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7-17 名古屋観光紀行

 続けて、デパート巡りをする事になった。サリアの物の買い物だ。目が真剣である。異世界のデパートの売り場を見て、最初はその広大さに固まってしまったサリアだったが、次第に陳列された商品の虜になっていったようだ。


 今日は平日でよかった。土日だと、人が多くてサリアがまたビビるかもしれない。女の買い物は長かったが、女の子の買い物もまた長かったようだ。


 だが、俺もいろいろ仕入れていきたかったので都合はよかった。貴族の子女向けにガンガン品揃えを充実させていった。


 エルシアちゃんのために、サリアの意見を参考に揃えまくった。あと、マリエールやメイリーの分もあるのだ。あいつらは多分連れてこれないからな。


 サリアと来た日には、あまりにも真剣に買い物するので、買い物に必要な日常会話の日本語を完璧にマスターしてしまった。人は熱意だけで、何かを短時間で為し得る事もあるのだ。


「ふー、疲れたー」

 もうかなり歩き回ったので休憩しようと、デパートの自販機を置いた座れるスペースにいた。サリアが日本語でこんな事を言っていると、自分が日頃こんな台詞を無意識に口走っているんじゃないかと心配になる。


「サリア、そんな言葉をどこで覚えたの」

「お母さん、亜理紗お姉ちゃん、よく言ってる」


 そうだったか。お袋はしょうがないとして、亜理紗の方は遊び過ぎだな。まあ、俺じゃなくて安心した。しかし、この子は日本語の習得が異様に早いな。合田のヤツが聞いたらショックを受けそうだ。


「さて、一揃い買い物は済んだから、いいところへ行こうか」

「いいところ?」


「ああ、異世界にはないところさ」

 それから携帯である人物を呼び出して、待ち合わせをした。


 丁度松坂屋のあたりまで南方面に降りてきていたので、そこから西へ向かってナディアパークのところを通りかかったら、矢場公園でサリアが駆け出していってしまい、思わぬ道草を食った。


 まだ時間に余裕はあるけどね。日本の子供と違って、異世界の少女には何も無いような公園が大変魅力だったようだ。ナディアパークの建物を見上げて、おおーっと叫んでいた。これも出来た当時はすごく話題になったもんだが。


 それから更に西に行くと、白川公園がある。今から行くのは、そこにある名古屋市科学館だ。もっと正確に言うなら、そこにある世界最大のプラネタリウムだ。


 親子連れに人気で、休日だとほぼ朝一番に1日分の券がすべて売り切れてしまう。だから券の入手を御願いしておいたのだ。平日なので、お昼過ぎでも最終投影の16:40のコースは楽勝で買える。この時間なら小学校団体のために行なわれる学習投影に引っ掛かる事もないし。


 科学館は公園の北側にあるので、俺達は上から回って現場に到着した。

「オーナー!」


 そう呼び止めてくれたのは、スーパーヨットクルーの世話係の杉山さんだ。まだ20代半ばの女性で、派遣会社から御願いしてきてもらっている。信頼できる筋からの紹介なので、おかしなところの息はかかっていない人だ。


「やあ、すいませんね。こちらの用を御願いしてしまって」

「いえいえ、午後は休暇をいただいているようなものですから。はい、これチケットです」


「チケット」

 サリアがもう覚えてしまったようだ。


「入場券とも言うな」

「入場券」

 これで、遊園地や映画の券が一人でも買えるな。1人じゃ出歩かせないつもりだけど。


「その子がサリアちゃんですか? よろしくね、サリアちゃん。わたし、杉山」

 と、杉山さんは少し屈みながら、屈託の無い笑顔で自分を指差した。


「杉山」

「サリア、人の名前の後には『さん』を付けてあげてな。仲間やお友達は別だけど」


「杉山さん」

 杉山さんを指して言い、次に俺を指してこう言った。


「肇」

 杉山さんの朗らかな笑い声が起こる。うーん、俺はどっちの枠なんだ? 仲間? お友達?


「よかったじゃないですかオーナー。お友達枠のようですよ」

「そ、そうだね」


 サリアはにっこりと笑うと、両手で俺と杉山さんの手を繋ぎ、プラネタリウムの列に引っ張っていった。見た事もないような大きな銀色の丸い球体に、サリアの目がずっと釘付けになっている。


 こういう如何にも人工的なキテレツ構造の建物は、さすがのグニガムにもなかったな。並んでいる間は日本語でお喋りタイムだ。そして、さっきの話題に戻った。


「サリアは、ちゃん?」

「ん? ああ。サリアは女の子で、まだ子供だからな。大人からはそう呼ばれる事が多い。さんの場合もあるけどな。男の子は君を付けられる。大人になると、男も女も君呼びだったり、さん呼びだったりするのさ。親しい関係だと、男でもちゃん呼ばわりだ」


「日本語、難しい」

「あはは、そのあたりは使っていけばすぐにわかるよ」


「オーナー。その子は、あなたの言っている事がわかるのですか?」

「ええ、我々は念話というものを使っていますから、まるでお互いの言葉を使っているように理解できます。念話はサリアも使います。片方が使っていればOKなので、サリアもあなたと自由にお喋りはできますよ。日本語を覚えたいので、わざと日本語を喋るようにしているだけなんです」


「まあ、凄いのね」

「ええ、そうですね。念話はかなりの習熟を必要とするはずなのですが。うちのメンバーも半分しか喋れる人間がいないのです」


「サリアちゃん、偉い!」

「サリア偉い」

 このドヤ顔が可愛いな。そうこうするうちに、列が動き始めた。


「さあ、始まるぞ」

 最終のお客さんが中に入り終わったら、解説係の人の説明が始まった。ここは結構解説の評判がいい。科学館だしな。


 日本語のわかるサリアには嬉しいだろう。天空に広がる星空にサリアの感嘆の声が上がる。他の子も騒ぐので、そう問題にはならないだろう。


 約50分間の人工天体ショーを見て、大興奮のサリア。まあ異世界の子で、こんなプラネタリウムを拝む子はいないだろうな。


 このサイズのプラネタリウムだと、地球上の子供でさえ、その大多数の子供は拝む事すらなく一生を終えるのだろう。


 とんでもなくお金がかかるので、普通はこれだけの規模で作ったりはしない。ここも名古屋市が運営する公共の施設だ。


 ここのプラネタリウムも、宣伝のために大企業がネーミングライツのスポンサーについている。愛知県の人間だって、せっかくそんな物があっても、面倒だからと行かない人ばっかりなのだが。行きたくても、休日はチケットが朝から売り切れで手に入らないしな。


「肇、プラネタリウム凄かった!」

 凄かった、は何度も使っていたので、すっかり板についたようだ。サリアの子供らしいストレートな表現に、俺の顔も思わず緩む。昔は亜理紗もこうだったんだがなあ。


 いや? 大学生、もうすぐ20歳になるというのに、こうだったらマズイわな。ただでさえ、遊びには熱中する性質なんだから。


 まあ、あれくらいで丁度いいんだろう。やつもそのうちには就職や結婚で、世間の荒波に揉まれにいくんだからな。俺なんかは異世界の荒海の中であっぷあっぷしているのだが。こんな兄を持つ妹も、世の中じゃ珍しいんだろうな。


今、気がついたのですが、久し振りにまとめて更新作業をしたら、何の疑問も抱かずに全て18時公開になっていました! もう今更なので、このままいきますね。

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