7-27 エルシアちゃん、王都へ行く
下では、ゴルディス辺境伯自らが待ってくれていた。エルシアちゃんも一緒だ。
『おお来たか。なかなか下に降りてこないので、心配したぞ。今日のヘリは大きいので、この場所に降りるのが難しいのかと思ってのう』
『いやあ』
俺は笑って頭をかいた。すると、サリアが言った。
『あたし、サリア。グラヴァス、凄いっ。クヌード、田舎。空から見ると、グラヴァスはとっても素敵!』
その満面の笑顔を見て、辺境伯もなんとなく事情を察したようだった。
『そうか、そうか。ありがとうよ、サリア。して、肇よ。その子は誰なのじゃ?』
俺はそっとサリアをそっと引き寄せてから頭を軽く抱いてやって。
『この子は俺を捜していた巫女の娘。サリアという、神殿用語で巫女を表す名を持った。俺を一目見て、【選ばれし者】と呼んだ、運命が俺と引き合わせた子です』
それを聞いた辺境伯は、少し眉を気持ち曇らせた。それはよく見ていなかったら、見逃してしまったかもしれない程度のものであったのだが。他にも仲間の中で何人か、それに気付いた者がいたようだった。
『おお……そうであったか』
辺境伯も、俺と同じくサリアに何かを感じ取ったようだった。
その様子から見て、あまりいい物を感じたのではなさそうだった。何か巫女について知っているのだろうか?
『とりあえず、今日はビジネスという事できましたので、よろしくお願いいたします』
『おお、任せておけ。前回の分も溜まっておるでのう』
「ねえ、肇。今回は王都まで行くの~?」
エルシアちゃんが、ぶりぶりな様子でサリアとは逆側に回り、俺の手を取った。
「ああ。その予定だ。一緒に行きたいのかな?」
「行きたいっ」
彼女は、絶対についていくという固い決意を瞳に宿して叫んだ。
『そっか、そっか。どうでしょう、辺境伯。今回はそう忙しい旅ではないので、サリアにファルクットを見せてやろうと思っていまして。エルシアちゃんも一緒にどうかなと』
それを聞いて、物凄い物理的な圧力を伴った視線で、じーっとゴルディス辺境伯を見詰めるエルシアちゃん。さすがに苦笑しながらも、許可をくれる辺境伯。
『ああ、わかった、わかった。ハジメ達と一緒なのだからな。行ってきて良いぞ』
『わあ、叔父様。ありがとう~』
エルシアちゃんは、辺境伯に抱きついて、感謝と喜びを露にした。
『きちんと両親の許可は取っていくのだぞ』
『もう取ってありまーす』
手回しのいい事だ。ずっと行きたがっていたんだものな。
『それでは、辺境伯。ビジネスを』
『わかった。ついてまいれ』
ビジネスも無事に終了し、今日はお泊まりでゆっくりしながら、エルシアちゃんも王都にお出掛けなので、あれこれと仕度にたっぷり時間をかけていた。
翌日、まだ早朝から俺達は出発した。
『では、いってきます』
『ああ、気をつけてな』
辺境伯も見送りにきてくれている。
『エルシア、あまりはしゃぐのではありませんよ。まだ危なかったりするのですから』
『ハジメ、娘を頼んだよ』
『大丈夫。任せてください』
ジェルマン伯夫妻にも見送られて、俺達は新型機体で大空へ駆け上っていった。新しいヘリで来たので、屋敷の人も大勢見物がてら見送ってくれた。
『ハジメ様。王都まで、どのくらいで着きますでしょうか』
今日は、俺達と親しいゴルディス辺境伯家の若い執事ロンソンが、エルシアちゃんの御伴だ。
叔母さんがついてきてくれたらいいのだが、彼女も危険を考慮して残ったようだ。あの人も貴婦人なので、切った張ったはちょっと苦手だろうな。
最初の時の襲撃事件で震え上がっていたようだ。エルシアちゃんも襲撃で怪我をしていたが、それは俺が治したし、何よりもエルクットがお目当てなのだから。まあ、うちには女性も二人いるのでお世話には困らない。
『そうだなあ。おやつ時を過ぎる頃には、王宮に着陸できるんじゃないか? もっと早く行く事もできるが、そこまでする状況ではないのでな』
『早く行こうとすると、何か都合が悪いのですか?』
ロンソンは不思議そうな顔をする。
『あはは。そうだな。この機体は通常でも、ちょっとした飛行魔物よりもスピードが出る。システムがそのくらいに合わせて作られているからね。魔法でブーストしちまうと、そいつがまともに機能しないから、パイロットに負担がかかるんだ。まあ急ぐ理由が無いんなら通常運行さ』
『そんなものなのですか』
『ああ、そんなもんだ。というわけで、お前ら。おやつは機内でな。あと、ひょっとすると、王様とランチになるかもしれないから。おやつも、ほどほどにな』
「はーい」
それを聞いて、エルシアちゃんが考え込む。
「へ、陛下とランチかあ」
「気さくな人だぞ」
「肇ったら。この子は貴族のお嬢さんなんだから、そりゃ気を使うわよ。あんたと違うんだから」
「そりゃあまあ、そうだ」
「別にいいよ。エルクットと遊ぶためだもの!」
この子も、なかなかブレない精神の持ち主のようだった。




