7-19 船へ
「おはようございまーす」
今日も元気に美希ちゃんがご挨拶してくれる。
「美希ちゃん、本当にいい子だね」
「えー、なんですかお兄さん。いきなり~」
俺はこそっと耳打ちした。
「うちの淳、もらってやってくれよ」
彼女は耳まで真っ赤になって、バタバタした。
「えーっ、何を言っているんですかー。それって逆じゃないですかあ」
いや、結構本気なんだけどね。そして、俺は全員に向かって言った。
「よっし、海行くぞー!」
「おーー!!」
勇ましく腕を振り上げるのはサリアだ。他の奴等は笑っている。
「うっみ、うみ、うっみー!」
はしゃいでる、はしゃいでる。小学生か! いや、小学生の歳だったわ。
「今日はそのまま車で行くからなー」
「くるまー」
「よしよし」
もう、サリアが完全にリアクション係になっているな。さっそく乗り込んで出発した。
「サリアちゃん、ハイチュー、食べるー?」
「ありがとー、美希ー」
もう仲良くなったようだ。バックミラーで2人を見て和む。ああ、このまま、この2人を姉妹みたいに楽しく暮らさせてやれたら。
美希ちゃんがお嫁に来て、サリアを両親の養女に。そんな風に出来たら、どんなにかいいだろう。いや、よそう。そんな希望は決して叶わないだろう。
サリアは、自分が巫女だと。特別な者なのだ。俺を選ばれし者だとわかるのだと言った。だから付いてきたのだ。この異世界、日本にまで。
だが、今だけは。先はどうなるかわからないが今だけは。この俺達が紡ぐ物語は決して平穏な結末で終わりそうにはない気がする。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
気がつくと、助手席の亜理紗が真剣な顔で俺を見ていた。
「何、そんな怖い顔をしてるの?」
「あ? ああ。別に、な、何でもないさ」
「そお……う?」
やれやれ。いかんいかん。今日はこいつらと、サリアと楽しむ事。それだけに集中しよう。県営名古屋空港名古屋へ乗り付けて、名古屋第3航空のパーキングに止めた。そして車を収納する。結構これが、身内には受ける。
「お兄ちゃん、一体どこに車を仕舞ってるのよ~」
「知るか! 世界の狭間だよ!」
「それどこにあんの、兄ちゃん」
「お兄さん、すっごい不思議ですよ!」
「サリアもフシギー」
「ほらほら、サリアちゃんにも言われてるわよ?」
「サリア、これはきっと神々の御技なのさ!」
「アヤシイー」
サリア、何故さっきから片言っぽい喋り方なんだ!
「怪しいよねー」
「うん、兄ちゃん絶対に怪しいって」
「とっても怪しいですう」
「もうキリがねえ。さあ行くぞ!」
「うみー?」
「サリア、その前にヘリだ!」
「ヘリ?」
「そう。ヘリだよ」
俺達がもたもたしているので、中から神野さんが迎えに出てきてくれた。
「やあ、オーナー。今日も賑やかですね」
「あはは。今日もよろしく御願いします」
「よろしくー」
「おや、可愛い子ですね。……あれ? ま、まさかと思いますが、この子もしかして?」
神野さんが目を見開いて、俺に面を向ける。いい勘してるな。
「はは、当たり。訳あって向こうから連れてきちゃいました。俺の新妹です」
「そ、それはまた。お嬢さん、私は神野です」
「じんのー!」
「こらこらサリア、さんを付けなさい。神野さん、だ」
「はは、いいんですよ。サリアちゃん、よろしくね。日本語うまいねえ」
「はいー」
はは、元気いっぱいだな。俺が感じた不吉な感慨も綺麗に吹き飛ばしてくれる笑顔だ。
神野さんはヘリのエンジンをかけた。
「音、でかいー」
ローターが回りだす。
「かぜー、すごい風ー。魔法? 肇ー、これ魔法ー?」
「ははは。違うよ。これがヘリだ。危ないから後ろの方へ行っちゃいけないよ」
一応、うちの機体はテールローターのカバーは付いてるんだけど、子供はすぐに触ってみたがるから危ない。特にサリアはいろんな基礎知識が無いにも関わらず、好奇心が強いからな。
なんていうか、少し歳の割には子供っぽいところがある。まあ世界を越えて見聞きすれば、大人でもはしゃぐけどね。
やがて舞い上がったヘリから見る景色に、サリアがもう夢中だ。
「肇ー、凄いよー。高いー。ドルクット?」
何故にドルクット!? ここに、あんなものにいられて堪るものか~。
「違うぞ、サリア。せめてファルクットかエルクットにしておいてくれ!」
「サリア、間違えた。エルクットー!」
それ、えらい違いだからな。向こうの世界で叫んだら、大パニックになるぞ?
うーむ、神の巫女だからエルクットとも何らかの関係があるのか? 向こうでエルクットを見せてやりたいものだが。写真ならあるけど。遊び竜だから、サリアとも相性がいいかもな。




