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7-24 流行り物

「サリアもクヌードは初めてなんだろう?」

「うん、あの大陸からは出た事がないよ。世界は広いの」


「まあ、徒歩と馬車の組み合わせだから無理もないよな」

 俺は今日の当番らしきアランに手を上げて挨拶しおえて、サリアと会話していた。そして言いやがった。


「クヌード、田舎」

 子供は、はっきりと言っちゃうね~。


 まああの大都市グニガムから来たのではな。俺の考えが間違っていなければ、あそこがこの世界で第2の都市だろう。正確にはグニガムではなく首都アマラの方の話だが。


「サリア、田舎には田舎のいいところがあるんだぜ?」

「どんな?」


「ゴミゴミしてないし、物価も安いし、土地も安くて空気も綺麗だ。東京の都心で一戸建てなんか高くて住めないぞ。何を隠そう、まさに愛知県がそうなのさ。自動車産業が多いから、車だけは多いけど燃費のいいハイブリッドカーの世界的な特産地だしな」


 何しろ平地が少なくて、ちょっと奥に行くと山ばっかりだからな。特に豊田市なんて、大きな街の割に全体を見るとほぼ山しかない。


 日本一の大企業トヨタ自動車があるから、みんなあまりそう思わないらしいが。税収が凄いから周りの村なんかも次々合併したので、あの街は全体で見るとよけいに田舎になってしまった。今までただの田舎だった所は、豊田と一緒になったので道が良くなったと喜んでいたけど。


「名古屋、田舎? ええ!? 肇の家って田舎!?」

「ああ、そうだ。そのうちこの国の首都・東京に連れていってやるから」


 パッと見に、この子から見れば珍しい世界で、ビビるほどの大都会に見えるのかもしれないが、まあハッキリ言って田舎だよな。


「大いなる田舎」ではあるのだが。あれでも東海四県の人から見れば、愛知県の中心部である名古屋は、周辺で一番の都会だからな。まあ一通りは色々揃っているし。


 お陰で借金の金額も随一なのさ。名古屋市民ではないけど、俺も給料や株の分以外の税金とか払っていないし。その代わり、異世界での活動は全部自腹なのだ。


「東京、東京……」

 何かブツブツ言っているサリア。


「とりあえず、あの子達のところへ行こうぜ」

 池田の指示によって、佐藤が解体所を目指してくれた。


 確かにこのクヌードは規模の割に寂れている感じだ。マルシェとアレイラを見てそう思ったし。日本じゃ三大ダンジョンの一つであるのにな。


 まあ名古屋だって田舎なのだから、丁度いい組み合わせといやあ、それまでなのだが。それを言ってしまったら静岡にグニガムというのがアレな訳で。


 本来であるならば、このクヌードに王都があって然るべしと思うのであるが。


 今日は人数が9人に増えたので、ハイエース・コミューターを使っている。荒地をゆくのであれば、高機動車で行かざるを得ないだろうか。


 もう少しいい車種を持ってこないといけないかもしれない。手慣れた感じで解体場に乗り付けて軽くホーンを鳴らす佐藤。


 一瞬の間を置いて駆け出してくる子供達。今日も朝からマリエールの授業があったようだ。


『あれえ、今日は違う車なの~』

「やあ、ロミオ。人が増えちゃったからね」

 言われてサリアに注目する子供達。


『だれ?』

 皆、小首を傾げる様子が可愛らしい。


「サリア」

 にっこりと日本語的なイントネーションで答えるサリア。


 サリアは、このあたりの言葉は喋れないので、難しい言葉は念話でするしかない。この子も言語習得力は非常に高い。ここの言葉もすぐに覚えてしまうのではないか。


『ふうん、マリエールお姉ちゃんと同じくらいかな』

「何歳かってさ」


「十二だよ」

 日本語で言ったが「十二」という数はわかるので頷く子供達。


『あれ、その子はどこの子?』

「ああ、マリエール。この子は遠い大陸から来た子さ。ちょっと訳ありでね」


『そんな子がまたなんでここにいるの?』

「ああ、この世界では距離が離れているダンジョンでも、日本ではヘリでほんの一時間ほどでいけたりするのさ」


『何、それ~。そんな話聞いた事が無いわよー』

「そんな事は俺だって知らんよ」

 理由を知っていたら教えて欲しいくらいだわ。本当に何なんだろうな。


 今回は子供達への御土産として、ハンドスピナーを持ち込んできた。指で回すだけだから電池とかいらないしな。


 子供用に小さなタイプを大量に持ち込んだ。もちろん大人用にも持ってきてある。あの王様への献上品だ。あの人ヘリが好きだから、こういうの気に入るだろうと思って。


「何これ、面白い~」

 マリエールも回すのに夢中だ。サリアも実はずっと嵌まっているのだ。マサの冒険者達にもウケるかな~。


 それからまた空手のお稽古なんかもやって、お昼ご飯を食べてからギルドに顔出しした。今日のご飯は、お兄ちゃんの特製カレーだ。


 サリアがあんまりもりもり食べるので、他の子もえらく頑張った。そんな事になるだろうと思って大量に作ってやったのだ。


 駐屯地祭の自衛隊カレーみたいに綺麗に無くなったけど。あれも販売する時に掛け声かけながら在庫の確認もしつつやっている場合とかあって、なんだかなと思う事もある。


 子供達がお昼寝に入ったので、俺達はマリエールも連れてギルドに向かった。あの子を入れてこの車は丁度定員だな。やっぱり、もう少しゆったりした車がいいが、大きいのと不整地を走るのがな。


「あれから日本人は見つかってないかい」

『うん、見つかってないよ。あれは酷い有様だったね』


 確かにああいうのはキツイが、それでも救出できたのは僥倖だった。あれが犠牲になった後なのだったら、俺達が精神的に死亡している。


 スプラッターなのにはだいぶ慣れたが、それでも生贄に使われたバラバラ死体となった遺体の回収とか考えたくない。本当は遺族にだって引き渡したくない気持ちがある。


 無残な骸となった被害者を遺族確認してもらうのが、あまりにも切ない。しかし、それでも人知れず異世界の土となるよりも、たとえ遺体と成り果てても家に帰ってきてほしいと家族は願うだろう。


 ギルドについてスクードに挨拶して、御土産のハンドスピナーを渡してやったら、最初は不思議そうな顔をして弄くり回していた。


 何かの役に立てる物じゃないから、そりゃあ不思議だろう。使い方を教えてやったら少し首を傾げながら弄っていたが、何か不思議な魅力があったらしく、熱中していて娘のマリエールに笑われている。


『こ、こりゃあ、面白いな』

『お父さん、嵌まり過ぎ~』


 いつもパリっとしているスクードにしては珍しい表情だ。やっぱり街やギルドの管理者なんてやっているとストレスが溜まるものなのかねえ。


 このハンドスピナーはストレス解消にいいらしい。そして、そのブームはギルマスをその頂点としてギルド全般に波及していき、俺は実に数十種類のハンドスピナーを冒険者や職員達に千個は配りまくったのだった。


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