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7-28 演習

 前の機体より高速化されている分だけ、若干王都に行くのにかかる時間は短縮できている。あと、機体の安定性はさすがに段違いだ。固定翼機の中型機と大型機ほどの差がある。


「はは、楽ちん、楽ちん。こいつの方が揺れないな」

「いいけど、魔物は警戒しておいてくれよ」

 お気楽な俺に、合田から、すかさずチェックが入る。


「わかってるさ。ファクラの力は使っているよ。山崎もレーダーを見てくれているし、大丈夫さ。できれば、この機体の戦闘機動は見ておきたいんだがな。小回りでは前の機体に叶わない気がするな。

動きが鈍重で落とされましたなんて、洒落にもならん。これも自衛隊で使っているが、人員輸送や物資輸送の面が強い。前の機体でもそうだといえば、そうなんだがな」


「まあ、そうだが。なんなら機動をテストする演習しながら行くか?」

 合田から提案があったが、それも、もっともな話だ。


「そうだな。おい、山崎。適当なところで、軽くテストしてくれ。いきなり飛行魔物に遭っても困るしな」

 ヘッドセットを通じて、山崎に指示を出した。


「わかった。それなら、何か射撃目標がある場所がいいよな」

「そうだな、あの右手に見える山なんかどうだ?」


「了解」

 テストのために少し寄り道する機体。乗客二人には伝えておく。


『ロンソン、エルシアちゃん。ちょっと魔物の襲撃を想定した訓練を一回やるから、少し寄り道するよ』


『演習、ですか』

 ロンソンは若干、首を傾げ気味に呟く。あまり、演習という言葉のイメージが伝わっていないかな?

俺達には、馴染み深すぎる言葉なのだが。


『ああ。よく飛行魔物に襲われるからな』

『普通、空なんか飛ばないものねー』


『少し、激しい動きをするから、座ったままでいてくれ。ドアを開けるから、ベルトは外したりしないでくれよ』

『はーい、見ててもいい?』


『ああ、そこから見えるかな?』

『前の席に移るー』


『あたしもー』

 すかさず、サリアもそれに便乗した。そして、彼女達の準備は整って、機体も目標に近づいていった。


「ドアを開けてくれ、合田、青山」

「あいよ」


 速度は落とされているが、飛行したまま開けられたドアを、席に座ったまま二人係で開ける。この機体はでかいので、ドアも大きい。


 今気がついた。俺は右利きだ。右側向きは、座ったままだと弓は打ちにくい。高速で高機動を行なうヘリの上でシートベルト無しはまずいな。


 ちょっとヘリの選定を失敗したか。今度、左で打つ練習もしておくか。あるいは、左側にスライドドアを装備した機体を用意するか。その方が確実だな。


 とりあえず、今日のところは12.7ミリ対物ライフルを出した。右利きの人間は、右へ照準をずらせないと、意外と撃ちにくいもんだ。やってみないとわからないもんだな。


『ちょっと、大きな音がするぞー。みんな、ヘッドセットをつけたままで頼む』

『ハーイ』


 エルシアちゃん達は、俺が使う銃をまだ見た事がない。音には慣れないだろう。山崎が、魔物に襲撃された事を前提にヘリをあれこれ動かしている。


 大型の輸送ヘリとかではないので、さほど鈍重には感じないが、特殊な作戦に仕様するような高機動専用のヘリや、戦闘ヘリなんかには遠く及ばない。


 要は、普通に民間でも使っている高速ジェットヘリなのだから。もちろん、軍用にも使う代物なので、それなりには動けるものだ。だから、こいつを選んだのだから。


「どうだい? 山崎」

「ああ、いけそうだな。こいつはパワーが凄いから。小回りは前のほど効かないが、パワーがそれを補ってくれる感じだ」


 なるほど、軽さで素晴らしい挙動をするのでなく、パワーで強引な機動が可能なのか。車で考えると、納得が行くかな。まあ、あまり魔物は近寄せないほうがいいかもなあ。


「わかった。じゃあ、目標を撃破する」

 俺の目標は、あの山の中腹にある、少し高い木の少し伸びすぎた感のある枝の先っぽだ。


 くいっと引き金を引き、突き出された銃身から吹き上がる轟音と硝煙の中、アローブーストの青白い光を帯びた弾丸が、かなりの速度で見事に目標に命中した。


 固定目標なので、当たっても当たり前だが、こちらは激しく動いているのだ。俺はにっこり笑って、さっきから握っていた手の平を開けて、中身をギャラリーに見せた。


『なあに、それ』

『弾丸さ。今、こいつを飛ばしたんだ。俺の能力で回収したのさ。変なところで、弾丸がとんでもないところに命中して、何かの被害が出てもいかんからな』

『へー』


 まだ熱い、変形した大口径のライフル弾を、手の中で転がして遊びながら不思議そうに見ているエルシアちゃん。


 地球でも、これが何なのか、見てもわからない人もいるだろう。興味の無い人は、弾薬の構造なんかわからないから、中にはから薬莢を含んだ弾薬自体が飛んでいくと思っている人もいるはずだ。


「さて、演習も終えた事だし、山崎、元のコースに」

 言いかけて、俺は黙った。山崎から声もかかる。レーダーにも映ったようだ。


「肇、お客さんだ」

「あっちゃあ、山のそばに来たから縄張りを荒らされたと思ったかな?」


「なんとなく、レーダーの反応から今までのと違うタイプの気がする。小さいな。いっぱいいるぜ。二十羽ってとこかな」

 小物のようで、山崎も鳥のように数えてしまっている。


「ああ、わかる。こいつは凶悪なタイプじゃないな。縄張りに踏み込んだ俺達が悪い。巣から離れれば、追ってこないんじゃないかな」

「じゃあ、ブーストは宜しく」


「OK。気流は安定しているか?」

「山に近い割には、通常とほぼ変わらない」


「じゃあ、やってくれ。二人共、ドアを閉めてくれ」

 ガラガラピシャンっと、さっきとは逆の連携で、ドアは阿吽の呼吸で閉じられた。


『あれえ、どうしたのー。さっきから、日本語で話してばかりだよね。魔物出た?』

『ああ、逃走する』


『ええっ、魔物をやっつけないの?』

『ああ。奴らの巣に入り込んだ侵入者は俺達の方だからな。御免なさいがなくて悪いが、このままトンズラだな』


『ふうん。ハジメは本当に変わっているわねー』

『ほっとけ!』


 そこから、グラヴァスまでに行なったテストのように、ぐいぐいと加速していく。追いかけていた魔物達はすぐに諦めて戻っていった。


 合田は、サンプルが欲しかったようで、いじましく後方を見詰めていた。


「そんな顔をするなよ。俺達があいつらの巣に入り込んだ不埒物なんだからさ。殺さずに振り切れるなら、その方がいい」

「まあ、そうなんだけどなあ」


「まあ、そんなに凶悪そうな奴じゃあなかったしさ」

「そうそう。また、否応なく凶悪なのと、ご対面になるさ」

 青山もそう言って宥めた。


 そんな合田先生の未練を残して、俺達は通常の王都への飛行コースへと戻り、通常速度で巡航していった。目標、ファルクット!


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