媚びな様子で登場してきた。グーパーのぶりぶり、ぶりっ子バージョンだな。円らな瞳。甘えるような仕草で座り込んで、可愛く鳴いた。


「みゅーん」

 こいつってば、こんな鳴き方もできたのか。か、可愛いじゃねえか。抱き締めてやりたいぜ。川島も、じーんとしたような表情をしていた。


 そして、すかさずスマホに収めている。駐屯地の友達への御土産なのだろう。初めて会った時にこの鳴き声だったら、こいつの名前が「ミューン」になっていたかもしれない。


 杏とお母さんも目を丸くして、そのグーパーの可愛らしい様子に見惚れていた。むろん、サリアも目が吸い付いて離れない。


「じゃあ、やってくれよ」

 俺達は、可愛く尻尾を振り、前足をさよならポーズで振ってくれるグーパーに送られて異世界へと無事に到着した。


 もちろん、杏のお母さんも一緒だ。無事に世界を超えられたようだった。まあノンポリのゲストだからね。アレイラの巨大なドーム・ホールに出現して、周りの景色が一瞬にして一変した。


「こ、ここがもう異世界なのですか?」

 キョロキョロしている杏のお母さんに、すかさずガイドの俺が説明する。


「はい、このサイトが異世界転移のポータルとなる地点です。我々はダンジョン・ホールと呼んでおりますが。ここはもう既に王都アレイラです。それでは、これより王宮へと向かいます。その前におばちゃん、アンジェリカさんのところへ寄っていきましょうか」


 それから、バスに乗ったまま、アレイラに向かった。ここでは、バスを運行しても、そう言われたりはしない。


 ジェイクの方から通達がいっているのだ。まあ、言われたところで、エルリオット殿下の書類の威光が通じるのだから。


 敵さんは、この前蹴散らしたので、今はアレイラを警戒しているはずだ。奴らのシンパはいるのだろうが、そう脅威にはなるまい。


 バスは異世界の大都会の滑らかな石畳の上を滑るように走らせて、乗客の目を奪った。


「懐かしい。アレイラの町だあ。お母さん、この町は広いんだよ。最初は歩くのがきつかったけど、人間って何事にも慣れるもんなんだね」


「まあ、本当に道路が凄く広いわ。それに、馬車、馬車、馬車の群れだわ。色んなタイプがあって。まるで、日本の自動車の種類を見ているかのようだわ。


 なんていうか、不思議な世界。昔のヨーロッパのようでいて、あるいは近代アメリカを思わせるかのような。それでいて、もうなんと言ったらいいのかしら。やはり、ここは異世界。そうとしか表現できないわねえ」


 なんとも言えないような顔付きで、この大都会を眺めているお母さん。自分だって、端っことはいえ大東京の市民で、近所にはあの日本中の憧れであるテーマパークがあり、自宅からそこへ自転車でも行けちゃうくらいの超恵まれた立地なのだが。


「はは。ここは、こちらの世界で最大を誇る大都会ですからね。他所は、もっと素朴な感じとかありますよ。ぐっと前衛的でサイケな町もありますがね。まあ、その辺は所変われば品変わるという事で。そのあたりの事情は、地球でも一緒でしょう?」


「まあ、そうなのですが」

 そうは思いつつも、違和感はぬぐえなそうな雰囲気だ。


「ここは、他と比べるならば、ぐっと治安もいいです。馬車はですね、専門のメーカー、コーチビルダーがいて、デザインも各店が覇を競っておりますので、これを是非とも輸入したいと仰られる地球の富豪達も結構おりまして。


 なんでも、自宅の敷地内にある森の中を走らせたり、別荘に置いてみたり。はたまた友人宅で行なわれるパーティに、そいつで乗り付けたいとか。


 一種のステータスでもあります。地球ではもう、このような趣のある馬車は手に入りませんからね。既に地球の富豪達が作るサイトで、コーチビルダーのランキングが作られていたりするんです。


 人気の店は完全にバックオーダーですね。こちらでも、王侯貴族御用達の店に決まっていますから」


 こいつもまた美味しいビジネスなんだ。独占商売だからな。話を聞いて呆れたような、杏のお母さんの表情を楽しみつつ、バスは目的地へと到着したようだ。もちろん、サリアは、初めて見るアレイラの町に、窓にへばりついて、被り付きの体勢だった。


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