7-23 子連れ異世界行
夜は多国籍風の創作和食だった。相変わらずサリアがパクパク食べていた。確かに美味かった。NYとかで流行のスタイルらしい。
美希ちゃんが御飯を食べたらもう帰るので、淳も一緒に帰って送っていった。空港までお母さんが迎えにきてくれるそうで、淳も送ってもらう事にした。
俺達はトップデッキのソファに座って星を見ていた。最低限の明かりはつけておかないと海難事故になるのであれだが、周りが暗いので星はよく見えた。
「ねえ、お兄ちゃん。異世界の空ってどうなの。日本と同じ?」
「いや、それがまったく違うんだ。天体の配置がまるで違うんで戸惑っているよ。どうなっているんだか。データを科学者が調べているみたいなんだが。まったく全てが異なる世界なのか、それともあの世界が宇宙の果てにあるのか」
「この宇宙のどこかの星に繋がっているって事?」
不思議そうな顔の亜理紗。俺だって不思議さ。
「いやわからん。空気の組成や重力波地球と変わらないようだからな。異世界の地球なのかもしれない。あるいは異世界の宇宙の彼方か。大陸の分布は違うしね。
でも海の成分も多分同じなんじゃないかな。人間など同じような生物がいる。まだ採集出来ていないのも多いけれど」
人間なんかの血の成分は、海に酷似しているという。多分そういう事なんだろうな。
「不思議ねえ」
「まったくだ。この俺がなんで異世界なんてとこに行く羽目になったものか」
「他の人は行けないのにね」
だが、サリアが突然立ち上がって言った。
「ハジメは選ばれし者。いつか使命を果たすの。だからサリアはその時まで、ずっとハジメと一緒にいる」
「そうか。では、そうしておくれ」
俺も立ち上がってサリアの頭をそっと撫ぜた。
いつになく真剣なサリアの表情に、俺達の宿命を感じた。宿命は俺達のような卑小な個人には簡単にどうする事もできない物。だが運命を切り開く事はできるだろう。
翌日、船は港に入港した。本日は豪華客船とかの入港が無いので、うちの船が堂々と真正面の特等席を占領している。観光客が、うちの船の写真を撮ったりしている。昼ご飯を食べてから、俺とサリアは観覧車に向かった。
「観覧車~」
もうサリアは大はしゃぎだ。何回乗るつもりなんだろうな。日曜日なので、それなりの人がいる。水族館に行くついでに乗るのだ。
そして案の定、サリアは1回では済まなかった。
「見晴らしいい~」
窓に張り付くような感じで、もうべったりだ。今度、富士山登山とかに連れていてやったらいいかもな。
「楽しいか、サリア」
「うん!」
「そうか」
きっと、このままでは終わらない。今はそれでいい。亜理紗がサリアの頭を抱いて、港から目線が届く景色の解説をやっていた。
こういうのは覚えがあるな。子供の頃に少し年上の従姉妹がそうやってくれていた。俺は心が温かくなるのを感じ、笑みを隠しきれずに、遠く異世界の愛すべき人達へと思いを馳せた。
そして、月曜日。俺は彼らと再び行動を共にした。
「よっ!」
「よお~」
俺の気軽な、これから飲みに行こうぜとでもいうような挨拶に連中も同じような軽めの挨拶を返してくる。もはや異世界はそれくらいに気軽に行く場所に成り果ててしまった。
サリアは子供向けの、米軍経由で入手した迷彩服の上下に身を包み、見様見真似の敬礼をした。まったく様になっていなかったが、居合わせる人々の顔に笑顔を浮かばせた。
「では行ってまいります。何か不明者の方の手掛かりが見つかっていればいいんですが」
「ああ、そうだな。気をつけていってこい」
いつものように送り出してくれる師団長。全員で並んで敬礼して出発した。今日はクヌード、というか王都まで行く予定だ。
この前の時に王都まで行けなかったからな。重要な協力者である国王陛下やマーリン師匠にも顔繋ぎしておかないと。また少しもくろみもあったのだ。
「さあ、今日はクヌードだ。あれこれと一応は一区切りついているし、グニガムへはまだ行けないからなあ」
「そうだなあ」
助手席でにやにやしている池田。まあ、その気持ちはわかるんだけどな。仕事中だぜ~。
「それにしても、三大ダンジョンの中で、なんでクヌードだけがあんなに他都市から離れているんだろうな。アレイラにしろグニガムにしろ、首都と同じ場所にあるのになあ」
山崎はボヤいた。まあヘリの運転をするのはこいつなので。しょっちゅう飛行魔物に襲われているのだし。
「おそらくはダンジョンが特別なものであり、それを守るというか監視するとかの思惑でそうなっているんじゃないか。あるいは、そこからの利益を見込んで。他のダンジョンはどうなんだろうな」
合田も仮説を立てているが、はっきりした事はわからない。王都に行ったら王様にでも聞いてみるか。
「あるいは、ダンジョンの脅威を食い止めるためにあるとか?」
「それだと砦の方がいいんじゃないのか?」
青山と山崎も意見を交わしていたが、実際のところはどうなのだろうな。あの世界なら如何にもありそうな話ではあるのだが。
「だが、あのエルスカイムの王太子様とか見る限りは、まるで王族にはダンジョンで魔物を討伐する義務があるとでもいった趣だぜ。マルシェの王様はのんびりとしたものだけどなあ」
佐藤も運転しながら軽く口を挟んだ。
「まあ、その辺の話も取材してみようぜ。何かダンジョンの秘密というか、そういう話が聞けるかもしれない。よく考えたら、俺達もダンジョンなんてものについての知識は殆ど無いも同然だ」
前方にダンジョンが見えてきたので、話は俺が締めておいた。サリアは初めて目にするこの第21ダンジョンの、こちら側への侵食ダンジョンの景色に夢中になっていた。
日頃、応援ありがとうございます。ダンジョンクライシス日本、早川書房様にて書籍化されます。
来年、ハヤカワ文庫JAから、この作品が刊行されることになりました。詳細が決まりましたら、またあらためてお知らせします。
記念に新作投入です。
「闇切り鈴鹿 妖し捕り物帳」
妖しと書いて、あやかしと読んでください。
https://ncode.syosetu.com/n0226fc/
割とダンジョンクライシス日本と似たような、あまりなろう的では無いスタイルで書かれていますので、ダンジョンクライシス日本同様、読む人を選ぶかもしれませんが。
「鈴鹿峠には鬼(盗賊)が出る」
それはいつしか物語となり、主人公はヒロインとなり、おそらくは1000年近くもの間書かれ、読まれてきただろう鈴鹿御前の物語。
基本的な構成は古典に準じましたが、それ以外は完全オリジナルの鈴鹿御前です。宜しければ、ご賞味ください。ACT1(本一冊分)は第一章から第三章で14万7000字ほど、55話からなります。
ACT2が第四章と第五章までで、ここまでが主要登場人物の紹介のようなお話となります。
ACT2までは、毎日更新を予定しております。
今現在、5-2まで既に書かれていますので、ACT2まで更新は途切れないと思うのですが。
「おっさんのリメイク冒険日記」
書籍4巻 コミックス1巻、好評発売中です。




