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7-35 勧誘

 子供達が起きたので、軽く一緒に体操をしてから、久し振りに、魔物の解体を見物した。みんなも結構グロ耐性はついたみたいだな。


 サリアなんか、ここでは初めて見るはずなのに顔色一つ変わらない。自分で解体して御飯とか食べた事があるのかもしれない。


 母親とかがやっていた可能性もある。自分も教わっていて、簡単な奴は解体できたりしてね。いつもの行事で飴を配ってから、子供達に別れを告げてダンジョンに向かった。


「おい、卵どうする?」

「どうするも、こうするも。収納できないんだから、こうするのさ」


 俺はパワーのある大型バスで引ける大型のトレーラーを出した。荷台が平坦になっているもので、卵六個なんか余裕で乗るものだ。何かあった時のために用意しておいたのだ。


 ラドーの卵は殻が厚いから、ちょっとやそこらの衝撃では割れてしまわないだろう。一応、シートは被せておくが。うっかりと日本で撮影されて動画サイトなんかで流されたりしたら、何事かと思われるだろう。


 今日はグーパーも、のんびりと現われて肉球っぽい足の裏を見せながら、送り返してくれた。


 横目で、「旦那。そんなもの持って帰るんですかい。あたしゃ知りませんからね」みたいな顔をしていたが。コースターを引っ張りだして乗り込んでから、佐藤さんに電話してみる。


「やあ、佐藤さん? 鈴木です。はい、あの異世界の。前に言っていたさ、アレイラへ行く奴。明日とかどうかな。今、何をしてる? うん、仕事とか。まだ決まっていない? そう。お母さんの都合とかどう?」


 彼女からはOKを貰ったので、本日は守山へ帰還する事にした。明日はまた千葉まで飛ぶのだ。俺の飛行実習の時間でもある。


「なあ」

 バスの中で山崎が声をかけてくる。


「あの子、本気で誘うつもりなのかい?」

「ああ、一応な。まあ無理にとは言わないさ」


「万が一、お前が死んだら、向こうから帰ってこれないぞ」


「ああ、そこだけがネック。そう簡単にやられる事はないと思うが。その時は、お前らも城戸さんも島流しさ」

 小耳に挟んで振り返った城戸さんの顔が、引き攣っていたが。


「はっはっは、そいつは考えていなかったよなあ」

「そうそう。今まで、そう危ない目には遭っていなかったのだし」


「おい……ドルクットは?」

「飛行魔物にもしょっちゅう襲われているし」

「攻撃魔法の直撃も食らって、地上で敵と銃で交戦したよな?」

 初の対人戦闘だったから、そうとう心に残ったらしい青山。


「盗賊にも襲われたんだが」

 佐藤も、運転しながら思い出したように答える。そういや、あの時は、こいつもだいぶ思う事があったような気がするな。


「あんたら、本当にいい根性しているわねえ。そういや、私やサリアちゃんもグニガムで変な奴らに追われて戦闘直前だったんだっけ」


「ああ、それで今、グニガムがお預けになっているくらいなんだからな」

 そして、サリアが口を挟んだ。


「大丈夫。選ばれし者は死なない。運命が、きっと守ってくれるから」

「そうなのか?」

「そうそう」

 なんか、自信たっぷりだな。根拠とかあるのか?


 しかし、何故か、その幼い瞳に僅かな悲しみが宿っていたような気がして、思わず彼女の顔を覗きこんだが、そこにはいつもと変わらぬ笑顔が張り付いているだけだった。


 守山に着いて、師団長を電話で呼び出した。既にトレーラーには見物人が集まってきている。


「怪物の卵を持ち帰ってきたのだと?」

 眉をやや八の字に寄せながら、おっとりと駆けつけてくる師団長。周りの人間も場所を開ける。


「ええ、もうかなり中で雛が育ってしまっているんで、卵としては食べられませんけどね」

 一応、卵としてはと言い添える。強引に殻付きの雛料理を食べたい人とかいるかもしれないし。


「馬鹿もーん。またエライ物を持ち込みおって。上に相談するから待ってろ」

「あのう、一応サンプルとして持ち帰ったのですが、まずかったでしょうか」

 合田が恐縮したように訊いている。


「いや悪くはないが、トレーラーで運んできたという事は収納できない、つまりその卵は生きているんだな」

「新鮮でピッチピチですよ~」


「いや、参ったな。とにかく上に訊く」

 ふふ、政府も孵化させたいなんて言うんじゃないだろうな。これが逃げ出して野生化したなんて言った日には!


 持ち込んだ俺達が責任取らされちゃうぜ。それに、卵は孵る時が、また厄介このうえない。うっかり目が合ったなんていったら、一生お母さん扱いにされる。


 あの図体で飼うのは非常に困難だ。でかいし、よく食うし、飛ぶし。おまけにブレスまで吐いちゃうんだからな。


 子供の送り迎えに使ったら最強だけどな。渋滞はないし。こいつが出ると、地上の人間も避難して皆いなくなるから、渋滞の緩和にも役立つかもしれない。


 ブツブツ言っている師団長に、明日の方針を報告してから解散した。俺はまた、なんだか気の抜けたような感じで電車を乗り継ぎ、家路に向かう。


 相変わらず、サリアは電車の窓から眺める景色に夢中だ。家路を辿る道のりは、この前の大立ち回りに比べて、実に平穏な旅だ。


 異世界では多少飛行魔物と遊んだくらいだったが、人間という生物の凶悪さに比べたら、そんなものはどうという事はない。


「ただいまー」

「ただいまー、お母さん」

 サリアも、もうすっかり、この家の子だな。


「おや、早いわね」

「ああ、明日は千葉さ」


「お昼ご飯、今作るから」

「うん、ありがとう」


「じゃあ、デパートの物産展で買った、生の喜多方ラーメンにしようかねー」

「やったー」


 珍しい献立に、思いっきりはしゃぐサリア。お袋と、そんな会話をしながら、明日のアレイラ行きについて考えていた。


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