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7-31 大空の女王その弐

『わあ、凄い凄い』

 風の音を通り越し、ファクラの力でサリアの興奮した声を拾う、選ばれし者イヤー。


 二人の子供を載せたファルクットは併走してくれているので、子供達は言葉でなく、お互いに笑顔で感想のやり取りをしている。


「興奮して落ちないようになあ」

 俺はぼそっと独り言で呟いた。それを聞きつけたパイロットさんが笑って教えてくれる。


『ははは。大丈夫ですよ。安全索をつけておりますし、ゆっくり飛んでいますから。ほら、ファルクット達もリラックスして飛んでいるでしょう。


 あの子を乗せている彼は副隊長で、凄腕です。腕だけなら、この隊随一でしょう。もう一人の子も隊長が乗せていますから。あの子は貴族の子なのでしょう?』


 竜騎士は、このように風を切って飛ぶ中でも会話ができるらしい。ファクラのような力を持つ者が多いのかもしれない。


 大空からの探索が飛竜隊にとって一番の重要任務のはずだ。衛星も航空機もないこの世界で、他国や軍勢が迫っていないかなどの情報は、安全保障に欠かせないものなのだろう。


『いや、しかし素晴らしい乗り心地だなあ。ああ、一匹向こうの世界に連れて帰りたい気分です』

『はっはっは。御土産にファルクットですか?』


『でもまあ、よしておきましょう。あまりに可愛いので、世界中が追い掛け回して、この子達がかわいそうだ』


 ちょっと想像してみた。マスコミがドローンやヘリで追い掛け回し、どたまに来たファルクットがブレスを吐きまくっているシーンを。


 うん、連れてっちゃ駄目だろうなあ。地球には礼儀知らずが多過ぎて、この高貴なファルクットが飛ぶのに相応しくない。それに大気汚染とかもあるし。ん? 騒がしいな。そう思って、そちらの空を見ると。


『うひょおー、ファルクット万歳』

『アレクシス! あんたって、もう最高~』


 大人気なく叫びまくっている駄目駄目な奴らがいた。ファクラの感覚にビンビン響いてくる。奴らが掴まっている手綱を引いている竜騎士様が苦笑しているのではないか。


 あのケモナー達め。まあ他のメンバーだって楽しんではいるのだが。節度を弁えろよ。川島に抱きつかれている方はまだ役得があろうというものだが。


 やがて、二時間あまりにも渡る飛行の後で、帰還しようとする飛竜隊。だが、そうさせない勢力もいたのだ。


『ええっ、もう帰っちゃうのー。御願い、もうちょっと、もうちょっと。もうちょっとだけー』

 すると、もう一人も途端に駄々を捏ねだした。


 都合のいいときだけ、念話を使い出すサリア。もう、すっかり日本語が板についている。少なくとも、言語学習能力に関しては、俺はこいつの足元にも及ばない。


『ね、ね、副隊長さん。あんな事を言ってますよ。ね』

 期待に瞳をキラキラさせて、ぶりぶりな態度で便乗して竜騎士を見上げているエルシアちゃん。


 仕方が無いので苦笑いをして、また王宮旋回に移るのだが、それから約三十分の間、彼らは降りてこなかった。


 サリアの渾身の『もうちょっとコール』に副隊長さんが根負けしたらしい。珍しい乗客の振る舞いに、ファルクット達も楽しげな鳴き声を、王都の空に響かせていた。


『ただいまー!』

 心ゆくまで大空の我儘散歩を堪能して、超上機嫌でファルクット・ポートへと帰還したサリア。


「まったく、お前と来た日には」

 呆れて、大空の我儘女王を出迎えてやったのだが、本人はちっとも堪えていない。


「えへへー、だってファルクットなんだよ」

「そうだよ、ファルクットなのよー!」

 日本語で援軍にやってきたエルシアちゃん。まあ、ステレオで小煩い事。


『はっはっは。御嬢様方には、ファルクットが大変お気に召したようですな。それでは、こちらへどうぞ』

 そして案内された場所には。


「ピー」

「キュアー」

「ヘプシっ」

 最後のは可愛らしいくしゃみだ。


 雛のところへ案内してくれたのだ。なんと三頭もいた。生まれて、まだ日が経っていないようで、それぞれの母竜のところに一緒にいた。


「産毛でむくむくじゃないですかあ」

「うっわあ、可愛くて悶死しそうだ」


 えーい、悶えるな、悶えるな。特に池田。まるで、バイクから降りた、こち亀の本田巡査のような有様だ。


「もう、お前ら。遊ばせてもらえばいいだろう。いいけど、子供達が優先だぜ」

 それから俺は母竜達に念話で話しかけた。


『すまないが、子供達やみんなと遊ばせてやってくれ。彼らは俺の仲間だ。俺はこういうものさ』

 そう言って俺は静かに聖魔法を放った。


 彼らは目を瞠ると、俺に恭しく礼をしてくれ、その嘴で自分の子供を軽く促がした。その様子を見て、目を瞠る竜騎士達。


 おそらくは、客人に対してファルクットがこのような態度を取る事は無いのだろう。もしかして、このファルクット達もまたエブルムのように何かの使命を帯びた種族なのかもしれない。


 くりくり、ふわふわした竜の雛達に、子供達は大喜びだ。

『可愛い、超可愛いよ、ファルクット』

『うわあん、可愛くて泣けてくるよ。憧れのファルクット』


 例によって物怖じしないファルクットの雛は、二人にすりすりと体を摺り寄せて三頭がかりで、もふもふ攻撃をしていた。


「いいなあ」

「羨ましい」

「はは。動物は子供が好きだからな。まあ、後で遊んでもらえよ」


 だが、そんな池田を後ろから咥えて引っ張る奴がいた。それは、おそらく前回俺達と遊んでくれただろう、あの子だ。一周り大きくなってしまったが、まだまだ可愛い雛である。


「お前は!」

「お、覚えていてくれたのか」

 池田と一緒に、たくさん遊んでもらったのを覚えていたのだろう。目で遊ぼうと誘っているようだった。


「よし、今日もまた遊ぼうな」

 そう言って、夢中でもふもふする池田。


「あ、ちょっと。私も混ぜて、御願い」

 負けじと混ざる川島。


 この二人、結婚したらいいカップルになりそうだ。家が動物だらけになってしまいそうだが。そして、夫婦喧嘩をやったら、絶対に池田が勝てないな。


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