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7-26 新機体推参

 クヌードでの用件は一当たり済ませたので、本日はグラヴァスへと向かった。今日からはヘリを機種転換する。乗員二名に加え、乗客が三十人乗れる代物だ。


 もう山崎も操縦に完全に慣れたので大丈夫だった。いつもと違う、だだっぴろい機内の中で、ちょっと落ち着かない感じだ。俺達はハムスターか何かか!


「かなり時間をかけて機種転換するんだな」


「当たり前だよ。車とは違うんだ。今までの機体は小型だったから機種免許はいらないけれど、このクラスになると必要になるんだからな。


 ジェット戦闘機ほどの厳しさじゃあないと思うけど。ヘリだって戦闘ヘリともなれば、きっとこのくらいじゃ済まないさ」


 今のところ、戦闘装備を備えたヘリの出番はない。ヘリはもっぱら移動のために使われるだけだし、空中戦闘や、移動中に地上へ降下しての戦闘が必要なら俺が降りる。


 背負えるジェット装備も使えるし、ヘリからのパラシュート降下の訓練も受けた。あれは、ちょっとドキドキするけどな。


 俺は空挺の人間じゃないんだから。万が一にも、パラシュートが開かなかった場合、イージスや身体強化で生き残れるだろうか?


 俺の体は、元々かなり頑丈になっているみたいだが。さすがにテストしてみる気にはなれないな。


 今度の機体は凄い。前の機体は警視庁のSATでも使っていた奴だが、今度の機体は自衛隊でも使っている奴だ。


 巡航速度で、前の機体の最高速度に匹敵する速度で飛べ、最高時速は時速三百十kmにも及ぶ。二千馬力以上のハイパワーエンジンを三機積み、文字通り桁違いのパワーを振るう。


 こいつは改造品で、貨物機でもないのに右側がスライドドアになっており、俺が空中戦闘できる仕様になっている。


 そうでなくては、この世界の空を飛ぶことなどできない。戦闘機隊か、攻撃ヘリの支援が必要となってしまう。もちろん、そのような物は持ち込めやしないのだが。


「肇、ブーストのテストをしたい。まず時速四百kmまで合わせてくれ」

「了解」


 ヘリコプターには『超過禁止速度』というものがあるらしい。素人の俺にはよくわからないものだが、多分それを越すと、機体の安定が保てなくて落ちる危険がある速度なのだろう。


 この機体は三百十kmまでらしい。それをファストの支援魔法で速度ブーストをかけて確認しようというわけだ。


 前の機体では、恐ろしい事に亜音速というか、時速九百km越えまで試した。それはもう小型ビジネスジェットの最大限界速度に限りなく近い世界かもしれない。


 日本で通常使われているタイプの、小型ジェットの機体はマッハ0・77がそうだ。時速950.796km。山崎がビビったので、それで止めたが。


 何しろメーター振り切って警告灯が真っ赤について、アラームも鳴りっぱなしなのに、お構い無しにヘリは安定を保ちながら、猛速で飛んでいるのだ。


 普通に地球でヘリを飛ばしているパイロットなら、誰でも恐怖を感じるレベルだろう。速度は固定翼機についている速度計を取り付けて測っているくらいだ。


「じゃあ、行くぞ。敵影はねえな?」

「ああ、始めてくれ」

 そして、俺は機体にファストの魔法をかけていく。


「三百三十……三百五十……三百七十……三百九十……よし、四百」

 そこでピタっと止める。


 最初の頃は慣れなくて安定した速度が出せなかったのだが、最近はなれたもので、なんとなく感覚でいいところまで持っていける。あとは山崎と調整しながらだ。


「うん、大丈夫だ。安定している。このまま、時速百km刻みでテストする。そうだな、今日は……時速千kmに挑戦してみるか」


「お、チャレンジャーだね。まあ、せっかくこの高速機で行くんだ。頑張ろうぜ」


 それから、百kmずつ試していき、最後には無事に時速千kmに到達し、我々はヘリコプターの世界最高速度を見事に更新した。


 大気の抵抗とかは地球と同じなので、同じような速度は出るだろう。いつか航空ショーとかで御披露したいもんだ。俺と山崎のコンビでないと恐ろしくて出来ないがな。


「おめでとう、乗客諸君。『時速千kmクラブ』へようこそ」


 山崎からホッとしたような声の挨拶があり、キャビンでは機長への惜しみない拍手が盛大に送られた。サリアもよくわからないなりに、一緒に手を叩いて山崎を讃えている。


「よし、これでいざという時にも、なんとかブーストできそうだな。ノーマルな巡航速度に戻すぞ」


 そう。また何かがあって、尻に帆かけて逃げ出さないといけなくなった時に備えての、さっそくの『魔法飛行訓練』だったのだ。さすがの自衛隊でも、こいつはやらないよな。


 そして、速度テストをやっていたため、いつもよりも早くグラヴァスに到着した。


「肇、ここのヘリポートに収まるかな、これ」

 合田がまた細かい事の心配をしていたが、俺は笑い飛ばして肩をどやしつけておいた。


「大丈夫さ。ここのヘリポートは、この機体で運用できるサイズで整備してもらってある。王都の方もな。こいつは元々艦載機としても使えるようにコンパクトに作られている。羽根や尻尾も畳める仕様もあるんだ。


 大型になって胴体はずんぐりだが、全長は九メートル長いだけだ。最初に行った時に、着陸スペースは測っておいたんだし」


「そうか。準備がいいな」

「優秀な機長さんに全てお任せさ」


 ヘリは通いなれたグラヴァス城塞へとやってきて、すぐには着陸せずにその周りを旋回した。グラヴァスが初めての乗客、しかもヘリからの眺めには目のない奴が約一名いるからだ。


「ほおおー」

 そして旋回しながら角度を変えて飛んでくれるので、また感嘆の声を上げる。


「おおー」

 手を壁についたまま、窓に張り付いて動かない。しばらく旋回していたが、山崎が聞いてくる。


「サリアちゃん。もういいかな?」

「山崎、もちょっと。もうちょっとだけ~」

 やれやれ、サリアのもうちょっとは長いからな。


「了解っ!」

 それから六周くらいしてから、いつもよりかなり大柄の機体を、山崎はゆっくりと着陸させていった。


 サリアがもう少し飛んで欲しそうな顔をしていたが、今日は我儘を言わせない。そろそろ、なかなか降りてこない俺達を、ゴルディス辺境伯が不審がっている頃ではないのだろうか。


 少なくとも、この世界に俺達以外にヘリを持っている人間はいないので、敵と間違われている事だけはないのだが。


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