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7-25 異世界の中毒患者達

「やあ、ラーニャ。今日は9人で3部屋頼むよ」

『わかったわ、それじゃあ鍵よ』


 いつもの宿で、もう相場がわかっているので言われなくても代金はピッタリ払える。値段はそう無闇に変動しないようだった。今回は、明日グラヴァスへ移動するので一泊だ。


「ラーニャ、これ御土産」

『まあ、それ何かしら?』


「こうやって遊ぶのさ」

 やり方を見せてやったら、一体それの何が面白いのかと首を捻るラーニャ。


 この子は少し醒めたところがある子だからな。だが弄り回して遊んでいるうちに、見事にまたこの世界にハンドスピナー信者が一人誕生した。ラーニャの場合、よく受付業務をしているので余計に嵌まるよな。


『お姉ちゃん、何をやっているの?』


 俺達の声を聞きつけてきたメイリーが、妙な物体に夢中な姉を不思議そうに見ていたが、彼女もうっかりと手を出してその虜囚と成り果てた。特にメイリーはまだ子供だしな。


「あー、いやお前ら。ほどほどにね」

 夢中であれこれと色々なハンドスピナーを弄り回している二人を尻目に、俺達はマサへと移動した。


「マサさん、どうも。久し振りです」

「おお、来てくれたか。実はビールの在庫がかなり減ってなあ」


「マジっすか」

 確かに間は開けてしまったのだが。探索者どもめ、ちょっと飲みすぎだぜ。


 それから、あれこれとマサで補給を済ませ、今回の予定について話した。


「結局、あの静岡の第15ダンジョン。あそこを何とかしないと、他の新ダンジョンまではなかなか手が出なくて。不明者の数が多いですしね。


 政府としても、まず三大ダンジョンをなんとかしてほしい意向で。それだけで7割に達するので無理も無いのですけどね。また一回行ったダンジョンはコンプリートしない限りは定期巡回しないといけませんし」


「そうか、それは難儀な事だね」

「せめて近場で19・20といった愛知県内のダンジョンでも視察に行きたいと思っているのですが。土日に一人で攻めて、自分がまたオーバーワークになってしまっても困りますので」


「まあまあ、そう焦らないのよ。焦っても、この星丸ごとに渡ってダンジョンは広がっているんでしょう。無理は良くないわ。それにしても不思議だよね。そんなに広い範囲に渡っているダンジョンなのに、地球では日本に集中しているなんてね」


「俺も、それが不思議で堪らないんですけどね」

 それから、しばらく街へ出て土産物を物色した。ここの迷宮宝石も需要はあるので集めていかないと。


 上客で、各都市別のコレクターがいるのだ。なるべく今まで集めていない種類を探して帰るのも重要な作業だ。


 他の連中も付き合って一緒に探してくれる。この現地での自衛隊の活動を支える重要な資金源でもあるのだ。


 何故か人気の無いようなガラクタ土産をサリアが無闇に欲しがった。そのはしゃぎっぷりが尋常でないので思わず訳を聞いてみた。


「こんな物がそんなに嬉しいのかい?」


『こういうの、あまり買ってもらった事が無いから楽しいの~。お母さんと一緒に旅をしていた頃は、お金もいつもギリギリだったから、こういうの買ってもらえなかったの』


 そうだったのか。その気持ち、わからんでもないがなあ。まあいいんだけど、こいつは収納を持っていないからな。


 うちでサリアの部屋に飾っておくか。ちなみに俺のガラクタ・コレクションは全て綺麗に標本箱に入れて飾り、収納に仕舞ってある。うちに置いておくとお袋が煩いからなあ。


 そうこうするうちに夕方になったので宿に戻り、マサへ行くのでメイリーも連れていっていいかラーニャに聞いてみたら、ハンドスピナーのせいで機嫌がいいのか、あっさりとお許しが出た。どうせ今日だけの事と割り切っているのだろう。


『やったあ、ハジメありがとう』

 歩きで行くのでお兄ちゃんの腕にべったりとしがみつきながら、鼻歌のメイリー。


 夕暮れのダンジョンの街。知らずに来たら、ここが異世界なんだと信じられないような、異国情緒に溢れた繁華街の雑踏。


 外国でタイムスリップしたといったほうが近いのかもしれない。魔道具は色々あるので、それも少し趣が違うのだが。


 少し高級な店だと魔道具の明かりがついていて、そうでないカンテラのような物で照らしている店など雰囲気を出すためにやっているといわれれば地球とそう変わらないかもしれない。


 だが、その街の作りや店の建物、ドアなど見ていれば不思議な趣が感じられる。ここは、やはり異世界なのだ。


 そんな感慨を感じて歩いていたら、何時の間にか御馴染みのマサの看板に出会った。

『よお、ハジメ~』


 もう既に生中を何杯もやっていそうな陽気なダンジョン警備のアラン隊長から声がかかる。


「おー、アラン。そうだ、お前もこれやってみろよ」

 そう言ってハンドスピナーを手渡した。思いっきりメカニカルでシャープな、アルミ削り出しのようなデザインの奴だ。


『なんだい、こりゃあ』

 不思議そうに摘まんでいたが、俺は手本を見せた。


「そうじゃない。こうするのさ」

 指の間に挟んでピーンと回したそれを見て、思わず目が吸い寄せられてしまっているようだ。


『こ、こうか?』

 見様見まねで、おっかなびっくりな感じに回すアラン。


『ほお』

 何か不思議な面持ちで、自分の指の間で回るそれを見詰める彼は、回り終わった後もまた回していた。それを見ていた顔馴染みの冒険者が声をかけてくる。


『なんだ、アラン。今頃それに嵌まっているのか? 冒険者ギルドじゃもうそいつの話題一色だぜ』

 そこまで嵌まっていたのか。


『あー、スズキ。ここにいたのねー。それ手に入れられなくってさー。出遅れたわ~。まだ持っていたらちょうだい!』


 どうやら、そのためだけにわざわざ俺を探していたらしい狼耳娘のミランダに、両肩を持って激しく揺すぶられた。


「わかった、わかったから、その手を離せ~」

 こいつ、妙に力が強いんだよな。さすがは獣人だけの事はある。


 他にも欲しがる奴がいたので、ここでもハンドスピナーの配布会を行い、正さんにも大量に預けておくことにした。ケモミミ・ウエイトレス軍団も、もれなく中毒患者になってしまったようだ。


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