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7-34 子供達と

 そして、まず子供達のところへ行った。今回は直接ヘリで行ってしまった。町の住人は、俺達だと知っているので、何も言わない。


 子供達にもわかるだろう。少なくとも、こんな変な飛行魔物はいないし。魔物なら、みんなが大騒ぎで駆けつけてくる。


 マイクで子供達を呼び出す。

『おーい、みんな出ておいで。今から降りるから』


 わらわらと飛び出してくる子供達。何か口々に叫んでいる。

『何あれ』


『ハジメのだよ。さっき、ハジメの声がしたもん』

『また、変なの持ってきた』


『煩いなあ』

『バリバリバリバリ』

 ファクラの力を持った俺には、全部丸聞こえだけど。


 そして、みんな一斉に叫んだ。

『お兄ちゃーん』


 相変わらず、見事なお兄ちゃんコールだった。まあ、俺の名前は、さっき少し出ていたしね。


『お前ら、危ないから、離れて見ててね』

 言われなくても、離れた場所から見ている子供達。風が凄いので、大変警戒している。


 手招きすると、さっそく近寄ってきて、機体とかぺたぺたしている。エンジンを切っても、ローターはまだ回っているので、子供が巻き込まれないようにテールローターには佐藤と池田がついている。


 こいつは最新の制御がされている機体なので、比較的エンジンの停止や始動は頻繁に出来るタイプだ。


 それでも、ヘリという乗り物の構造上、車のように稼動部が全て瞬時に停止するわけではない。そして、ネットでヘリの床に固定されている卵の群れを見せてやった。


『どうだ、これが、あのラドーの卵だぜ』

『ええっ?』

 ロミオは驚いたが、一番体格のいい、頭に熊耳らしきケモミミを搭載した子は涎を垂らして言った。


『これ、食ったら何人前かなあ』

 同じや、俺と同じや。親近感が沸くなあ。この世界で生きるなら、これくらい逞しくないと生き抜いてはいけない。


『残念でした。これはもう中で雛がだいぶ育っちゃってるから食べるのは無理だな』

 ちょっと残念なお知らせをくれてやったのだが、しかし子供たちの反応は、俺の予想を裏切った。


『え? 雛でも、美味しく食べられますが』

『だって、卵が肉に進化してるんだから凄いよ。これだけ大きいと、食べ応えがあるし』

『卵も捨て難いのよ~』


 なんて逞しい子供達なんだろう。さすがは探索者の遺児達だぜ。とりあえず、その涎は、なんとかしような。今日も子供達の勉強のために来ていて、一部始終を見ていたマリエールは、ちょっと呆れていたようだが。


『こいつはサンプルとして、持ち帰るから駄目だ。今日はこっちで泊まる予定だったけど、卵を持って帰るから帰るよ。その代わり、御昼はウルボスの残った肉があるから、お兄ちゃんの御飯にしようぜ』


 ウルボスと聞いて上がる歓声に、お兄ちゃんは嬉しそうに手を上げて応えた。


 お兄ちゃんの御飯が出来上がるまで、子供達はヘリの機内で固定された卵をペタペタしていたり、ヘッドセットで遊んだりしている。


 空手のお稽古もしたし、女の子は城戸さんから、色々教えてもらったりしていた。結構甘えてしまっているようだし。


 やっぱり、『お母さん』だぜ。すると間髪入れずに、くるっと城戸さんが、こちらを胡乱な目で見る。おっとっと。


 やがて、お兄ちゃんから集合がかかったので、全員が駆け足だ。パクついて一言。


『うめえ~、さすがはお兄ちゃんだあ』

『お兄ちゃんのご飯は最高~』


『頼むから、僕のお嫁さんになってください』

 途端に、そいつは女の子達からベシベシに叩かれてしまっている。


 よかったな、山崎。ここにも嫁候補はたくさんいたようだぞ。サリアは嫁候補に入っていないため、飯に熱中していた。


 肉ばかり食いたがる餓鬼どものために、山崎もたっぷりと野菜を入れてやったのだが、美味しく作られているため、みんな夢中で平らげていた。野菜は、本来、甘くて美味しいものが多いのだからな。


「ウルボス、最高~」

 サリアは日本語でその美味さを讃えていた。


 ウルボスって、他のダンジョンにも現われるのかね。どの道、貧乏旅行のサリア親子の口を歓ばす事にはならなかったのだろうが。


 最後には、鉄板でクレープを焼いて、パーティは締めとなった。眠くなったのを、歯磨きさせてから寝させる。どうしても寝てしまった子は、みんなで運んでやった。


「これから、どうするんだ?」

「後は帰るだけだろ? 卵の話があるから、早めに帰ろう。あの子達が解体をして、商売に行く時間までいたい」


「ああ、それでいいんじゃないか?」

「明日はアレイラか?」


「ああ、その予定だ。ビジネスの話もある。実はちょっと金のかかる装備を注文してあるんで、金もしっかりと稼いでおかないとな。一応、日本側に戻ったら杏にも声はかけておくが。一応、今回どうかは聞いておいた。明日帰るとは行ってあるんだ。明日中にアレイラに行く事は伝えてある」


「そうか。前に、あの子の事を雇いたいって言っていたけど、本気なのか?」

 もちろん、あの子というのは杏の事だ。


「ああ、ジェイク、エルリオット殿下次第だな。安全を確保できないなら連れていけない。さすがに自衛隊員を、俺の勝手で置おきっぱなしにしていくわけにはいかないからな。


 あそこは大国なんだ。地球で言えば、アメリカ政府の保護下にあるのと同じだ。あの騎士団が対応してくれるなら、よっぽどの事はない。場合によっては、うちの猫と鳥を派遣する事も考えてもいい」


「うーん、それくらいだったら、別で冒険者をつけておいた方がよくないか?」

「それも、考えのうちだ。そいつも、あの探索者王子次第だよ」

 それに、溜め息を吐いてから言った。


「今回みたいに、ビジネスが滞るのは困るんだ。グニガムが、あの調子だしな。取引は探索者ギルドとしかできていないのに、金ばっかりかかる予定だ。


 アレイラでの稼ぎを、あちらに注ぎ込む予定なんだ。あそこの金貨とかは使えるみたいだしね。それと装備にも圧倒的に金がかかるから」


「え、そんなに装備に金をかけているのか?」

「ああ。『尋常ではない戦闘装備』にな。とりあえず、今頼んである奴は一式四千億円でアメリカに発注してある。これでも、特別割引なんだぜ」


 みんな、顔を見合わせていた。

「なんだ、それは」

「四千……億円……?」


「まあ、あのドルクットと戦うのを基本とした兵器だからな。大体、ちょっとした兵器なら、それくらいはかかるだろうが」

 それを聞いて、皆も、なんとなく納得顔はしてくれたのだった。


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